フロセミドの持続投与に意味があるかを考える【vs ボーラス投与】
今日は小話です.
フロセミドの持続投与をみたことありますか?
あれって意味があるんでしょうか?
よく色んな本に書いてあるエビデンスをピックアップしつつ,個人的な意見を紹介します.
DOSE 研究(N Engl J Med. 2011 Mar 3;364(9):797-805.)
・急性心不全に対して
➀持続投与 vs ボーラス投与(12時間おき)
➁高用量(元々内服していた用量の2.5倍) vs 低用量(元々内服していた用量の等倍)
でフロセミドを使用・比較
・結果
1次エンドポイントである「入院72時間後までの血清Cr変化量」で➀➁ともに有意差なし.
但し,➁に関して,高用量投与群で,尿量・体重減少・呼吸苦が有意に改善.
「入院後60日間における死亡,再入院,救急外来受診」も➀➁ともに有意差なし.
有名な研究.
心不全に対する持続投与の有効性はなし,という結果.
利尿作用に関しても,持続投与とボーラス投与で有意差がなかったとされます.
しかし,本試験におけるフロセミドの累積使用量は,持続投与群よりボーラス投与群で多くなっています.
(ちなみに,用量に関しては,高用量にすることで利尿効果の強化が得られたが,腎機能を犠牲にする可能性がある様子.)
「ほな,使用量揃えたらどうなるん?」
The comparison of the diuretic and natriuretic efficacy of continuous and bolus intravenous furosemide in patients with chronic kidney disease. (Nephrology (Carlton). 2008 Jun;13(3):247-50.)
・慢性腎不全に対するフロセミド投与方法:持続投与vsボーラス投与
結果:尿中ナトリウム排泄量を有意に改善
同量のフロセミドならボーラス投与より持続投与の方が利尿作用が強い,という結果.
これ以外にも,持続投与に利尿作用の有意性があるか否かの報告は様々あるりますが,持続投与の方が利尿作用は強いという意見の方が少し多い印象.
私には正直どっちが正しいかはわからないが,持続投与がボーラス投与より利尿効果が劣る,という結果はほぼない.
ゆえに,他のメリット・デメリットも考えましょう.
持続投与のデメリット
単独ラインが必要になります.配合変化が少なくない薬剤なので.
CVやスワンガンツが入っていれば,末梢静脈ラインの確保はそこまで苦になりませんが,意図もなく持続投与にすることは控えたいですね.
思わぬ管理トラブルにつながるかもしれませんね.
持続投与のメリット(私見)
用量の調整がしやすいです.
これは,腎不全と言うより,心不全を主に治療している立場ならではなのかもしれませんが...
根底には,フロセミドの,腎不全と心不全での反応性の違い,の考えがあります.
腎不全におけるフロセミド抵抗性は,糸球体濾過や尿細管機能障害によって,尿細管腔に到達できないことに起因します.
よって,理論的には,高用量にすれば,健常人と同様の利尿反応が得られます.
一方,心不全は,有効循環血漿量の不足で,腎血流(腎還流圧)が保てず,近位尿細管でナトリウムの再吸収が亢進します.
すると,遠位尿細管に到達するNaCl量が減少し,マクラデンサを介してRAA系が亢進します(尿細管ー糸球体フィードバック).
心不全では,腎交感神経の活性化も相まって,近位尿細管でのナトリウム再吸収はさらに亢進,皮質集合管ではアルドステロン作用でナトリウム再吸収が亢進.
この,ナトリウム再吸収亢進がフロセミドの利尿作用と拮抗状態になり,健常人より低いラインに利尿効果のプラトーが現れます.
この考えをベースに,持続投与とボーラス投与を考えたとき,言い方が悪いかもしれませんが個人的には,
(聴毒性などを無視すれば)腎不全だけなら,どんどん高用量をボーラスしてしまえばいい
と思ってしまします.
(心機能に全く問題がないと仮定して)実際にそれで反応性が得られないなら,他剤併用(サイアザイド系利尿薬,ミネラルコルチコイド拮抗薬,カルペリチド,トルバプタンなど)や,血液透析を検討すればいいわけですし.
心不全はそうはいきません.
「フロセミドが効かない」
とひとえに言っても,色々考えます.
➀腎機能も悪くなってきているからか?
➁心拍出量が悪すぎるからか?
➂RAA系などの神経体液性因子が過剰に亢進しているのか?
➃うっ血が強いから,腎静脈圧が高い(腎間質浮腫の)せいか?
などです.
➀なら,(腎不全なので)フロセミドの用量増量を検討します.
➁なら,色々考えます.
強心剤を使うかもしれないし,補助循環が必要かもしれない.
徐脈ならペーシングを考えるし,弁膜症なら侵襲的な治療も検討です.
➂の場合,サイアザイド系利尿薬,ミネラルコルチコイド拮抗薬,カルペリチド,トルバプタンなどを多剤併用することでうまくいく場合があります.
結局,心拍出量の問題に帰結して,強心剤が必要なことも多いですけどね.
➃の場合,まずはフロセミドの用量増量を考えますが,一時的な透析も厭(いと)いません.
腎間質浮腫があると,輸入細動脈が収縮しており,フロセミドが腎臓に届かないので,一度,浮腫を解除しなければ,どれだけフロセミドを増やしても意味をなさないことがあるからです.
(要は心腎連関です. ≫心腎連関についての解説はこちら.)
このように,色々な可能性を考えてフロセミドを調整する時,ボーラス投与では繊細な管理ができない,と個人的には考えています.
例えば,➀や➃のとき,フロセミドの増量を考えますよね?
ボーラス投与戦略の時,DOSE研究のような設定なら,フロセミドの投与は12時間おきです.
直近の投与から1時間後に,➀や➃を疑ったらどうします?
すぐに追加投与しますか?1時間前の投与の効果を少し待ちますか?11時間後の次の予定投与を増やしますか?
....めんどくさいです.
持続投与ならシリンジポンプをいじるだけです.
例えば,➁に気づかず,ボーラス投与戦略でフロセミドを増量してしまったところ,血圧が低下し急変してしまいました.
低拍出症候群(LOS)です.
持続投与戦略なら,スワンガンツデータなどから,ここまでの急変する前に➁を察知し,対応できる可能性があります.
このように重症心不全に対して繊細な管理をするなら,持続投与がいいかな,と個人的に思っています.
正直言って
利尿作用が,持続投与とボーラス投与,どっちで高いかなんて
知ったこっちゃないです
(持続投与の方が良く効くなら効くでいいですけど,どっちでもいいです.)
この考えをしたとき
「じゃあなんでDOSE研究では心不全のアウトカムが変わらないんだよ」
というツッコミは入って当然ですが...
私が例でいったような心腎連関をふまえた対応を,一定のプロトコルにして比較することがそもそも不可能(に近い)じゃないですかね?
強心剤くらいならいいですけど,補助循環とか侵襲的治療を検討,とか,一時的透析を検討,とか,ほとんどの研究で除外されてそう...
実際に,先に述べたDOSE研究では,「収縮期血圧が90mmHg未満の患者,血清クレアチニン値が3.0以上,心不全のために血管拡張薬または強心薬を必要とする患者」は除外されてます.
補助循環とか,持ってのほか.
ここに関しては,なんともエビデンスで語り切れないところなんじゃないかな,と思っています.
最初の方に言いましたが,持続投与がボーラス投与より利尿効果が劣る,というエビデンスはほぼありません.
それなら,単独ラインが必要な煩わしささえ許容できるなら,フロセミドの持続投与で管理してもいいですよね?
言いかえれば
デメリットがほとんどないこと
と
管理上,有用な可能性がゼロじゃないこと
が,2つ合わさってメリットになる,と”個人的には”思ってます.
私見ですし,エビデンスはないのであくまでご参考までに.
まとめ
ザックリと私見をまとめます.
スワンガンツカテーテル入れるくらい重症な心不全なら,フロセミドは持続投与管理にしてます(ラインも確保されてますしね)
末梢ラインしかないときは,実際あまりやらないし,その程度の心不全なら,大抵ボーラスで事足りる気がします.
あくまで私見ですからね?
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.
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