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サミュエル・フラー監督作品のススメ
配信情報やDVDのページなどをリンクとして貼っていますが、海外版DVDはリージョンコードが違うと再生できない場合もあるので気をつけて下さい
記事の性質上、軽くネタバレを含む可能性があります
(タイトル画像は紀伊國屋書店『ストリート・オブ・ノー・リターン』DVDの特典映像より引用)
リンクはアフィリエイト広告等ではないです
■サミュエル・フラーとは?
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来歴
1912年マサチューセッツ州ウースター生まれ。10代の頃から新聞社で働き始めて社会の暴力や犯罪を取材し、脚本家やゴーストライターをこなした。
第二次大戦時はアメリカ陸軍第一歩兵師団「ビッグ・レッド・ワン」に所属し、北アフリカやシチリア、ノルマンディ上陸作戦にも参加し、チェコの強制収容所の解放にも立ち会った。(その体験はリー・マーヴィン、マーク・ハミル主演の『最前線物語』で映画化されている)
戦後になると、自分の脚本が思ったとおりに撮られないことに不満を持ち、自ら映画監督として様々な作品を残すことになる。低予算ながら監督の個性が際立つフラー作品は、ジャン=リュック・ゴダール、ヴィム・ヴェンダース、スティーブン・スピルバーグ、クエンティン・タランティーノ、黒沢清などの著名な映画監督にも影響を与えている。
67年にクリスタ・ラングと結婚。75年に娘のサマンサが誕生。97年没。
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低予算・早撮り・小規模なB級映画
フラーは通常、B級映画の監督とされる。確かにフラー作品には低予算で小規模なものが多い。映画初監督作品の『地獄への挑戦』は10日間、『鬼軍曹ザック』はたった8日間で撮影が完了したと言われる。
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イーストウッド『許されざる者』にも直接的か間接的か影響を与えていると思われる
個人的には、フラー作品はクリント・イーストウッド作品の印象が近い。ドン・シーゲルに影響された低予算・早撮り、そして暴力や差別・社会問題への関心は何となくフラーを想起させる。フラーは脚本はもとよりプロデュースを兼ねる場合もあったので、低予算にはなるが監督の意志が色濃く反映される(一種の)インディペンデント的な映画作りを1950年代から実践しており、それは60年代のヌーヴェル・ヴァーグの精神にも影響を与えている。
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でも一応念のため書いておくが、疑問符の残る演出というか…けっこうテキトーに見える時もある。例えば初期の頃は長回しで撮影してインサートすら撮ってないからか編集が大変そうで、画面の一部がズームされてインサート代わりに挿入されてることが結構あったりする(『勝手にしやがれ』のジャンプカットの発明以前だからだろうか…)。その素っ気なさというかぶっきらぼうさというか、キッチュさも魅力のひとつではある。
フラー映画のいいところは、ちゃんと娯楽映画であること。
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フラーの描く暴力と差別
思えば、忌々しい銃弾は常に決め手となる。サライェヴォからダラスに至るまで。銃弾に言い訳などない。協定、条約、あらゆる善意の努力、あらゆる戯言! インチキだ! 火薬の発明以来、あらゆる紛争の始まりと終わりを本当に決めるのは一発の銃弾の弾道だ。
暴力のないサミュエル・フラー作品はない。それはこの世界が暴力に満ちているからだ。フラーは犯罪の取材と陸軍歩兵部隊で現実の暴力に触れた。
また直接的暴力だけでなく、構造的暴力も描写される。1950年代頃の初期の監督作から既に有色人種や女性などのマイノリティに焦点を当て、アメリカの持つ矛盾を描いている。その反骨精神がハリウッドで煙たがられ、逆にヨーロッパで評価された側面もあるかもしれない。
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権威の解体=ファルスの去勢
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フラー映画に通底するモチーフは権威の解体にあると思う。すなわちファルスの去勢だ。ラカンいわくファルスとは象徴のことであり、象徴の所有者とは土地・権利・貨幣を所有する近代的個人のことだ。ラカンによれば、伝統的にファルス(ペニス)の所有者は男性性であり、女性性とは象徴そのものと解釈される(私はこの意味で基本的には男性性/女性性のことを所有者/象徴としか形容したくない。所有者/象徴であること(性役割)は肉体的性差から疎外された傾向に過ぎないからだ。
女性性を始め銃などのファルス、貨幣や土地、掲げる旗すなわち国家なども象徴だ。よく戦争映画なんかで国のために命を懸けたり、犯罪映画で悪役が金や土地を誇示したり、ハードボイルドもので女のために命を投げ出したりするが、あれも本質的には同じ意味だと自分は思っている。
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20世紀初頭まで女性は参政権を持たなかった(=権利の所有者ではなかった)。特に公民権運動以前まで黒人を始めとする有色人種もそうだった。
『四十挺の拳銃』では大牧場を経営する女主人のジェシカ・ドラモンドはまさにファルスの所有者であるが、所有を失うことで(去勢されて)古典的なヒロインの枠に収まる。それは"去勢された女"と言えるかもしれない。
「映画は戦場だ!」vs「戦争はエモーションとは関わりがない」
『気狂いピエロ』のカメオ出演シーンで、フラーは「映画とは、戦場のようなものだ。愛、憎しみ、アクション、暴力、そして死。要するに、感動だ」と有名なセリフを言っている。
しかしフラー自身は、「戦争は、感情とは関わりがない。エモーションの不在が、戦争なのだ。その空虚さこそが、戦争のエモーションなのである」と語っている。
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言い換えれば「戦争という事象は人間的な感情とは全く違う原理で動いている」という事だと思う。例えば仲の良い戦友が居ても、その感情とは関わりなく戦死したりしてしまう。
殺人は平時では犯罪だが、戦争という状況下では肯定される。その異常性は人間的な感情とは関わりがない。資本主義社会の日常生活で大量生産・大量消費・大量廃棄のサイクルが回っているように、戦争という事象で兵隊は消費される。そのサイクルに人間の感情が挟まれる余地はない…ということだと自分は(今のところ)解釈している。
作品群に散りばめられたもの
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自身の所属部隊であった第一歩兵師団への言及が非常に多い。そうでなくともアレン将軍、テイラー大佐、ドリスコル中尉、コロウィッツ軍曹などの固有名詞が頻出する。スター・システムではないが、フラーは他にもグリフ、サンディ、チャーリーなどの登場人物の名前を使い回す傾向がある。台詞回しやアクションも同様であり……このような自己言及は複数のフラー作品を見ていると散見されるため、フラー作品は見れば見るほど繋がりの発見が楽しい。
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(「第一小児科」は誤訳。1st Infantry div.を1st Enfant div.と勘違いしたものと思われる)
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また『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』は『四十挺の拳銃』の「目線」と「歩き」のリフレインでもある… フラー監督の西部劇はノワール映画の変奏のように感じられる pic.twitter.com/Ke3j9YQmyE
— Doe774 (@Doe774) May 30, 2022
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足を持って階段を引き摺られるシーンは『拾った女』など他のフラー映画にも出てくる
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■どこからフラーに触れるべき?
『最前線物語 ザ・リコンストラクション』
"The Big Red One: The Reconstruction" (2004)
まず最初にフラーに触れるなら、この2枚組DVDが最も手堅いと思う。これはフラーの自伝的代表作『最前線物語』の劇場公開版に約50分の追加編集を施して、より監督の意図に近い162分の再構成版としたもの。
映画自体も素晴らしいが、特典ディスクの監督インタビューや作品紹介、再構成版のメイキング映像など、フラー作品の魅力を捉える足掛かりとして最適。私の生涯ベスト映画の一つです(もう一つは『ロイ・ビーン』)
Prime無料の『拾った女』『鬼軍曹ザック』『地獄への挑戦』
『拾った女』『鬼軍曹ザック』はAmazon Prime無料で見やすいので嬉しい
7/10追記:監督デビュー作の『地獄への挑戦』も追加されていた!
レンタル配信で見やすい作品
DVDが入手しやすい作品
…『地獄への挑戦』と『折れた銃剣』
…『アリゾナのバロン』と『パーク・ロウ』
インタビュー本『映画は戦場だ!』と、サミュエル・フラー自伝
インタビュー本『映画は戦場だ!』や、自伝も出ています。けっこう言ってること違うときありますが、リップサービスもあるかと思われます。
自伝はKindle版もあります。Kindle Unlimitedで無料だそうです
■フラー監督作品のミニ・レビュー
『地獄への挑戦』 "I Shot Jesse James" (1949)
西部開拓時代の強盗団を率いるジェシー・ジェームズを、懸賞金や恩赦目当てに背中から撃ったロバート(ボブ)・フォードの物語。
初監督作で既に「暴力やゴシップを消費する大衆」のモチーフが様々な形で表象されている事に気付く。ボブ・フォード自身が演じる「ジェシー・ジェイムズの暗殺」、酒場での乱闘、ジェシーの弟の裁判など…そしてその大衆や観客とは、フラーなどの帰還兵と比した当時のアメリカ国民の目線(戦争を数字として捉え、スポーツのように消費する…)や、この映画自体の観客でもあったはずだ。「溺れている4人の少女を救ったとします 4人を殺せば1面のトップです」というのはフラーの言。
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映画というフィクションでこのボブ・フォードの物語を見る私たちが構造化される
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フォスターの『夢路より』(ビューティフル・ドリーマー)が引用されるのが本当に好きだ
フォスターは『おおスザンナ』『ケンタッキーの我が家』『主は冷たい土の中に』など、
誰もが知っているアメリカ民謡の父だが、充分な対価が支払われず困窮の末に37歳で死んだ。
『アリゾナのバロン』 "The Baron of Arizona" (1950)
ジェームズ・リーヴスという実在した詐欺師の物語。彼はソフィアという孤児の娘を、石碑から書類まで改竄・捏造しアリゾナ州一帯の正統な相続者であるとでっち上げる。ウソから始まった二人の関係だが、嘘から出た誠と言えば安いものの、ウソが真実になってしまう瞬間がある。エディプス複合のために立派な象徴になろうとする男と、そんな男を愛した女の話。
この映画も『地獄への挑戦』と同様、大衆心理が描かれている…それはリンチという形によって。それは現代のインターネット社会にも通じる部分があると思う。人間の成すことは、本質的にはあまり変わっていないということを教えてくれる。
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フラー映画では一度登場した場面のシチュエーションや構図が、
後になって別の文脈や意味を伴って立ち現れてくるパターンが多い
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しかしそれは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でもメインテーマが引用された『ロイ・ビーン』の冒頭で提示される"…Maybe this isn't the way it was… it's the way it should have been."(実際の出来事と違うかもしれないが、そうあるべきだった物語)の精神でもある
『鬼軍曹ザック』 "The Steel Helmet" (1951)
朝鮮戦争は「忘れられた戦争」などと呼ばれ、題材になることが少ない。第二次大戦まで米軍は人種隔離政策を取っており、黒人や日系人は白人とは別の部隊として編成されていた。朝鮮戦争は部隊内で人種が混じって戦った初めての戦争であった。
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黒人のトンプソン伍長や日系人のタナカ軍曹は、後の公民権運動に繋がる第二次大戦直後のアメリカの人種差別問題を表象している。
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後の『バンド・オブ・ブラザース』でもあった話
それはそれとして、のちの『コンバット!』のような規模感でキャラも立っていて銃撃戦などアクションもあり、見やすくて面白いと思う。
髭面で葉巻を咥えたベテランのザック軍曹のキャラクターがいい。俳優のジーン・エヴァンスも実際に第二次大戦で陸軍工兵軍曹として従軍した。
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スピルバーグ『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』に登場する少年の元ネタ
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原語では"Let's make some money"(ひと稼ぎしようぜ)と言っている。
それは兵隊が職業の一つに過ぎないことを端的に示している
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たった8日間のスタジオ撮影、しかも戦争ものにありがちな恋愛模様だとかを絡めたヒロインすら登場しない『鬼軍曹ザック』は、ハリウッドの映画人たちに衝撃を与えたらしい。フラーは徹底して一兵卒や下士官たちの目線から戦争を描き続けたが、この映画はその代表格である。
『折れた銃剣』 "Fixed Bayonets!" (1951)
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フラー作品に頻出のドリスコルという名前も登場するのだが、何か関係あるのだろうか?
(関係ないが『史上最大の作戦』でもフラー軍曹というキャラクターが登場する)
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『最前線物語』のグリフに先立ち、敵を目の前にすると銃を撃てなくなってしまうディノ伍長が主人公となる。それはすなわち男性不能だ。
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戦争で人を殺さないのは優しさかもしれないが、そのような感情は戦争とは関わりがない。あるいは自分や仲間が犠牲になる。人間の感情と関わりなく戦争では人が死んでいく…
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特に冬期の戦場では、水虫と凍傷が一緒になった塹壕足と呼ばれる症状によって
足が壊死を起こし、あるいは切断する兵士も少なくなかった
同時代の雪景色の戦争映画にはウィリアム・A・ウェルマン『戦場』があるが、この『折れた銃剣』もまたそれを思い出させる骨太の戦争映画だ。
『パーク・ロウ』 "Park Row" (1952)
上記二作品に続いてジーン・エヴァンスが主演する、19世紀末のアメリカの新聞社を描いた歴史映画である。『地獄への挑戦』から本作までは言わば、歴史と現在とを描いた報道映画の様相があるのであって、それは新聞社を直に描いたこの『パーク・ロウ』に結実する。フラーは若い頃は暗黒街の取材や活字拾いなどをしており、新聞社を立ち上げたかったんだそうだ。
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電信網は今では「ヴィクトリア朝時代のインターネット」とも解釈されており、
情報を伝達するという基本原理は昔から変わっていないように思う
フラーの監督作は全て自身で脚本も書いているが、この『パーク・ロウ』では更に製作も兼ねている(監督・脚本・製作を兼ねたのは計10作)。少年時代を新聞社で過ごしたフラーの今作への思い入れは一際強い。
『拾った女』 "Pickup on South Street" (1953)
しがないスリであるスキップと、運び屋の女キャンディ、タレコミ屋の婆さんのモーの三人を中心に据えたフラー初期作品の傑作ノワールである。ケチなスリが運び屋の女の財布をスってしまったところから物語は展開する。なかなか途切れないカットやカメラワーク、終盤数分でパタパタと畳まれる展開が物語を語るというよりも、魅せる。
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そういった何気ない市井の声に「いつの時代も同じなんだな」というような共感を覚えたりする
『地獄と高潮』 "Hell and High Water" (1954)
『拾った女』のリチャード・ウィドマークが再び主演をする、核を巡る冷戦ものの映画。ウィドマークは前作でもそうだが、愛国心でなく金で動くキャラクターとして描かれている。潜水艦内部のシーンが続いてロケーション的にはやや退屈だが、それが緊張感というか現実味を帯びさせてもいる。この映画の主な舞台が潜水艦でなく(『東京暗黒街・竹の家』のように)各都市の景観になるなら、それがきっと007映画になるのだと思う。
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舞台は東アジア近辺の海域であり、旧日本軍の潜水艦という設定。
『拾った女』で金に汚いスリ「スキップ」役だったリチャード・ウィドマークが、
金で雇われる元軍人の艦長を演じている
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フラー映画の女性たちは男性と同様、芯のあるキャラクターとして描かれる。
フランス人の教授という設定で、多言語に精通。実際に様々な言語を披露する
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依頼者の日系人を始め、搭乗員はドイツ人、イタリア人、中国系などの国際色も豊かな設定。
女性やアジア系などマイノリティに対して最大限リスペクトを払っていると思う
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『東京暗黒街・竹の家』 "House of Bamboo" (1955)
富士山を背景に雪景色を駆ける蒸気機関車! 謎の犯罪集団のワルサーが火を吹く! そして始まる犯罪捜査……パチンコ利権を巡るヤクザの陰謀。フジヤマ、ゲイシャ、ヤクザという当時の日本のステレオタイプが丸出しのようでいて、そこに記録されるロケーション撮影された50年代の日本の姿はまさにドキュメンタリー的真実だ。
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とにかく、1950年代に日本ロケされた画が良すぎる! 屋内の場面はセットっぽくてトンデモ日本ぽいし、劇中の日本語もカタコトである場面が多いが、そういう些細なことは気にしないか読み手側で勝手に解釈してしまえばよろしい(カタコトの日本語は、移民してきた日系人という設定なのだと想像するとか)。ゴダールはこの映画の色彩の豊かさに影響を受けたらしい。
『チャイナ・ゲイト』 "China Gate" (1957)
第一次インドシナ戦争を舞台にした戦争映画。白人とアジア人の混血の女ラッキー・レッグとフランス外人部隊の傭兵ブロックの関係を中心に物語は展開していく。ラッキーは案内役としてチャイナ・ゲイトと呼ばれる要所の爆破任務を引き受ける。我が子を自由の国アメリカに移住させるためだ。
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人種差別意識の問題がこの映画でも深く取り沙汰されている。
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彼の撮った戦争映画に子供が多く登場するのはそのためだ
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黒人歌手のナット・キング・コールが元第一歩兵師団でありフランス外人部隊の傭兵ゴールディを演じており、劇中歌も提供している。
フラーは、一挺のM1ガーランド小銃を主人公にしたベトナム戦争の映画を企図していたそうだが、それが実現することはなかった。フラー監督は様々な形でアジアを描いてきたが、この映画もその一つだ。
『四十挺の拳銃』 "Forty Guns" (1957)
有名な作品の一つ。40人のガンマンを率いる女性牧場主との対峙を描く。物語はともかくとしてカメラやカットを見る作品だと思っていて、気付くとずっとカメラが回っていたりする。
男性性とは近代社会の規定する所有者のことであり、象徴(女性性)の所有を失うことは去勢されること……言わば「去勢された女」が、既にここで描かれている。
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(『四十挺の拳銃』以前には、ウィリアム・A・ウェルマン『廃墟の群盗』にあるそうだ)
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『赤い矢』 "Run of the Arrow" (1957)
北部軍に敗れ、「高貴な野蛮人」であるインディアン(ネイティブ・アメリカン)に幻想を抱く南部人の話。「南北戦争最後の弾丸」といったモチーフや構造は『最前線物語』にそのままそっくり使われているし、インディアンの騎兵たちがアメリカ軍を蹂躙するのは『最前線物語 ザ・リコンストラクション』の北アフリカでドイツ軍を圧倒するアルジェリアのアラブ人騎馬部隊そのもの。北部の将校が「南軍が消えたんじゃない 合衆国が誕生したんだ」と言いながら、苦々しくコーヒーを飲み打ち捨てるシーンがいい。
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だが彼は死んでおらず、オミーラは彼を野戦病院へ連れて行き命を救う
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『クリムゾン・キモノ』 "The Crimson Kimono" (1959)
日系人の刑事を主人公に据えたノワール映画。様々なシーンが『ブレードランナー』に影響を与えていると言われる。白人の刑事チャーリーと日系二世のジョーは同じ女性を好きになってしまうが…という筋書き。『チャイナ・ゲイト』もそうだったが、当時は異人種間の恋愛は幸福にならないという世論があったようだ。それに対するアンチテーゼの意味もあったらしい。
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『戦火の傷跡』 "Verboten!" (1959)
終戦前後のドイツの混乱を描いた映画。実際に戦地で強制収容所の様子をフィルムに収めたフラーが、ホロコーストの事実を告発するものでもある。
また、ドイツのゲリラ組織である人狼部隊が、『四十挺の拳銃』のような1950年代のアメリカの非行少年と重ねられて描かれていると思った。
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『陽動作戦』 "Merrill's Marauders" (1961)
ビルマ戦線のメリル略奪隊を描いた映画。とにかくずっと疲労困憊である。任務が終わったと思えば、また任務。フラーの戦争映画では手榴弾が多用される印象があるがこの『陽動作戦』においては顕著だ。
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『最前線物語』もこのくらいの予算とスケール感があったらなぁ……と感じなくもない。ときどき『シン・レッド・ライン』を思わせるような美しい草原の戦闘シーンが飛び出してきたりして、ビックリする。
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ラストシーンは急に資料映像が挿入されてプロパガンダっぽくなるが、それは『西部戦線異状なし』のルイス・マイルストンの『地獄の戦場』もそんな感じだった。軍が協力した戦争映画なんて大体そんなもんだ。
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銃でなければ、石でもナイフでも使う! 暴力の最も原始的な形だ
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批評家いわく「映画はリアルな描写なのに、最後のシーンだけ嘘くさくなる」と評したそうだ。
これに対してフラー自身は「フィクションであるはずの映画が"リアル"になり、本物であるはずの軍事パレードがウソになった」というふうに述べている
『殺人地帯U・S・A』 "Underworld U.S.A." (1961)
父を殺された復讐のために生きる男トリーを主人公にしたノワール映画。『ショック集団』『裸のキッス』と合わせてノワール映画三部作として見ると良いかもしれない。『拾った女』よりも正統派なノワールっぽいと思う。
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『ショック集団』 "The Shock Corridor" (1963)
有名な作品の一つ。精神病院で起きた殺人事件の調査のために、精神病を詐病して取材する記者の話。精神病の描写はなんとなく二重人格っぽいというか、「正気と狂気」の状態が完全に分離しているように描かれていて、精神病そのものというより暴力・差別・戦争などのアメリカという国の病理を描いているのではと感じる。
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『裸のキッス』 "The Naked Kiss" (1964)
これもまた有名作の一つ。素晴らしいオープニング。元娼婦のケリーは新しい街で、身体障害を持った児童の看護婦として新しい人生を歩み始めようとするのだが……という展開。そしてこれは、西部劇やマカロニ・ウエスタンで使い古されたパターンのミラーリングでもある。子供は未来そのものであり、『鬼軍曹ザック』や『最前線物語』または『ザ・シャーク』などでも繰り返される子供に対しての慈愛が、この映画でも描かれている。
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『シャーク!』 "Shark!" (1969)
この映画はスタントマンが事故で死亡している(冒頭のクレジットで弔辞が述べられている)。そのためフラーは「監督のクレジットを外してくれ」とまで言ったが、プロデューサー側が強行して映画に使用し、あまつさえ事故を宣伝材料にしたそうだ。フラーは自伝でもこの事を強く非難している。
しかしながら、映画自体はとても良い。日焼けしたバート・レイノルズがときどきショーン・コネリーのようにすら見えてくる。娯楽映画バージョンの『気狂いピエロ』とも言えるし、船のシーンは『太陽がいっぱい』も思わせる。
自分は冒頭の、息子を失くした母親の短い場面で既に「あ、この映画、めっちゃ面白いっすね」と思った。
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『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』
"Dead Pigeon on Beethoven Street" (1972)
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そこで偶然隠れた部屋がベートーヴェンの生家であることが分かり興奮したのだが、
その時一緒に行動していたジョンスンに説明しても彼はベートーヴェンの事を知らなかったらしい
この映画は銃声のSEによってベートーヴェン通りに撃ち落とされる鳩と、「おい、お前! ビタミンCを失ってるぞ」という劇伴の歌詞から始まる。
ディレクターズ・カット版では更に映画の冒頭に、キャストやスタッフたちが道化の衣装を着てケルンでのカーニバルの様子(ロケ撮影)がインサートされる。まさに字義通りの『気狂いピエロ』というわけ。
映画は娯楽でありフィクションなのだが、ウソが真実になってしまう瞬間がここにはある。チープな演出が説得力を持って現れてくる場面には感動すら覚える。『最前線物語』はフラーの中核に据えられた物語だが、『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』は文句なしにフラーの最高傑作だと思う。
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ドイツのバンドCANによる劇伴もサイコー。ボーカルはダモ鈴木。
最高の映画なので、字幕ファイルを作成しました。日本語版が出てほしい
『最前線物語』 "The Big Red One" (1980)
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言わずと知れたフラー監督の代表作。劇場公開版は本当に多くの場面がカットされていて、リコンストラクション版を見た後だと違和感やシークエンスの不在を感じてしまうのだが、カセリーン峠での敗退、花飾りの付いたヘルメット(これはアンソニー・マン『最前線』への言及か)、戦車内での出産、精神病院での戦闘など、重要なシーンはちゃんと残されている。
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それはドイツ軍の「死んだふり作戦」を本部に報告する符牒だと思われる
(ポッサムはタヌキと同じく擬死行動をする生き物)
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それを提案したのは奥さんのクリスタ・ラングだったらしい
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切断されてプカプカと海に浮かぶ手首のイメージが基になっているらしい
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フラーの映画でズームアップされるということは、それに意味があるということだ。
分かりやすい解説や意図の明示などはされない――あるのは「仄めかし」や「含み」だけだ
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手榴弾を投げて制圧するシーンがリコンストラクション版ではカットされていて、
代わりにバズーカを撃つシーンに繋がれている。手榴弾の投擲は繰り返されるモチーフだから、
個人的にはどちらも捨てがたいと思うが、両方見るという手がある。
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個人的にはリコンストラクション版のほうがオススメ。80~90分前後の映画がほとんどのフラー作品において、160分を超える本作は実にフラー映画二本分に相当する(?)。残念ながらディレクターズ・カットではないが、劇場公開版において失われたシーンの多くが復元され、あるべき形になっていると思う。リコンストラクション版を見てから劇場公開版を見ると、不自然なカットや尻切れトンボになっている場面、回収されなかった伏線の多さに気付くはず。
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しかしその結末はフラー的だ
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正気と狂気の境界と共に、戦争と平和の境目も『最前線物語』の主題だ
『ホワイト・ドッグ ~魔犬』 "White Dog" (1982)
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アメリカで上映禁止になった曰く付きの作品。フラーは59年にテレビシリーズのパイロット版として『Dog Face』という北アフリカ戦線の戦争ドラマを撮っており、そこにドイツ軍の軍用犬が題材として取り上げられていた。
『ホワイト・ドッグ』は攻撃犬として育てられた(殺人兵器として造られた)帰還兵の話でもあるし、被虐待児童の物語でもあり、そして人種差別の話でもある。犬の視界はノワール映画がそうであるように、白と黒のモノクロームの世界である…
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『スター・ウォーズ』を扱き下ろす場面があって笑った
『ストリート・オブ・ノー・リターン』
"Street of No Return" (1989)
クリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』や『運び屋』が彼の締めくくりであるように、この映画もまたフラー映画のあらゆる要素を想起させる。主演のキース・キャラダインは若い頃のリチャード・ウィドマーク(『拾った女』『地獄と高潮』)を思わせるし、あるいは晩年のフラー監督自身のイメージが重ねられているように思う。
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しかし何と言うか、妙な映画だと思う。説明不足に感じるのに何が起こってるかは分かるし、娯楽映画なのにアクションは美化されず暴力として描かれるし、ご都合主義と言うには妙に落ち着いた演出で、かと言って演技が過剰でないわけでもない。しかしその物語の重さにリアリティを感じさせられて、不思議と映画として成立している。
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スタジオにカットされてしまった『最前線物語』の報復である
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■BOX版情報
傑作選1には『地獄への挑戦』『折れた銃剣』が収録されています
傑作選2には『アリゾナのバロン』『パーク・ロウ』が収録されています
DVD-BOXには『ショック集団』『裸のキッス』『ストリート・オブ・ノー・リターン』が収録されています
BD-BOXには『ショック集団』『裸のキッス』『チャイナ・ゲイト』が収録されています
■撮影風景など
AP通信のニュースで使われたらしい『最前線物語』の撮影風景。
http://thysockersenfilms.com/TOF/Sam_Fuller.html
Thys Ockerson氏が公式でアップしている『最前線物語』のメイキング映像。
![](https://assets.st-note.com/img/1709677240598-Wm1SbxRBJy.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1709676962589-NGdXREXC4Y.png?width=1200)
自分の小説に出てくる少女兵士のキャラクターの源泉になりました
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