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第19回【対談】勤務医か起業か。リスクと自由のバランスはどこに?

「医師100人カイギ」について

【毎月第2土曜日 20時~開催中!】(一部第3土曜日に開催)
「様々な場所で活動する、医師の『想い』を伝える」をテーマに、医師100人のトーク・ディスカッションを通じ、「これからの医師キャリア」を考える継続イベント。
本連載では登壇者の「想い」「活動」を、医学生などがインタビューし、伝えていきます。是非イベントの参加もお待ちしております!
申込みはこちら:https://100ninkaigi.com/area/doctor

発起人:やまと診療所武蔵小杉 木村一貴
記事編集責任者:産業医/産婦人科医/医療ライター 平野翔大

今回は、講演会「医師100人カイギ」当日のパネルディスカッションの様子を、総合司会を務めた私・平野がお届け。自分の道を見据え、フットワーク軽く活躍されている先生方に、組織とキャリア形成の関係について語っていただきます。

井上祥先生(株式会社メディカルノート)
鈴木幸雄先生(コロンビア大学メディカルセンター産婦人科)
薬師寺泰匡先生(薬師寺慈恵病院 院長)
森剛士先生(株式会社ポラリス)
中島梨沙先生(奈良県 初期研修医1年目)


「医師100人カイギ」当日のディスカッションの様子。左上から時計回りに、中島先生、井上先生、薬師寺先生、司会の平野先生、森先生、鈴木先生

※以下、敬称略

やりたいことのために
リスクテイクは必須?

 平野:今回のテーマは、「動き続けること」についてです。医師という職業は、キャリアを積んでいく過程でさまざまな拘束を受けるものです。そんな中でも、本日ご登壇いただいた先生方は、ご自身で選んだ道で精力的に動いてこられました。
 そこでまずは皆さんに、動き続けるために必要なことは何かを伺いたいと思います。

薬師寺:僕は自分の好きなことをしているだけですね。例えば大学時代は、朝6時にプールで4km泳いでから大学に行き、午前の講義・実習を受け、昼ご飯を食べながらチェロの練習をし、午後にまた講義を受けて、午後5時からまた6km泳いで、アルバイトをして、夜に楽器の練習をしたり勉強をしたりして寝る。そういう生活をしていました。

 とにかく好きなことをする、余計なことはしないということです。今もそうです。僕は救急を好きでやっています。興味があることに全振りをしてきた結果が、今の状況だということです。

森:動き続けるためにどうしたらいいか、僕は一度も考えたことはありません。僕も薬師寺先生と同じく、好き勝手やっているだけですから。

 中島先生がプレゼンの中で「多動」ということをおっしゃっていましたが、世の中を変える人には、どこかそういうところがあるのではないですかね。「これはリスクがあるからやめよう」「無理はしないでおこう」といった、制止する何かが欠けているのかもしれません。今回登壇されている皆さんには、そういうリスクテイクをしてしまうところがあるように私は感じました。

井上:私もわりと自由にやらせていただいてきたとは思うのですが、会社の代表取締役としての立場から、やはり株主様からお預かりした資金を元手にしてお仕事をさせていただいている意識はとても強くあります。

 弊社は第三者割当増資で、各企業様から投資していただいております。予算・実績を報告しなければなりません。そういう意味では、いきなり前言撤回ですが、私は自由がないとも言えるかもしれません(笑)。

薬師寺:確かに、お金について考えることは本当に大事です。私も、基本的には理事会の承認がないと絶対に動きません。病院を建て替えるときも、月1000万円の収入を出すためにはどうしたらいいか、どんな努力をすべきかを、ちゃんと皆で考えて進めてきました。

鈴木:僕も基本的には自分の好きなことをしているつもりですが、皆さんと違って、古典的な医師のキャリアの中で動いてきました。医局や大病院などでは、時に望まないこともしなければならず、そういったキャリアの中でも、どうすれば自由なこと、やりがいのあることをできるかが僕のテーマでもあります。

 僕は傍から見ると、すごく計画的に逆算してキャリアを積んできたように思われがちなのですが、実際は、全てを自分で決めてきたわけではなく、人から誘われたところに乗っかったところから始まることが多いです。でも、そうやって、うまく人に流される力がキャリアドリフトを生むのではないかとも思っています。

中島:皆さんのお話をうかがっていて、リスクテイクする人って周りから見ると危なっかしいですけど、リーダーというのはそれぐらいでいいのかもしれないと思いました。

 ある人からこんな話を聞いたことがあります。豊臣秀吉の時代がすぐに終わってしまったのは、秀吉は農民出でありながらも天下が取れたように、本人一人でなんでもできてしまうほど優秀だったからだ、と。

 徳川家はトップが少し抜けているところがあって、だから下の人たちがなんとかしようと支えてきて、そういう組織のほうが長く続くものなんだ、と。ですから、リスクテイクをする人がいても、それを補ってくれる人がいるかどうかが重要なのだと感じました。

●司会・平野のひとこと
 明確に「好きなことしかやらない」と言い切るリーダー、そしてその中で果たさなければならない義務を理解する。そうして取れるリスクを取りながら進んできたのが今回の登壇者だったのかもしれません。好きなことに突き進み、自分のやりたいことをできるように努力する、その積み重ねこそがキャリアドリフトを起こし、思わぬ方向に人生を振り向かせているような感じを受けました。

3人のリーダーが語る、理想のリーダー像

 平野:話題がリーダー論のほうに移ってきました。確かに、どこか抜けているトップが理想的であるという考え方も一つの説としてありますね。本日は3人の先生方がリーダーという立場にいらっしゃいますが、ご自身のことも含めて、理想のリーダー像についてお聞かせいただけますか。

森:組織は、トップで決まります。そして、トップ以上に育つ組織というものはありません。それは明白だと思います。ですから、僕はいかに自分を大きくするかばかりを考えてきました。

 おすすめしたいのは、できるだけ医師以外の人と付き合って、人脈を広げることです。人は自分の周りにいる人たちの平均でできているとよく言われます。周囲にいるのが医師だけだと、平均しても自分は医師なんですよね。ですから、僕は意識して医師以外の人と交流を深めるようにしてきました。僕はもう医療の世界からは出てしまって、最近では新しいスタッフから「森代表って、本当に医師免許を持っているんですか」と言われるぐらいです(笑)。

井上:トップとして重要なことが2点あると思います。一つは組織の意思決定をしっかり行うこと。もう一つは、適切にリスクを取っていくことです。

 ある程度事業を進めていくと、ここは踏み込んで進まなければならないという瞬間があって、そのときに、適切なリスクを取り、適切な意思決定を行う必要があります。それがトップとして求められている役割だと思っています。

薬師寺:歴史を振り返ると、ローマ帝国にしろ、ロシア帝国にしろ、いい教育者がいなかったようです。教育に失敗すると、組織は長続きしないんですね。ですから、持続可能な組織のためには、教育が一番の肝だろうと思っています。

 僕はあと9年で院長を辞めると、院内で公言しています。それまでに次の人をしっかりと育てるのが僕の責任です。いかに僕が病院を引っ張っていくかではなく、いかに自分の代わりを育ててバトンタッチするかを考えなければ、サステナビリティは担保されないと思います。

組織に属しながらやりたいことをするには?

 鈴木:質問したいことがあります。皆さんは組織のトップとしてイノベーションを起こしてきた方々であり、イニシアティブを持っておられます。しかし、多くの医師は、大学病院や一般病院などで、勤務医としてイニシアティブを取るのが50代、60代になってからになります。

 ただ、イニシアティブを取ったからといって、自分がやりたいことをできる世界ではないですよね。そこで僕がいつも考えるのは、嫌なこともやらなければならない世界で、一人一人がどのようにやりがいを持ってキャリアを積めるのかということです。ぜひ皆さんにご意見をうかがってみたいです。

薬師寺:総合診療医や救急医は、積極的に地域の病院の後継ぎに名乗りを上げていくべきだと僕は考えています。それなりのキャリアを積んで、地域医療に関するビジョンをしっかりと語ることができれば、「後継ぎになるつもりでこの病院に来ました」と言って歓迎されないはずがないと思うんです。

 近隣の医療機関と連携を取りながら地域医療のビジョンを持ち得るのが、総合診療医や救急医の強みだと思います。ですから、地域医療の担保を考えたときに、病院の後継ぎになるというのが、総合診療医と救急医にとって今後のキャリア選択の一つになってくると僕は信じています。僕は薬師寺慈恵病院の4代目院長ですが、薬師寺家の人間でなくても、他の地域でそうしていたと思います。

井上:代表取締役という私の立場上、少しずつ組織に自分の仕事を任せ、ミドルマネジメントに任せていかなければならないのですが、それはけっこう難しいんです。常に思うのは、私自身の職務権限の中で、勇気を持って自分を外して、人に任せていかなければということです。

 「任せたい」というのは私の視点からですが、逆に組織の中でキャリア形成をしていく側から考えると、「これは少し背伸びをすればできそうな仕事だ」と思えたら、積極的に受け持って勉強をしてみていただきたいです。

 そこから頭角を現していくのも一つのやり方なのかな、という気がします。というより、私の立場としてはそういう方、つまり任せられる方がいると助かるという思いがあります。

森:僕から言えることは、自分で株式会社を立ち上げるなり、病院を作るなりするしかない、ということです。組織の中にいる以上、イニシアティブを取ること、自由なことをすることは難しいのではないでしょうか。

 例えば、医局に属しながら会社を立ち上げることはできないのですか。

鈴木:できると思います。ただ、そのための時間もノウハウもないことが問題なのかな、と。そこを中島先生がおっしゃるような、手伝ってくれたりガイドをしてくれたりするメンターがいてくれるといいのかもしれません。しかし、なかなかそういった存在が見つからないわけです。

中島:あるメンターの方に、将来何か事業をやりたいと言った時に教えられたのは、「起業だけが事業をするということではない。小さなステップから大きなステップまで、やりたいことはいろいろできるんだ」ということです。

 私は初期研修1年目ですが、病院の中でやりたいことがあったので、それを企画書に書いて提出しました。そうしたら、勉強会をさせてもらえることになったんです。スモールステップって、想像しているよりもっとスモールにできるんですよね。そういうことの積み重ねが、自分の自己効力感につながっていくのかもしれないと思っています。

薬師寺:それはすごくいいと思います。僕も1、2カ月に一度、サクソフォン四重奏の演奏会を自分たちで企画してやっていますが、いかに赤字を出さないか、どう宣伝するかなどを皆で考えています。そういう些細なところから社会の仕組みやリーダーとしてのマネジメントなどがわかってくるものなんじゃないでしょうか。

 ですから、組織の末端として一つの駒になるだけではなく、小さなことからでもできることはあるはずなんです。そうやって実体験を重ねながら、組織のマネジメントや、他の組織との付き合い方を学んでいくことも大事なのだろうと思います。

まとめ

 医師はそもそも医療現場におけるリーダーとしての役割があります。だからこそ、広い視野をもって、適切な意思決定・リスクコントロールを行う必要があります。しかしいきなり大きな意思決定ができるわけではない。学生の活動から、こういった100人カイギの運営も含め、小規模なものから積み上げて大きくなっていくものと感じました。

 私も19回にわたり司会・運営をする中で、多くのことを学んできました。小さな活動ですが、こうした積み重ねが、登壇者の皆さんのような活動につながるのだと、強く感じた時間でした。

本記事は、「m3.comの新コンテンツ、医療従事者の経験・スキルをシェアするメンバーズメディア」にて連載の記事を転載しております。 医療職の方は、こちらからも是非ご覧ください。


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