【使いづらいんだけど,ほんとに使わなきゃダメ?】虚血性心疾患に対するβ遮断薬【目的と推奨】

β遮断薬といえば

心不全と虚血性心疾患に対するエビデンス

ですよね.

この2つの疾患群がなければ,β遮断薬が日の目を見ることはウンと少なかったでしょう.

今回は,その1つである虚血性心疾患とβ遮断薬の関係を解説します.

1.β遮断薬を虚血性心疾患に使用する意味・目的

なぜβ遮断薬を虚血性心疾患に対して使用するのか.

その理由は大きく分けて2つだけ

➀胸痛などの自覚症状軽減

β遮断薬は,β受容体,とくに心筋に多く分布するβ1受容体を遮断することで,心筋収縮力の低下や心拍数の減少をきたします.

すると,心筋の酸素需要が減少し,虚血の状態が緩和されるんです.

ひらたくいえば

虚血=酸素不足

β遮断薬=心臓に酸素を節約させる

という構図です.

これが,虚血性心疾患,とくに狭心症に対してβ遮断薬を使用する,大きな理由です.

■抗狭心薬のβ遮断薬
そもそもβ遮断薬が虚血性心疾患に使用されるようになったのは,この抗狭心作用のため.
虚血性心疾患に対するβ遮断薬の根源的な意義です.

➁予後改善効果

虚血性心疾患にβ遮断薬を使用するもう1つの理由は,予後改善効果です.

予後改善に至る機序はいろいろ言われているので,ひとつずつ見ていきましょう.

➁-i)心筋リモデリング予防
β遮断薬は,ダメージを受けた心筋が,リモデリングしていくのを予防する効果があります.
心機能を温存してくれるイメージです.

■心室リモデリング
心筋障害に対する代償性の変化ですが,心拡大や心室壁の菲薄化などを引き起こし,長期的には心機能を低下させる因子となります.

➁-ii)抗不整脈作用
虚血性心疾患症例における予後は,致死的不整脈の存在が多きく左右します.β遮断薬は抗不整脈作用もあるので,致死的不整脈によるイベントを減らし,予後改善効果に一役を買っています.

➁-iii)梗塞サイズの縮小
これは,虚血性心疾患の中でも特に予後の悪い,急性心筋梗塞に関してです.
上述した通り,β遮断薬は心筋の酸素需要を減らすので,心筋梗塞に至っている心筋の範囲を最小限にしてくれます.
そのため,心筋梗塞症例では,なるべく早くβ遮断薬を導入することが推奨されています.(発症から24時間以内,など)

➁-iv)抗酸化作用/抗炎症作用など
上述してきたような機序以外にも,抗酸化作用や抗炎症作用などによって内皮機能を改善させるなど,さまざまな作用を働くことで,β遮断薬は虚血性心疾患の予後を改善させるといわれています.

 

2.急性冠症候群(ACS)に対するβ遮断薬使用のガイドライン推奨

では,ガイドラインの推奨を見ていきます.

まずは,緊急性が高く,治療方針が予後を大きく左右するACSから.

日本循環器学会のガイドライン
・心不全徴候 (+) or LVEF≦40%で,発症早期から経口β遮断薬を開始・漸増(classⅠ).
・禁忌のない場合,経口β遮断薬の投与を考慮する(classⅡa).

「心不全に対するβ遮断薬の推奨」ってものもありますから,その詳細は別記事でするとして.

ザックリいえば,ACSに対するβ遮断薬の推奨は

・心不全や心機能低下あり ⇒β遮断薬,絶対使う

・その他 ⇒β遮断薬,基本的に使う

です.

海外のガイドラインはどうでしょう.

ACC/AHAガイドライン
・禁忌がない場合,24時間以内に経口β遮断薬の開始を推奨(classⅠ).
・禁忌がない限り,入院中並びに退院後も継続すべき(classⅠ).
・禁忌がない限り,高血圧 or 虚血所見の継続がある場合,来院時に静注のβ遮断薬を使用する(STEMI→classⅡa,NSTEMI/UAP→classⅠ).
ESCガイドライン
・心不全 or 左室機能障害のある症例に経口β遮断薬開始(classⅠ)
・禁忌がない限り,すべての症例で経口β遮断薬を入院中並びに退院後も考慮すべき(classⅡa).
・禁忌がなく,血圧と脈拍がともに高く,心不全徴候だない場合,来院時に静注のβ遮断薬を使用する(classⅡa).

日本のガイドラインに近いのは,ESC(ヨーロッパの循環器学会)のガイドライン)ですね.

ACC/AHA(アメリカの循環器学会)のガイドラインは,過去のエビデンスに基づき,β遮断薬の使用を強く推奨しています.

一方,ESCは,「エビデンスは過去のものであり,primary PCI時代については評価されていない」ということで,一歩引いた推奨.

まぁ,大差ないですけどね.

■心不全も心機能低下もないACSをみたとき
・アメリカのガイドラインに従うなら,「どうにかして(ほぼ)全例β遮断薬の導入をする」.
・日本やヨーロッパのガイドラインに従うなら,「考慮はするけど,無理しなくていい」.

ということ.

ちなみに,STEMIとNSTEMI/UAPのいずれもβ遮断薬の推奨は同じですが,ACC/AHAガイドラインでは,「禁忌がない限り,高血圧 or 虚血所見の継続がある場合,来院時に静注のβ遮断薬を使用する.」が,STEMIだとclassⅡaだったのに,NSTEMI/UAPではclassⅠにグレードアップしています.

 

3.安定冠動脈疾患に対するβ遮断薬

続いては,ACSでない虚血性心疾患に関して.

ACS以外の虚血性心疾患は大きく分けて2つあります.

安定狭心症 と 無症候性心筋虚血

です.

胸部症状がある場合を安定狭心症.

胸部症状がない場合を無症候性心筋虚血(SMI).

と呼びます.

これらを合わせて,安定冠動脈疾患と呼びます.

安定冠動脈疾患に対する薬物治療の目的は

・虚血の改善
・心血管イベントの予防

によって,QOLや予後を改善することです.


β遮断薬は,虚血を改善させ,胸部症状ないしQOLを改善させることが期待されます.

一方で,安定冠動脈疾患に対するβ遮断薬の使用が,予後を改善したというエビデンスは十分ではありません

以上のことから,安定冠動脈疾患に対するβ遮断薬は

・(有症状の)安定狭心症であるなら積極的に検討すべき.
・(無症状の)SMIであるなら,使用しなければならない理由はない.

ということになります.

【注意】
SMIにβ遮断薬を使用しなくてもいいのは,心機能が保たれている場合
心機能の低下があった場合,心不全stageBになり,(心不全を理由に)β遮断薬が推奨される状況になるので,注意してください.

 

■まとめ

β遮断薬を虚血性心疾患に使用する理由は

・虚血改善による胸痛などの自覚症状軽減
・さまざまな機序による予後改善効果

のため.

・ACS(急性冠症候群)に対する使用の推奨は高く

とくに

・EF≦40%心不全症例ではclassⅠで推奨するのが世界的コンセンサス.

ACS以外の安定冠動脈疾患に対する推奨は,

安定狭心症であれば積極的に使用を検討する

無症候性心筋虚血(SMI)に対しては,心機能が正常である限り,無理に使用する必要はない

 

こんな感じで,今回はの話は終わりです.

本日もお疲れ様でした.


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