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第5回【対談】患者のためにこそ医師は自分の「やりたい」を貫いて

「医師100人カイギ」について

【毎月第2土曜日 20時~開催中!】(一部第3土曜日に開催)
「様々な場所で活動する、医師の『想い』を伝える」をテーマに、医師100人のトーク・ディスカッションを通じ、「これからの医師キャリア」を考える継続イベント。
本連載では登壇者の「想い」「活動」を、医学生などがインタビューし、伝えていきます。是非イベントの参加もお待ちしております!
申込みはこちら:https://100ninkaigi.com/area/doctor

発起人:やまと診療所武蔵小杉 木村一貴
記事編集責任者:産業医/産婦人科医/医療ライター 平野翔大

 今回は、講演会「医師100人カイギ」当日のパネルディスカッションの様子を、総合司会を務めた私・平野がお届け。若くして異色のキャリアを選んだ先生方に、自身のターニングポイントと、その時の思いなどについてお伺いしました。

近藤崇弘先生

聖マリアンナ医科大学卒業後、慶應義塾大学大学院にて医工連携研究を開始。研究者としてのキャリアを続ける中で、自分の研究成果を社会実装するために株式会社ALANを創業する。

小森將史先生

まちだ丘の上病院院長として、“地域を支える“をミッションに、医療を通じてその人らしさを追求する。古民家を改装した複合施設「ヨリドコ小野路宿」を開設、地域の人が自然に集まれる場を提供している。

伊藤玲哉先生

「誰のための医療なのか」に思い悩む中で出会った終末期患者の「旅行へ行きたい」という願いをきっかけに、「医療×旅行」のトラベルドクターを創業。経済産業省「始動 Next Innovator 2019」5期生。

小徳羅漢先生

鹿児島県立大島病院産婦人科。茨城県出身。高校の修学旅行で「離島医療」と出会い、合同会社ゲネプロのプログラム等を経て奄美大島へ。治療や薬で治せない“孤独”という病を治そうと「暮らしの保健室」を同地域に開設。

重見大介先生

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。Women's health臨床研究アカデミア代表、株式会社Kids Public 産婦人科オンライン代表として、「産婦人科×公衆衛生」をテーマに多方面で活躍中。

■司会:平野 翔大

都内大企業 統括産業医、産婦人科医、医療ライター。「医療とヘルスケアの間に、医療者がアプローチする意義がある」という考えから、「越境活動医」として既存の医師の枠にとらわれずさまざまな活動を展開する。「医師100人カイギ」キュレーター・総合司会。

※以下、敬称略


起業に退局、院長職の打診…
「最初の一歩」は大変だった?

平野:今回のテーマは「キャリアのターニングポイント」です。本日お集まりの先生方は、これまでの100人カイギの中でも比較的若い先生方が多いのですが、新しいキャリアへの最初の一歩を踏み出した際、ハードルの高さを感じませんでしたか。

近藤:僕は、起業することにハードルの高さはなかったです。本当に「ノリ」で起業したので。ただ、研究への未練はありました。研究者でやっていけると思っていましたから。

 でも、ビジネスを考えていると、そちらでの課題も多くて、解決しなければと思っているうちにハマっていったんです。自分のオリジナリティが高まったことで、reputationも上がりましたし。飛び込んでみたら、そちらのほうが自分に合ってたということです。

重見:僕も近藤先生と似た考えです。いわゆるsunk costという概念があります。「今までやってきたことを無駄にしたくない」「これだったらやりやすいから続けたい」というものです。僕はsunk costをもったいないと考えてしまうタイプなんです。

 医局をやめた時も自分にとってはあまり大したことじゃないと思ったし、将来臨床医に戻るのであれば、その時に「専攻医からやり直させてください」と頼めばいいんです。プライドをなくしてしまえば、ブランクはなんのリスクでもない。一歩を踏み出すときに、そういう考えは必要かなと思いますね。

伊藤:僕が一番怖かったのは、「今やるか、一生やらないか」でした。初めて患者さんに「旅行に行きたい」と言われた時の思いを、10年後も変わらず自分が持てている自信がなかったんです。10年後は結婚しているかもしれないし、役職があるかもしれません。

 今やらなかったら絶対後悔する。いつでも戻れるし、今やってみよう、と。思い切りはけっこう良かったと思います。

小徳:僕は落ち着きがないので、同時並行でいろいろやり始めちゃうって感じです。やり始めてから、最終的に収拾がつかなくなってしまうことがよくあります。

 僕は、一度あきらめて閉ざしていた高校の時の夢が、大学の病院見学の時に、またぷくぷくぷくと、「よみがえった」という感じでした。一番大きかったのはゲネプロの齋藤学先生との出会いです。オーストラリアに行って視野が一気に広がって、「これは進んでいい道なんだ。世界では離島医療って普通なんだ」ということがわかったことが良かったですね。

小森:海外の大学院を出て、亀田病院にいながら療養型病院の院長になる時に、「そんな人いないよ」って周りがびっくりしていましたね。

 でも、それって僕にとってはなんでもないことでした。環境を変えることで新しい課題が見えますし、そこで得た見地や人との出会い、そのサイクルによって回っていくという成功体験があったので、新しいところに飛び込むことにハードルは感じなかったです。僕は簡単ではないほうや、ユニークなほうにワクワクするので、そちらを選んできました。

●司会・平野のひとこと
 まさに医師であることの「価値」が一番わかりやすく生きるのが臨床であり、特に資格や学位の取得は時間と資金を投じてこそ得られるものです。しかし、資格や学位を活かせる場所は意外と幅広いもの。いわゆる「王道」ではないにしても、このようなキャリアを歩んだ先生方に共通したのは「思い切り」。
 まずはやってみよう、また戻ることもできる、と思い切った決断をされているのが印象的でした。

「やりたいこと」に立ちはだかるお金問題
――医師の解決策は

平野:ワクワクすることというお話がありましたが、自分のやりたいことと現実とのギャップにはどう対処されたのでしょうか。

 特に、今回ご登壇いただいた先生方の中には、起業された方も多くいらっしゃいます。継続可能性を高めるため、お金をどう生み出していくかという問題もあったのではないでしょうか。

近藤:お金については思うところがあります。医師の先生方や研究者の多くは、大事な取り組みについてお話しされる時、自分のことばかり考えていて、本当にそれを社会に広めるようとしているのか、疑問に思うことがありました。

 社会に広めるためにはスケールしないといけないし、となるとお金が必要だと思います。無料でやっていくと、その幅でしか広げていけないので。本当にいいことをやるためにはスケールをして、そのためのお金が必要だということは僕の一つの答えです。

伊藤:僕も同じ考えで、お金は手段として必要だと思っています。自分の場合は何人の旅行を叶えられるかが重要で、目の前の方となると一生かけても2500人にしかならない。何百万人の旅行を叶えるには、そのための施設・設備を買うお金が必要になります。手段という点でお金は重要だと思います。

重見:scalabilityを保つためにはお金が絶対に必要です。一つ思うのは、将来のスケールのためにいったんリスクを飲むという考え方に、あまり慣れてない人が多いということです。でも、それができないとビジネスは基本的に成り立たない。

 ワクワクすることを数年かけて大きくしていくために、最初にリスクを取るという考え方は必要です。

小森:病院経営の観点からお話しします。「患者さんのためにいいことをやりたい。でもお金にならない。けど労働力は必要」。そういうとき、他の医療者をどう動かすかですが、僕はお金のことを前面に出さず、皆の思いや患者さん目線を大切にして、スタッフにメッセージを伝えています。

 お金の部分は大切ですが、僕の中では、お金は後からついて来ると思っています。社会的意義があると認められれば、後から必ずついて来ると信じてやっています。

小徳:小森先生がおっしゃるように、社会的にいいこと、必要なことは絶対にお金がついてくるという実感はあります。

 僕の場合は小さな投資ですが、例えば「暮らしの保健室」では、少しお金を出して、いい看板を作りました。そうしたら、研修医の仲間が「かっこいいですね」って集まってくれたんです。町中でコーヒーを配っていても、怪しい人ではなくちゃんとした人たちなんだって地域の人が認めてくれました。まずは小さな投資からやっていくのもありなんじゃないかと思っています。

●司会・平野のひとこと
 
どうしても医療や福祉の領域だと、「儲ける」ことに対する抵抗感もしばしばあります。しかし伊藤先生の話にもあったように、資金がなければ広がることはかなり難しい。拡大するためには、一度リスクを取る必要がある。
 きちんと「持続可能」なシステムを作るために、意義のあることで利益を出していくことが大事である、という認識が共通していたのが印象的でした。

医師であることに誇りを持ち、
自分のやりたいことを大切にしてほしい

平野:最後に、今日の議論を踏まえて、若い医師たちへのメッセージをお願いします。

小徳:夢は諦めないでいいんじゃないかと思います。ワクワクすることに向かっていって、その中でできた仲間を一生大切にしていってください。

伊藤:実習先で違和感を覚えることがあると思います。身体抑制されている高齢の方が、歩かせてくれと言っているのに歩かせない。そんな現場を見て、「自分は誰のために医療をやっているんだろう」というのが自分の原点でした。

 僕は「患者さんのための医療をやりたい」と思っていた時に、たまたま出会った患者さんのおかげで「旅行」を見つけられました。皆さんも、これからいろいろな患者さんと出会うと思いますが、その中で「誰のためか」という問いを忘れずにいてください。

小森:自分の人生なので、自分のやりたいことに注力するのはいいことだと思います。輪廻じゃないですが、自分を大切にすることが、結局は「誰かのため」になるんです。自分の感情や思いをケアしてあげることで提供できる医療があると思います。ですから、皆さんも自分を大切にしていってほしいと思います。

重見:目の前の人に最善を尽くすというのは医療の本質です。ですが、何かの上流を考えるということももう一つ大事なこと。例えば僕が、子宮頸がんで苦しむ人のために難しい手術をたくさんやっても、HPVワクチンが広まれば、そもそもそんな手術はいらなくなるかもしれない。だったら、なぜワクチンを広める方で活動しないんだという思いになる。

 そういったさまざまな課題にもっと産婦人科医がアプローチできれば、社会全体を良くできるかもしれないのです。今回、皆さんが各分野でそういうところに目を向けられるきっかけになればうれしいです。

近藤:いわゆる「医者」ではない側から言いますと、皆さん、もっと自分が医師であることをすごいことだと自覚していただきたいと思います。ビジネスコンテストなどで他の方の話を聞くと、規模が小さいし、課題意識も低いと感じます。

 でも、医師は課題がよく見えているし、思いがすごくある。しかも、もともとのスキルが高くて、医師免許も持っている。こんなすごい人たちはいないので、皆さん、自分たちを誇っていただきたいんです。自分が持っている課題を、ちょっと解決できないかと思って、少し踏み出してみる。帰ろうと思えば帰ってこられますから。

 今日登壇された先生方は、そういうフックを生かしてこられた方です。今日は、その話を聞けただけで参加した意味があるんじゃないでしょうか。ぜひ皆さんにもがんばっていただきたいと思います。ありがとうございました。

まとめ

 医療現場にはさまざまな「問題」が存在しています。そしてそれに一番近いところで触れられる職業の1つが、医師です。だからこそ、少しの「違和感」を「違和感」で終わらせずに、「課題」にして、それを解決するために、自分には何ができるのだろうか、という視点を持ちながら、医療に、患者に向き合い続けることが大事。そんなお話が聞けた時間だったと思います。

 この場・記事を通じて、少しでも「歩みだす」方が増えてくれたら嬉しいと、司会としては思っています。

本記事は、「m3.comの新コンテンツ、医療従事者の経験・スキルをシェアするメンバーズメディア」にて連載の記事を転載しております。 医療職の方は、こちらからも是非ご覧ください。


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