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分かりやすいプレゼンテーションとは

<オーケストラとプレゼンの違い>
 大量消費・大量生産の時代は,人海戦術的な力技で乗り切れることが多かった.でも多品種少量生産で,製品のライフサイクルも短い現代において,テクノロジーの進化とコロナによりリモートワークが加速した.だからこそチームワークが大切でそれを束ねるスキル本もたくさん売られている.リモートワーク以前と比べると,プレゼンテーション資料を作成して自らが発表する機会も増えたのではないでしょうか.
 オーケストラとかオペラとかを鑑賞して,それらが上手いかどうかを判断するには,それなりに深い造詣がないとなかなか難しい.でも,プレゼンテーションの上手い下手というのは,その分野に精通していなくてもすぐに分かります.それは鑑賞するということと情報を得るということの違いだと思います.何かを鑑賞するというのは,それらの背景などの知識を有していないと,それらが何を表現しようとしているのかを理解することができない.オーケストラやオペラ鑑賞といったものは,背景知識をある程度知っていることを前提として行われているし,その前提を演者と鑑賞者の両者ともに受け入れている.しかし,プレゼンはそれとは異なり,聴講者が理解できない責任のほどんどは,発表者側にあるのです.ここが鑑賞とプレゼンの大きな違いだと思いますが,多くの人がそのように認識していないのではないでしょうか.

<プレゼンターの心構え>
 無料で,聞いても聞かなくてもいいBGM代わりに,賑やかしのためにしゃべるのであれば,何をどんな順序で,どんなトーンで話をしようが構わない.でも,お金を頂いて話をする,あるいは無償だったとしても,誰かの時間を一定期間拘束しているのであれば,その人たちに対して,有益な時間を過ごしてもらう責務がプレゼンターにはあるのだという自覚が必要だと思います.先日,大阪大学の入学式をWebで拝見する機会がありました.学長のご挨拶,素晴らしいプレゼンを聴かせて頂きました.言葉を生業にしている人,人前で話す機会が多い人のプレゼンでも,分かりにくかったり,あまり響かない内容であることも多々あります.組織のトップの仕事は多岐に渡るのでしょうが,人の心に届く何かを届けるのが一番の仕事だと思います.
 世の中は,プレゼンに溢れていますが,良かった/聴く甲斐あったというものは少ないと感じています.そうです,他人のプレゼン批判は簡単です.振り返って,自分のプレゼンテーションはどうか.果たして,数十人の1,2時間を拘束するに足る何か価値あるものを提供できているのだろうか.述べたいことがちゃんと伝わったのだろうか.今一度,自分のプレゼンテーションについて考え直してみました.
 そもそも『自分の述べたいこと』ということすらおこがましいのではないのか.自分が有名人で,その分野で名を馳せていて,ほっといてもあなたの言葉が聞きたいといってもらえるような人でしょうか.松下幸之助でもないのに.無名の一個人のプレゼンです.まずは,聴講者(対象者)がどういった人たちの集まりなのかを考える.または,どういう対象者に対して話をしたいのかを考える.年齢は?,背景知識は?,性別は?,業種は?,学生/社会人/主婦...そしてそれらの聴講者である対象者(時には主催者の意向も反映しなければならない)らは,何を求めてこの会議室・会場に足を運んだのか.ここが最も大切です.自分が気持ち良く,用意した資料を滞りなく発表できればそれでOKというものではない.聴きに来てくれた人が満足する情報を提供できたかどうか,頂いたお金や拘束した時間以上の価値を提供できたかどうかがポイントなんだと.もっと言うと,聴講者に聴きに来てよかったと思ってもらえたかどうかが大事だと意識することがプレゼンの良し悪しを左右する根源なのだと思いました.

<プレゼンテーションの準備項目>
 私の考えるプレゼンテーションの準備をここに残しておこうと思います.

1.対象者について
 対象者が分からないと対策・改善のしようがない.自分のプレゼンをより良いものにするためにも,相手の素性を知る必要があります.はっきり言って,対象の属性が狭いほど,的を絞りやすく価値を高めるのがある意味で容易です.対象幅が広いと,バックグラウンドが多岐に渡るため,内容がどうしても広く浅くなってしまいがちになり,提供する価値も低くなりがちです.ですので,できるだけ聴講者の属性幅を狭めたいですね.これは発表者側も的が絞りやすくなりますし,聴講者側もよりディープな情報を得られるので双方にとって望ましい.主催者とよく相談して臨みます.

2.目的
 ついつい発表者視点での資料づくりをしてしまいがちです.自分が述べたいこと視点での目的になってしまっている.そうではなくて,聴講者視点が重要です.強く意識していないと,発表者視点になってしまいます.聴講者は何を求めているのか.どんな知識・情報を得たいと思っているのか.これを考えるためには,聴講者の身になって,彼らの課題や解決したい問題は何なんだろうと妄想することが大事です.

3.時系列で話すな
 欲張らない!自分の得た知識や伝えたいこと全てを盛り込もうとしてしまう.聴講者にとっては,必ず消化不良となってしまいます.全てを盛り込まない潔さが分かりやすいプレゼンを生みます.自分がやっきたことをリストアップする行為自体は問題ないですが,それをそのまま発表しようとしてしまうことに問題があるのです.頑張ってきたのだから,全て言いたい気持ちはあります.でも,そこはぐっと堪えて,リストアップしたものを優先順に並び替えます.私の経験上,ここで,自分が実施してきた時系列を崩す作業が最も重要です.そして,優先順位付けしたトップ3に絞って話をするように,発表構成を再度組み立て直します.何度も言いますが,自分が実施してきた順番ではなく,トップ3の項目がより理解しやすいように構成し直すのです.

4.あなたが賢いかどうかに興味はない
 ついつい苦労した項目については,話したくなってしまいます.でも残念ながら,あなたがどれだけ苦労したのか,それによってどれだけ賢くなったのかなんて,聴講者は1ミリも興味がないのです.私はスタッフに,そして自分自身に言っています.プレゼン資料を作成する時に心がけるたった1つのこと...
 『ご理解いただけましたでしょうか?お役に立っているでしょうか?』
もし,『難しだろ?すごいだろ?』という匂いがぷんぷんするプレゼンは,完全にアウト.

5.セルフQ&A
 資料作成とレビューが無事に終了したら,プレゼンの準備万端と思ったら大間違いです.さあ,最後の一踏ん張りです.これをやるかやらないかが,主催者に喜んでもらえるか,また呼んでもらえるかどうかを決定付けます.プレゼンを初めて聞く立場になって,自分で想定質問を10個くらいは,列挙する.それをグループ分けしてみる.専門用語を羅列してないか,説明に飛躍はないか,具体例が提示できているかなど.そうすることによって,自分のプレゼンの癖(良い点も悪い点も)が見えてきます.次回のプレゼンの改良点が明解になります.特に海外論文発表では,セルフQ&Aをたくさん作成しておいたことで,”助かった”と思うことがたくさんありました.

最後に
 自分のプレゼンを改善する心構えとして書き留めたつもりですが,ここまで読んで下さった方のお役に少しでも立てたなら幸いです.これからは,個人が発信する場面が非常に多くなると思います.限られた時間で,より価値あるものを共有していきたいですね,美しい日本語とともに.

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