エコシステムから分かる合成生物学企業の棲み分け:Ginkgo, Zymergen, Amyris

合成生物学の事業がどのように展開されているか把握するには、合成生物学のリーディングカンパニーであるGinkgo、Zymergen、Amyrisの3社のアプローチを理解することが役立ちます。以下では、それぞれの企業のアプローチについてご紹介します。

【参照:Programming Life: Understanding the Transformative Potential of
Synthetic Biology - William Blair -】


市場外観と3社の位置付け

今日、合成生物学の最も一般的な応用例は、工業的発酵と呼ばれるプロセスを利用して、大規模な商用製品を生産することです。工業的発酵は、細胞の持つプログラム可能な性質と製造効率を組み合わせることで、より良い製品をより早く、より安く、より持続的に作ることができます。当初は、食品(動物性タンパク質を含まない)、農業、素材・エネルギー(化学品)、消費財(化粧品)、バイオファーマなどが主な対象でしたが、これは合成生物がESGの観点からこれらの産業に与える影響を考慮したものです。

「生命をプログラムする」という能力は、事実上、無限の可能性を秘めています。例えば、合成生物学では既に、細胞をプログラムして治療薬として利用したり(遺伝子治療や細胞治療)、生物をプログラムして治療薬として利用したり(生物医薬品)、植物や動物などの生物をプログラムしたり(遺伝子組み換え植物、遺伝子組み換えサケなど)しています。将来的には、低分子合成、DNAデータストレージ(DNAにデジタル情報を保存すること)、バイオレメディエーション(微生物を使って環境汚染物質を消費・分解すること)、バイオプリンティングなど、シンティック・バイオロジー(合成生物学)の領域が拡大していくことが予想されます。

合成生物学の市場機会は、合成生物学のバリューチェーンに対応する2つの要素に分けられると考えられています。

1)合成生物学のプロセス(アイデアの創出、製品の設計、細胞のプログラミング、製品の商業化)を推進する実現技術のエコシステム

2)合成生物学のプラットフォーム上で作られた最終製品の製造と商業化

合成生物学のエコシステムの構成が下図です。

キャプチャ

Ginkgoは、実現技術の市場機会について、2021年には細胞プログラミングの研究開発に約400億ドルが費やされ、そのうち60%が人件費、残り40%がツール(DNA合成、試薬、機器など)に費やされると予想しています。企業が合成生物学の力を活用しようと考える場合、戦略的な意思決定プロセスの一環として、研究開発を可能にする技術のポートフォリオを社内で構築することに意味があるのか、それともGinkgoのような企業に外注した方がより効率的なのかを判断する必要があります。

このように、Ginkgo社は、業界を超えた細胞工学のための水平方向のプラットフォームとエコシステムを開発しており、最終的には、企業が製品開発のために垂直統合する必要がないようにしています。言い換えれば、Ginkgoは、業界のようなニッチなユーザー層に特化した垂直的なプラットフォームではなく、業界に関係なく顧客が活用できるプラットフォーム(水平的なプラットフォーム)を開発しています。これらの企業は、Ginkgoのプラットフォームを利用することで、製品開発を垂直統合する必要がなくなります。つまり、合成生物学のプロセスで利用可能な技術の購入、構築、最適化を社内で行う必要がなくなるのです。

このような資本を必要としないアプローチは、医薬品開発やソフトウェアアプリケーション開発の民主化に貢献しています。生物学的製剤の開発では、CRO(Contract Research Organization:医薬品開発受託機関)やCDMO、必要に応じて商業化を支援する販売受託機関を活用して、分子を開発サイクルに乗せることが当たり前になっています。また、iOSアプリケーションでは、AWSのクラウドコンピューティングサービスとXcode(Appleの統合開発環境)を利用することで、最小限のハードウェアでアプリケーションを市場に投入することができます。

合成生物学の製品開発の状況が同様に急速に進展するならば、細胞プログラミングの研究開発費400億ドルの多くは、Ginkgoのような企業がファウンドリーサービスを利用して、クラウドコンピューティング企業がコンピューティング能力の利用に対して利用料を請求したり、CROがサービスに対して利用料を請求したりするのと同じように、利用料を請求できるようになるかもしれません。2021年に細胞プログラミングの研究開発用ツールに費やされると予想される160億ドルは、Twist、Berkeley Lights、Codexis、その他多くの企業など、実現可能な技術を持つ企業が対応できるでしょう。

最終製品に関しては、合成生物学がほぼすべての産業に変革をもたらす可能性を秘めているため、現在の市場機会と潜在的な市場機会を明確に見積もることは困難です。しかし、Zymergen社がボトムアップで行った産業別、用途別の分析結果(下図)によると、同社が製品化を目指している20の産業全体で、少なくとも12億ドルの市場機会があると考えられます。

キャプチャ1

McKinsey Global Instituteの報告書によると、今後10年から20年の間に、バイオエンジニアリング製品がもたらす直接的な経済効果は、年間2兆ドルから4兆ドルに達すると推定されています。この市場には、製品を直接投入する方法(Impossible Food社の「Impossible Burger」、Amyris社の「Biossance Beauty」、Zymergen社の光学フィルム「Hyaline」など)や、実現可能な技術へのアクセスと引き換えに資本参加やロイヤルティストリームを得る方法(Ginkgo社がMotif FoodWorks社やJoyn Bio社と行った方法)があります。平均ロイヤリティ率を5.0%~10.0%と仮定すると(治療薬のような利益率の高い分野ではもっと高くなる可能性があります)、Ginkgoが言う2兆ドル~4兆ドルの市場のうち、1000億ドル~4000億ドルがロイヤリティによって利用可能であると考えられています。


各主要市場における代表企業

以下では、合成生物学の主要な最終市場の概要と、早期にリーダーシップを発揮している企業を紹介します。

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