【2020年改訂JCSガイドライン】DAPT loading(負荷投与)【適切なタイミング】

前回に引き続き,2020年改訂版冠動脈疾患に対する抗血栓療法のガイドラインについてです.

無料でPDFを見れるので,気になる方は検索してみてください.

今回は,このガイドラインをさらにかいつまんで,「DAPT loading(負荷投与)」にしぼって解説します.

解説する私は,医師9年目の循環器内科医です.

では,いきましょう.

1.STEMIへのloading(負荷投与)

・ASA:STEMIが疑われた時点で162‐324㎎(2倍量)咀嚼服用(ⅠA)
・P2Y12➀:primary PCI前にプラスグレル20mg(ⅠA)
・P2Y12➁:プラスグレル投与困難な場合,primary PCI前にクロピドグレル300㎎(ⅠA)
・P2Y12➂:プラスグレルもクロピドグレルも投与困難の場合,primary PCI前にチカグレロル180mgを考慮(ⅡbB)

‣全て未服用の場合の話
‣投与タイミングに注意:アスピリンだけ,”疑われた時点”
咀嚼投与の推奨はアスピリンだけ
‣チカグレロルは,あくまで“考慮”

感想&考察

このあとも出てきますが,ACSはすべて”疑った時点でアスピリンloading”がガイドラインの推奨です.

というか,同ガイドラインでは「PCI 非施行患者における負荷投与」に関しても言及があり,「ACSが強く疑われる時点でアスピリン 162-324 mg 咀嚼服用」がClassⅠAです.

つまり

ACSを疑ったら,PCIしようがしまいが,その時点でアスピリンはloading

なんです.

この背景には,ACSにおいては,アスピリンを早期に投与すればするほど,死亡率が低下することが明らかだからです.

同ガイドラインでは,「確定診断に至らなくても ACS が強く疑われる時点で
速やかにアスピリンを投与する」と記載があり,アスピリンを負荷投与することの正当性はかなり担保されています.

私は実臨床で,いかにもVSA(冠攣縮性狭心症)っぽい不安定狭心症は,アスピリンすらloadingしないんですが,これはガイドラインに反するんですよね...

ⅠAの推奨度だと,少し気まずいので,今後はよく考えます.

また,文言で解釈が難しいのは,P2Y12の投与タイミングである「 PCI前に」

ガイドラインを読むと,これは「冠動脈病変が明らかになる前」で問題ないです.

つまり,冠動脈造影を始める前,カテーテルの方針となれば,P2Y12は投与して問題ない,ということになります.

ただ,診断が違ったり(心筋炎,タコつぼ型心筋症,大動脈解離など),STEMIでも血行再建にならなかったり(乳頭筋断裂や自由壁破裂などの器械的合併症)することもあるので,P2Y12の投与はガイドライン以上に柔軟でもいいと,個人的には思います.

実際に私が経験したのは,Stanford A型大動脈解離による右冠動脈の完全閉塞のSTEMI.若かりし私は,迷わずDAPTをloadingしたので,外科の先生にご迷惑をおかけしました.

余談ですが,チカグレロルは,日本人を中心としたアジア人の ACS 対象に行われたPHILO 試験で,対象のクロピドグレルと比較して心血管イベント,出血が多くなった(有意差はなし)ので,今後も本邦で推奨度が高くなる可能性は低いでしょう.

【小まとめ】
・ACSは疑た時点でアスピリンをloading
・STEMIは,カテすると決めたらP2Y12もloading

 

2.NSTEMI-ACSへのloading(負荷投与)

・ASA:NSTEMI-ACSが疑われた時点で162‐324㎎(2倍量)咀嚼服用(ⅠA)
・P2Y12➀:冠動脈病変を確認後,PCI前にプラスグレル20mg(ⅠA)
・P2Y12➁:プラスグレル投与困難な場合,PCI前にクロピドグレル300㎎(ⅠA)
・P2Y12➂:プラスグレルもクロピドグレルも投与困難の場合,PCI前にチカグレロル180mgを考慮(ⅡbB)

‣ほぼSTEMIと同じ.
‣P2Y12のところに”冠動脈病変を確認後”という一文が加えられている.

感想&考察

NSTEMI-ACSも,STEMI同様,疑った時点でアスピリンはゴーサイン

一方で,P2Y12のloadingは,推奨度こそ同じですが,NSTE-ACSの方には,あえて”冠動脈病変を確認後”という一文は追加されています.

ニュアンス的には,STEMIよりは慎重にloadingすべきということですね.

【小まとめ】
・NSTE-ACSIは,冠動脈病変を確認してからP2Y12をloading

 

3.安定冠動脈病変へのloading(負荷投与)

・ASA:PCI前に162‐324㎎(2倍量)咀嚼服用(ⅠA)
・P2Y12:冠動脈ステント留置時にプラスグレル20mg or クロピドグレル300㎎を投与(ⅠC)

‣安定病変でもアスピリンのloadingがⅠA.但し,PCIすると決めてから
‣P2Y12は”ステント留置時”

感想&考察

これまではACSの話をしてきましたが,ACSでない,つまり,安定冠動脈病変の話.

さすがに安定冠動脈病変は,PCIすると決めてからのloading推奨.

疑問なのは,P2Y12の投与タイミングのところの”冠動脈ステント留置時に”

「まさか,ステントレス治療を考えて?」とも考えたが,同ガイド欄では,DCB後も1-3ヵ月のDAPTを推奨しているので,ありえない.

気にしなくていいだろう.

【小まとめ】
・安定冠動脈病変にloadingする場合は,PCIすると決めてから

 

まとめ

DAPT loadingのタイミング ぷーオリジナル

タイミングをまとめるとこんな感じです.

細かいことを,つけ加えるなら

・咀嚼服用の推奨はアスピリンだけ(別にP2Y12も咀嚼服用させて問題ないんですけどね.)

・ACSの場合,P2Y12の優先順位は明確に決められていて,プラスグレル(エフィエント®)→クロピドグレル(プラビックス®)→チカグレロル,の順番


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