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企画・編集人日記【1】~『FOREVER DOCTOR HEAD'S WORLD TOWER』ができるまで

●2019年7月12日
2019年はフリッパーズ・ギターがデビューして30周年のアニバーサリー・イヤーだが、1st『海へ行くつもりじゃなかった』、2nd『カメラ・トーク』は2006年8月に紙ジャケ、2010年にSHM-CDで再発され、サブスクリプションでも配信され始めたのに、3rd『ヘッド博士の世界塔』は中古盤でしか入手できない廃盤状態でサブスクリプションもシングル曲の「グルーヴ・チューブ」「星の彼方へ」の2曲だけだった(YouTubeで「奈落のクイズマスター」のMVは見ることができた)。フリッパーズ・ギターのファンジン『FAKE』で『ヘッド博士~』の元ネタ原稿を書いた身としてはこの『ヘッド博士~』の状況を不憫に思い、勢いで「ヘッド博士の世界塔保存会」のアカウントをツイッターで作成した。当初の会の目的は、中古盤の在庫状況(主にアマゾン)、元ネタのリスト化と公開、当時の掲載雑誌などの小ネタなど。再発署名運動も最初は考えたが、関係者の方や『ヘッド博士の世界塔』を聴いたことがある人のツイートを見る限りは当然難しいだろうとわかり会としては行わないことにした。

●2019年7月14日
初の情報発信は2019年7月14日現在の『ヘッド博士~』のアマゾンの在庫状況。この頃はまだ初回限定盤が10点で1327円~、通常盤が37点で1130円~だった。

●2019年8月~2020年10月
私物のフリッパーズ・ギターのファンジン『FAKE』のツイートや『ヘッド博士~』関連のリツイートを月に1~2回する程度でフォロワーも200人以下だった。

●2019年11月8日
小出亜佐子さん著の『ミニコミ「英国音楽」とあのころの話 1986ー1991』を発売日に購入し、「ひょっとしたら」といちばん最後の章「第10章 She Said Yeah!  東京ネオアコ・スモール・サークル・オブ・フレンズの大躍進 1991」を真っ先に開いた。「大塚幸代さん」「フェイク」「FAKEナイト」の太字が目に入った。そこには21歳の自分がいた。

●2019年11月9日
偶然にも翌日、以前からツイッターでやりとりのあった大久保祐子さん・照井葉風さん主催のフリッパーズ・ギターのデビュー30周年を語り合う『FG30』に誘われる。

https://note.com/sugersweet0416/n/n1e07a75761ca

●2019年12月16日
北沢夏音さん、フミヤマウチさん、関美彦さん主宰の「渋谷系旧盤選定会議」に小出亜佐子さんがゲスト出演。終了後サイン会があり、1991年10月26日に吉祥寺Hustleで開催された「FAKE HEAD'S NIGHT」の時に交わした「初めまして」「お疲れさまでした」の二言に「スケルです。ご無沙汰しています」が加わった。この時点ではファンジンで小出さんに原稿をお願いすることになるとは夢にも思わなかった。

●2020年6月6日
以前からブログがおもしろくて愛読していたrljp.さんの『カメラ・トーク』発売30周年のブログが公開される。フリッパーズ・ギターのプロデューサーであった牧村憲一さんも「楽しく、そして懐かしく、でも30年が一続きのように読ませていただきました」とツイートし68RT・288いいねの反響で文句なしの名文だった。

https://twitter.com/makiji/status/1268965761545994241?s=20

●2020年7月10日
来年は『ヘッド博士~』リリース30周年だから記念にトークショーを開くか薄い本をつくろうかと考え始める。

●2020年10月4日
ツイッターでJMXさんが企画した「#みんなが選ぶ邦楽オールタイムベストアルバム100_In2020」で『ヘッド博士~』が8位にランクインする。『カメラ・トーク』は35位、『海へ行くつもりじゃなかった』は100位以内に入らなかったので意外な人気の高さに驚いた。

みんなが選ぶ邦楽アルバムベスト100【2020】〈後編〉 https://www.mybackpages-jmx.com/twitter-japanese-album-best-100-2020-2-2252

●2021年3月2日
音楽ナタリーにて2019年11月から2020年12月まで連載されたコラム企画「渋谷系を掘り下げる」をまとめた『渋谷系狂騒曲』が発売。DOMMUNEで発売記念イベントが開催され、ゲストスピーカーの曽我部恵一さんが「『ヘッド博士~』は大好きで中古屋で見つけたら買っているけれど権利関係の問題で今後も再販・配信は難しいから、さらにレア盤になっていくんじゃないか」と指摘する。

●2021年3月16日
久しぶりにアマゾンの『ヘッド博士~』の在庫状況を調べると曽我部さんの発言の影響か初回限定盤は7点で2980円~、通常盤は17点で2999円~と高騰していた。

●2021年3月30日
フリッパーズ・ギターのファンジン『FAKE』の編集人であった友人の大塚幸代さんの命日。亡くなったのが2015年なので2021年は七回忌にあたる。彼女の供養にもなればとファンジンの発行を決意する。

●2021年4月8日
大塚幸代さんと一緒に『FAKE』を作った中沢明子さんに「ヘッド博士の薄い本作ろうと思うんだけど」と相談。フリーランスのライター・編集者としてあらゆるジャンルの“今”を追い、昔語りはほとんどしない彼女だが、「30周年だしスケルが相手なら思い出話してもいいよ」と言ってもらえる。

●2021年4月11日
「FG30」の主宰者の大久保祐子さん・照井葉風さんに編集協力をお願いする。デザインも「FG30」に参加していた青木正さんに依頼。

●2021年4月25日
企画・執筆・取材候補決定。この時点から対談や座談会の聴き手は担当するが原稿は書かず、編集に徹することにする。自分が原稿を書くとその作業にとらわれて冊子の全体を見失いがちになるし、冊子に自分のエゴが強く出がちになるという判断からだった。これは自分が編集者時代に経験したことでもあるし(自分で書きたいというより予算がなく自分で書かざるを得ない場合が多かったが)、某出版社の音楽雑誌などはその典型例だと常々感じている。ちなみに仕事での冊子の編集経験は14年だが(現職は某オンラインショップ中古CD査定)、扱ったテーマは国際協力や環境問題、CSR(企業の社会的責任)などで、音楽(しかも自分が好きなアーティスト)で一冊作るのは初めてのことだった。
ファンジンのタイトル案は『世界塔よ永遠に~30年前の『ヘッド博士の世界塔』の記憶の記録』で執筆・取材はリアルタイム世代に限ることにした。ネットや本で得た情報を簡単に発信できる時代だからこそ、リアルタイム世代の個人の思い出語りにこだわりたかった。また、最近は「zine」という言い方が定着しているが「ファンジン」という呼び方にこだわったのもあくまで「ファン」の思い出語りであるということを強調したかった。
「記憶の記録」は語呂合わせのようだがそれこそ記憶に残りやすいコピーで自分としては気に入っている。編集者時代は冊子のタイトルとコピーを考えるのが好きで、特にコピーがゆるぎないものであれば冊子の内容もぶれないとある著名な編集者から教えてもらったのが今回役立った。ちなみに細野晴臣さんはバンド名を考えるのが大好きで、はっぴいえんどの初めてのツアーでかんばるぞと意気込む松本隆さんの横で次のバンド名を紙に書いてニヤニヤしていたというエピソードが私は大好きである。

~第2回に続く~

https://note.com/doctorhed1991/n/nb055ffaedab9

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