【非専門医必見】心不全治療やっちゃいガチなミス【専門でもたまにハマる罠】
「慢性心不全でかかりつけの方.呼吸苦と下腿浮腫出現を認め,心電図を施行したところ心室性期外収縮が頻発していました.心室性期外収縮頻発による心不全増悪と判断し,メインテート®を開始しました.」
先日,このような経過を目にしました.
これを「いや,おかしい.あぶない.」と思えた人は,この記事を読む必要はないかもしれません笑
でも
「ん?心室性期外収縮にβ遮断薬を使って何が悪いの?」
「β遮断薬は心不全の予後を改善させるでしょ?使った方がいいじゃん」
ってなる人いますよね?
そんなあなたは,勉強をしてないわけではありません.
むしろ,勉強したからこそ混乱しています.
大丈夫です.
今回は私が考える,心不全治療のハマりやすい勘違いを解説するので,頭を整理しましょう.
せっかく勉強した知識.正しく理解して使いこなしましょうね.
1.非代償性心不全にβ遮断薬の導入(or 増量)
冒頭の例の答えです.
そもそも,心不全にβ遮断薬をなぜ使うか,です.
β遮断薬は,陰性変力作用および陰性変時作用をもち,つまるところ心拍出量を低下させます.
ゆえに,過去には,すべての心不全に禁忌とされていました.
それでも現在,心不全にβ遮断薬が使用されるのは,慢性心不全の予後を改善することがわかったからです.
ここで重要なのは,"慢性心不全"という表現.
急性期の薬ではないんです.
破綻している心不全,すなわち非代償性心不全には,現在でも使用禁忌です.
その理由は簡単.さっきも言いましたよね?心拍出量が低下するからです.
むしろ,(「β遮断薬は心不全に禁忌である」という)この考えがスタートだったはずです.
言い方は悪いですが,心不全を"うわっつら"だけ勉強すると,非代償性心不全にβ遮断薬を開始する,という大失敗をしてしまうので注意しましょう.
【正解】非代償性心不全にβ遮断薬の導入や増量はしない.
(≫心不全に対するβ遮断薬の使用の仕方などはこの記事で解説しています.)
【余談➀:どうやって非代償性心不全と代償性心不全を見分けるの?】
実はここを厳密に区切ることは難しい問題です.
なんなら,専門家でも判断に困ることはしばしばあります.
なので,「きわどい症例・怪しい症例にβ遮断薬は導入・増量しない」というのが安全です.
上述した例では,呼吸苦と下腿浮腫が出現している経過から,明らかに非代償性心不全です.
【余談➁:もともとβ遮断薬を飲んでいる人が非代償性心不全になったらどうするの?】
ここまでの話を読むと,「非代償性心不全になったらβ遮断薬なんていったん中止だ!」と思う人がいるでしょう.
昔の人も同様に考えました.
しかし,もともと使用していたβ遮断薬は,非代償性心不全になっても中止しない方が予後がいいことがわかっています.(J Am Coll Cardiol. 2008 Jul 15;52(3):190-9. )
なんなら,できる限り減量もしない方がいいともされています.(Eur J Heart Fail. 2007 Sep;9(9):901-9.)
症例にもよると思いますが,安直なβ遮断薬の中止もしないようにしましょう.
2.心不全治療中の腎障害に盲目的な補液
ここは難しい問題です.
みなさんは,心不全治療中に腎機能が増悪したとき,なにを考えますか?
「水を引きすぎたかな?」
って思いませんか?
それで,利尿薬を減らすだけではなく,補液をする人もたまにいます.
それが正解なこともありますよ.
でも,補液をしても腎機能が良くならなくて,どんどん肺がうっ血してくるだけ,なんてことがあります.
この判断ミスはなぜ生じるのか.
これはひとえに,心臓と腎臓の関係性が見えていないからです.
(≫このチャートの解説はこの記事で解説しています.)
つまり,チャートの"青い部分"のように,低心拍出による組織低還流が腎機能増悪の原因であるならば,補液で改善する“可能性"はあります.
(☝フランクスターリング曲線でいうとこんな感じ.フランクスターリング曲線の解説はこの記事など.)
では,補液がうまくいかないのは,どんなときでしょうか?
■➀腎障害の主体が低心拍出ではなく,腎静脈圧の上昇(静脈圧の上昇)
上のチャートでいう"緑の部分"の話.
補液をしても静脈圧は上昇するだけです.
当然,腎機能は改善しないですし,最悪の場合,さらに悪くなります.
【正解】補液はせずに利尿を続ける.場合によって一時的透析も検討.る.
■➁低心機能の心臓が一度大きく破綻してしまった時
もう1つは,読み通り"低心拍出が腎機能増悪の原因"であっても,補液では改善しないときです.
前提として,心機能の低下した心臓は,前負荷をあげても心拍出量が上がりにくいという特性があります.
よって,いくら補液しても心拍出は改善しにくいばかりか,うっ血が増悪するだけなんです.
そんな時に使用するのが,強心剤や補助循環.
一度,強心剤や補助循環を用いて,左室内圧や後負荷を解除してあげると,心拍出が改善するので,徐々に離脱を目指すステップに進むことができるんです.
(≫フランクスターリング曲線で考える重症心不全と強心剤の意義の解説はこちらの記事.)
ある程度重症の心不全の破綻は,強心剤や補助循環なしでは絶対に改善しない,ということを覚えておきましょう.
その他,血圧に余裕がある際は,血管拡張薬で後負荷を低減する方法も,低心拍出の状態から抜け出す方法としてはgoodです.
【正解】血管拡張薬や強心剤など,前負荷以外で心拍出を増やす方法を検討する.
3.低心拍出による尿量低下やうっ血に利尿薬をどんどん増量
これは,2の逆.
「尿が少ない⇒利尿薬」「うっ血が増悪した⇒利尿薬」
という考えです.
これは,(2の後半で話したこととも関わりますが)心拍出を改善させなければ尿など出てきませんから.
うっ血は解除されませんし,最悪,循環不全が進行し,多臓器不全になります.(いわゆる低心拍出症候群LOSです)
「うん,これは俺は大丈夫だ.だって,心機能の悪い人に,そんな盲目的に利尿薬を増やしたりしないもん.」
って思った人.
ホントに大丈夫ですか?
ここで,大事なのは,心機能≠EFではないですからね.
私が以前に経験したのは
「EF70%,心房細動なんですが,利尿薬抵抗性の肺うっ血です.」
というご紹介.たしか,ラシックス®100mg,サムスカ®15mgとか使用してました.
どうです?
「腎臓のトラブルじゃない?」とか思いますか?
もちろん,その可能性もありましたが,この症例は低心拍出でした.
実は,この症例は,中等度の大動脈弁逆流moderate ARでHR40台だったんです.
一時ペーシングでVVI rate 80にしたら,みるみる心不全は改善しましたよ.
もう一度いいますよ.
EFは70%です.
でも,低心拍出によって尿量低下,肺うっ血を来たしていたんです.
みなさん,気をつけましょうね.
(この症例はご高齢な方で,転院時は尿毒症でJCS100くらいの危険な状態でしたが,最終的にリードレスペースメーカーを植え込んで,元気に手押し車で退院していきました.)
【正解】心機能はEF(収縮能)だけではない.ペースメーカーや弁膜症治療による低心拍出改善が必要な症例も少なくない.
4.頻脈に条件反射ベラパミル(ワソラン®)
これはTwitterで物議をかもしたやつです.
■頻脈であろうと,非代償性心不全にベラパミル(ワソラン®)は禁忌
上述したβ遮断薬と同じく,ベラパミルも陰性変力作用と陰性変時作用を持つ薬剤です.心拍出が低下するのが普通です.
ゆえに,β遮断薬同様,非代償性心不全には禁忌です.
一番の罠は,Af頻脈の心不全.
確かに,Afになるような心臓は拡張不全を有することが多く,拡張不全の心臓は,頻脈で心不全が破綻しやすいです.
ベラパミルが,頻脈による左室充満時間の短縮を延長させ,心不全を改善させる可能性はゼロじゃないです.
しかし,非専門の方がそれを目的に使用するのは賭けです.
なぜなら
➀頻脈が心不全増悪のトリガーでも,頻脈を抑えればよくなるとは限らない
一度循環が破綻すると,心負荷によって心機能は一層悪くなる.
単純に頻脈を取り除けば,タイムマシーンのように心不全が改善していくとは限らない.
➁「ニワトリと卵」理論
"Af頻脈→心不全破綻"ではなく,"心不全破綻→Af頻脈"という可能性.
つまり,心不全の表現型としての頻脈かもしれない.
このように,Af頻脈といえど,心不全が破綻している場合は,頻脈を抑えることが功を奏すとは限りません.
どうしてもRateを落としたい場合は,陰性変力作用の少ないジゴキシン,ランジオロールなどで検討した方が安全です.
「洞性頻脈ならイバブラジン(コララン®)」という選択肢もあるかもしれませんが,相当なプロ志向です.
≫頻脈が循環動態に与える影響とイバブラジンの解説はこちらの記事.
【正解】非代償性心不全にベラパミル(ワソラン®)は使用しない(禁忌).Af頻脈であっても.使用するなら,ジゴキシン,ランジオロールの方が安全.
5.HFpEF(EF≧50%)に"予後改善ねらいの"RAS阻害薬もしくはβ遮断薬
最後は,EFの保たれた心不全HFpEFに対するRAS阻害(ACE阻害薬/ARB)やβ遮断薬の使用に関して.
これは,禁忌ではないですが,予後改善目的で導入するのはおかしいぞ,という話.
理由は簡単.
そんなエビデンスはありません.
これ,結構多くの人が間違って解釈してませんかね?
昨今の慢性心不全治療薬は,ACE阻害薬/ARB,β遮断薬以外にも,ARNi,イバブラジン,SGLT2阻害薬など新薬の登場がめざましいですが,この推奨のほとんどは,HFrEF(EF<40%)に対するものです.
(ARNiやSGLT2阻害薬などは,HFpEFへの推奨が今後出てくるかもしれませんが)ACE阻害薬/ARB,β遮断薬をHFpEFに推奨する理由はありません.
「蛋白尿陽性の糖尿病合併高血圧をベースにしたHFpEF⇒ACE阻害薬」
とか
「Afのrate controlが必要なHFpEF⇒β遮断薬」
は使った方がいいですよ?
ただ
「慢性心不全だから,とりあえずACE阻害薬とβ遮断薬だよね!EFが何%でも!」
というのは間違い.
特に,β遮断薬は禁忌や副作用の多い薬剤なので,適応はしっかり理解しておきましょう.
(≫心不全に対するβ遮断薬の使用の仕方などはこの記事で解説しています.)
【正解】RAS阻害薬とβ遮断薬は,HFpEF(EF≧50%)の予後は改善させないので,理由なく導入するものではない.
ちなみに,ミネラルコルチコイド拮抗薬MRAは,HFpEFの心不全入院を減らす可能性があるため,HFpEFに積極的に導入したいのは,どちらかというとMRA.
まとめ
今回は,心不全治療で間違いやすいポイントを自分なりにピックアップして解説してみました.
まとめると
➤非代償性心不全にβ遮断薬の導入や増量はしない.
➤心不全治療中に腎機能が悪くなっても,単純に補液をするのではなく
・静脈圧上昇による腎機能増悪の可能性を忘れない.
・心機能が悪い場合は,血管拡張薬や強心剤など,前負荷以外で心拍出を増やす方法も検討する.
➤心機能はEF(収縮能)だけではない.低心拍出改善にペースメーカーや弁膜症治療が必要な症例も少なくない.
➤たとえAf頻脈であっても,非代償性心不全にベラパミル(ワソラン®)は使用しない(禁忌).どうしても使用したいなら,ジゴキシン,ランジオロールの方が安全.
➤RAS阻害薬とβ遮断薬は,HFpEF(EF≧50%)の予後は改善させない.ゆえに,理由なく導入するものではない.
心不全治療のミスりやすいポイントをざっと思いうかべたら,こんな感じでした.
でも,これ以外にも心不全治療のピットフォールはありそうですね.
なにか他にあったら,DMとかで教えてください.
場合によって追記します!
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.
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