【心不全の時間軸】残念ながら,心不全は治りません【代償性心不全と非代償性心不全】
○○心不全,ってこ言葉,多すぎて,意味わからなくないですか?
多彩すぎる分類は,混乱を招くだけなので,”何を軸に心不全を考えるか”が大事だと思ってます.
私が大事だと思っている心不全の軸は3つ.
➀原因軸,➁時間軸,➂Forrester分類
です.
なぜ,これらの軸が大事かというと,治療が変わるからです.
今回は,先日のツイート内容から,➁の心不全の時間軸の話.
この話がなんのことか,というところを,今回は深ぼっていきます.
■残念ながら,心不全は治りません
患者さんに良く聞かれます.
「私の心不全は,どれくらいで治りますか?」
その場合,私は患者さんに残念なご報告をしなければなりません.
心不全は治らないんです
患者さんにとっては,不治の病を宣告された気分になってしまうので,補足します.
心不全は治りませんが,上手に付き合っていくことができます
心不全を抱えながらも,元気に生活している人たちはたくさんといますよ
この説明は,どういうことか.
■非代償性心不全って何?【知らずに触れまくってますよ】
「なんだよ,非代償性心不全って...そんな難しい話ついていけないよ...」
って感じますか?
では,話を変えます.
たぶん,循環器の患者に携わって数カ月もすれば「デコる」って言葉は聞いたことありません?
おそらく,「心不全になる」という意味で使用されることの多い医療俗語ですが,この由来って,Decompensated Heart Failure(非代償性心不全)の頭の”DECO”から”デコる”なんです.
つまり
あなたが診ている心不全入院の方は,たいてい非代償性心不全なんです.
「デコる」は,正確には「心不全になる」ではないです.
「デコる」は,「非代償性心不全になる」です.
何から?
「代償性心不全が非代償性心不全になる」ことを「デコる」と言っているのです.
循環が破綻する,という表現がいいかもしれませんね.
■そもそも代償性心不全ってなんだよ【心臓の機能トラブルと代償機構】
心不全になるには,心臓の機能にトラブルが起きていることが必須です.
例えば,収縮能の低下(心筋梗塞や心筋炎など).
例えば,脈拍異常(頻拍性心房細動や房室ブロックなど).
例えば,弁機能異常(大動脈弁狭窄症,僧帽弁閉鎖不全症など).
ただ,これらの心臓の機能トラブルが起きた人たちは,永久に入院してますか?
いつか退院しますよね?
その人達は,全例心臓のトラブルがなくなりましたか?
中には,ペースメーカーを植え込んだり,弁置換をしてから退院する人もいると思いますが,結構な確率で,根治療法はせずに退院しているはず.
なぜ退院できるのか.
例えば,心筋梗塞を起こした方の心機能障害は,(心移植でもしない限り)元通りにはなりませんよ?なんで退院して普通の生活ができるのでしょう?
これは,代償機構がうまく働いているからです.
どんな代償機構があるのか
・交感神経系
心拍出や動脈圧を高めたりする
”やせ馬に鞭を打つ”イメージ.
・レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系
後負荷と前負荷を増やす
体液貯留・浮腫形成の重要因子
・浸透圧調節系
本来は浸透圧を保とうとする働き
循環不全では,循環血漿量を保つために浸透圧を犠牲にする
浮腫性疾患における低Naに関与)
■心不全の治療とは,代償機構のメンテナンスです
初めの話に戻しましょう.
心不全は治りませんが,上手に付き合っていくことができます
心不全を抱えながらも,元気に生活している人たちはたくさんといますよ
これは
代償機構をうまく働かせれば,心不全と共存可能
ということです.
つまり
医療者が本腰をいれて治療するような心不全は
たいてい非代償性心不全です
代償機構が破綻しています
”デコってます”
それが,このスライドの内容です.
モデルケースでいえば
非代償性心不全になったから入院加療
代償性心不全に戻せたから退院
このような経過を,心不全の方はたどっていくわけです.
破綻した心不全の治療とは,過剰になってしまった代償機構を,メンテナンスして,適切な状態に戻すことなんです.
■”不治の病”心不全の患者がたどる時間軸とは
もう少し長い期間で,心不全患者さんの人生を見ましょう.
心不全患者にも,(先天性心疾患じゃなければ)正常な心臓だった時期があります.
そこに軽微な心臓の性能低下が徐々に積み重なり,しばらくは代償機構でうまく維持できるわけですが,ある日,代償機構がうまくかみ合わなくなり,”破綻”するわけです.(スライドの上の図)
繰り返しにはなりますが,
この破綻,すなわち非代償性心不全の治療は,正常な心臓に戻すことではありません.(不可能です)
代償性心不全に戻すことです.
また,この代償性心不全に戻っても,それは心臓の性能が元に戻るわけではありません.
むしろ,破綻するたびに心臓の性能は一段と低下してきます.(スライドの左下の図)
覆水盆に返らず
心不全治療の醍醐味とは,二度と破綻させないことなんです.
それが,生命予後やQOLを改善させることにつながるわけです.
非代償性心不全の治療は,代償性心不全に戻すこと
代償性心不全の治療は,二度と非代償性心不全まで破綻させないこと
■おまけ
今回の話を混乱させる可能性があるので,頭半分で聞いてほしいんですが,代償機能を一撃で破綻させるような心不全もあります.
真の急性心不全とでも言うのでしょうか.
スライドにも書いてありますが,このタイプの心不全の中には,正常な心臓に戻れることがあります.覆水が盆に返ります.
(例.タコつぼ型心筋症,心室頻拍→洞調律)
しかし,これはあくまで,例外だと思ってください.
改めて
非代償性心不全の治療は,代償性心不全に戻すこと
代償性心不全の治療は,二度と非代償性心不全まで破綻させないこと
の考えを大事にしていきましょう.