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光は常に正しく在り その⑪:意思の都市

「いつ死んでしまっても良い」

長い間、ずっとそう思っていた。けっこう最近まで。この身体が生きようとしているのは、ただ動物的な本能がそうさせるだけで、精神は「生きていたくなる積極的な理由」を持ち合わせていない。そう感じていた。

「じゃあ、今はどうなのよ?」というと、何も思っていない。ような気がする。

どうやら、そういうことを考える空白がスッと消えてしまったみたいだ。

例えばぼくは、わりとこだわりが強い人間だし、誰かや何かに対する期待も強く持ってしまう部分がある。だから、期待していたことと反対のことが起きると、嘘をつかれたような気持ちになったり、嘘をついてしまったような気持ちになったり、裏切られたり、裏切ってしまったような気分になっていた。

今はもう、そういうこともすこぶるどうでも良いみたいだ。これは、ややもすると「期待することをやめてしまった」とも取れるけど、それならそれで別に構わない。

側から見た事実がどうであれ、ぼくは、ぼくの心の中に「意思の都市」が建設されたと感じている。その街は、ぼくがこれまで培ってきた美学を動力源にしているから、ごうごうと歯車が動けば、何も考えなくても、全自動で美しい方向への進み方をぼくに示してくれる。

もう、これまで十分考えてきた。自分の立ち位置や役割、生きる意味。存在する理由。自分が提供できる価値。自分の居場所はここなのかな、ここにいてもいいのかな、そういうことを散々考えてきたけど、もう完全に飽きてしまったようだ。

たくさん考えてきたこと、思ってきたこと。それは法律として、街頭の灯りのようなインフラとして、人々が生活していく上での文化として、この都市の基盤になっているから、もう何かを立ち止まって考えなくても、思ったことをそのままやれば、浮かんだことをそのまま言えば、きっと素敵な結果が起こるって、1ミリも疑うことなく信じていられる。

ぼくはきみが笑ってくれると嬉しいから、笑わせようとして生きるけど、別にきみが笑ってくれなくても、それはそれで良いんだ。

ここまでこれたらもう、あとはどれくらいビビッドに自分自身で呼吸をしていられるか。もう、それだけ。だから、見栄を張ったり、失敗に怯えたり、できないことを隠したり、そんな発想すら今は一滴も持ち合わせていない。考えようによっては、ネガティブに捉えられるそんな部分も含めて、全部が自分だって思えているから。ははは、やっぱりぼくってお茶目だね。

ぼくは多分、どこにいてもわりと上手くやれるし、誰とでもそれなりに仲良くなれる。その分、グッと心の距離を縮めるのは苦手で、それがこの心を孤独にさせてしまう。この先も、結局誰かの1番にはなれないと思う。

だけど、それがどうしたというのだろう。

ずっと孤独ならば、この心だけが世界。フランツ・カフカは「きみと世界が対立した時は、世界の側に立て」と言っていたけど、ごめんね。ぼくはぼくの街を守っていく。

ははは。いま、何もかもが楽しくて、何もかもが笑えるんだ。

執着はきっと呪い。好きなものだけを見ていると、好きなひとたちとだけ過ごしていると、どうしてそれが好きなのか、どうしてそのひとと一緒にいたいのか、わからなくなってしまうんだろうね。そこから離れることで、改めて見えてきたものもたくさんある。そして、再び交差した時の「あ、やっぱり好きだな」っていう美しい気持ち。ぼくは久しぶりに感じられたよ。うん、ぼくはやっぱり、「だから好きなんだ」って思う。

あらゆることを決めつけることなく、軽やかに、自由に。ぼくには還る場所なんてないと思ってたけど、今はこの心にできた街がきっとすべての指針。そう思うと、どこにだって行ける。

どこにだって行けると理解してるから、「ここにいなくちゃいけない」「ここからいなくなったら傷つけるかもしれない」「そのためにいろんなものを犠牲にしてでも守らなくちゃいけない」なんて、全く思っていない。何にも強制されず、いたい場所にいる。ただシンプルに「ここにいたい」と思っている。ぼくは自分の意思でそれを選んでいるんだよ。

天真爛漫でいるっていうのは、ずっと笑顔でいるということではないんだよね。だから、飾らず、気取らず、とか、もうそんなことも考えていない。心が創った街の法律に任せていれば、ぼくは全自動で自分の好きな世界をずっと歩いていける。

あとはその「審美眼」を磨いていくだけ。美しいものと出会ったときに、自分の表現のやり方でその美しさを「翻訳する」精度を上げていくだけ。

そう、この街の法律はたったひとつ。
「ただ、美しく」。

まぁまぁ。きみの言いたいこともよく解るよ。「言葉」だけでは、不信感を募らせるだけでしょう?だから世の中には「言動」って言葉がある。それなら、「言葉と心」。それらはぼくのこれからのすべてで見せていくのさ。

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