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大学院進学へのきっかけ⑥

 先にも書きましたが,大学院博士課程(後期)入学(社会人枠)に際して,英語の試験と面接試験があります.大学によって異なると思いますので,自身の入学したい大学院の入試要綱をしっかり読んで調べてみてください(この要綱¥600〜1000で買わないといけないのですよ).それを読んで,もし少しでも気後れしたら,参考がてらにMITやカリフォルニア工科大学の入学Webサイトを見てみてください.研究室を調べて,教授にコンタクトを取って,渡米して入学することを思えば,な〜んだ日本だ.やれるぞと心配が吹き飛びます.この先,実験が予想通りにいかない,国際学会論文提出期限に間に合いそうもない,知れば知るほど,調べれば調べるほど,分からないことだらけということにたくさん遭遇します.その度に体調を壊している場合ではないのです.物事を楽観的に考えられるマインドをキープする訓練は,社会人博士課程を乗り切るのに欠かせないスキルでもあります.博士号への道のりは,今まさに始まったばかりです.大丈夫!博士号を取ったら,自分にどんなご褒美をあげようか.どんな研究・開発人生をエンジョイしようかと,期待に胸を膨らませながら,入学要綱を見るようにしてください(ちなみに,私は博士号を取ったら,自分へのご褒美として,50万円のエレクトーンを買うと決めてました.これは,後に父親からプレゼントとして送られてくることになるのですが).

 英語の試験は,長文和訳と英作文があったように記憶しています(何度も言いますが,大学院によると思います).まあこれは,外資系企業に勤めていたり,修士課程でちゃんと英作文をやってきた人なら問題ないレベルのテストだと思います.基本的に落とす試験ではなく,自分の実力を客観的に知って,精進を促す意味合いかと思います.博士課程に入学しようとしているのであれば,国際学会は必須となりますので,長文の読み書きトレーニングと英語でのプレゼンテーションは,日常から買って出るくらいの意気込みだと言うことなしです.

 面接試験では,A3用紙1枚にまとめた研究計画書をベースに質疑応答がなされます(30分くらい).社会人であれば,これまでの職歴をまず述べることになると思います.博士課程入学に際して,以下の準備をしておく.これは,明るいエンジニア人生を送る上でも,やっておいた方がいいと思います.
(1)自身のキャリアの棚卸し
 〇〇年 プロジェクト名 目的 内容 成果 技術要素 今後の課題
の一覧リストを作成しておくのは必須です.また,それらの要素技術の関連性についてもマインドマップに書き出してみる.
(2)自分がこれから蓄えていきたい技術
 自分の強みを生かした,興味のある技術分野は何なのか.高校生くらいまでは,不得意科目についても引き上げる必要がありますが,社会に出たら得意分野で勝負しなければ勝ち目はありません.ライフワークと思える分野に自分のエネルギーを最大限投下する.
(3)今後のトレンド
 現在の技術的課題のみならず,今後,予想される社会課題について言及してみる.必ず紙に書いてみる.書くことによって頭の中がすっきりしてくるし,空いたエリアに読んだ本や関連情報を書き込んだりするノートが宝物になります.
(4)博士課程
 上記(1)〜(3)を受けて,だから博士課程で○○のような研究を行い,XXの課題を克服することに貢献したい,ということを分かりやすくまとめる.

上記の(1)〜(4)間違い無く聞かれます.(4)については,おおよそのスケジュール(実験や論文発表予定)についても説明する必要があります(おおよそのスケジュールでいいし,後で変更となっても問題ありません.計画を立てていると言うことが大事なのです.).


(5)取得後に関する質問
 博士号を取得した後,会社に戻ってどのような貢献ができると考えているのか.という質問されたことには少し驚きました.ぼんやりと考えてはいたものの,文章としてちゃんとノートに書いてなかったので,ちょっと慌てましたが,なんとか回答しました.言われてみれば,そうですね.博士号を取ることが重要ではなくて,①社会的,技術的課題を発掘,②現存技術やその背景について整理,③課題克服のための仮説をたて,④課題を解決するための理論を組み立て,⑤アプローチ方法を考え,⑥検証シミュレーション/実験を実施,⑦結果分析・まとめ,⑧考察(成果),⑨今後の課題という一連のタスクを着実に遂行することが大事なのですから.社会人博士課程を卒業したら,同然その知見を会社に持ち帰って,いかに役立てるかをしっかり念頭に置いておかないといけない.

 入学試験が終わって合格となると,全学部合同の博士課程入学式もちゃんとありました.(式が終わって,先生方が退場された後に,我々入学生も講堂から退場するのですが,講堂の扉を出ると一斉にパシャパシャとフラッシュが光るではありませんか.えっえっ!?何これ,と思ったら私の前に歩いているのが大八木淳史さんでした.あーびっくりした.)

<社会人博士課程3年間>
日常のタイムスケジュールを記しておきます.
決してオーバーではなく,余裕で過労死ラインです.
 6時30 起床(平均睡眠時間5時間)
 8時30 仕事開始(会社に行って,普通に仕事.誰も何の配慮もない)
17時30 定時(残業がなければ)
19〜25時 自分時間

19時から25時まで6時間あります.帰宅/夕食/お風呂で2時間費やすとして,4時間/日が社会人博士が平日費やすことのできる研究時間です
土曜日と日曜日は14時間ずつ.したがって,平日(4時間 X 20日=80時間) + 土日(14時間X8日=112時間)の合計約200時間/月に研究に費やしました.お盆とクリスマス,お正月も含めて,3年間で数日しか休みのない生活で,3回過労で倒れて病院で点滴を打ってもらって,帰宅するというありさまでした.ねっ!いかに助走が大事かが分かってもらえます?

そんな甲斐あって,半年に1本ペースで論文を投稿できました(もちろん全て査読付きです).はっきりいって死に物狂いでした.1本をまとめながら,次の実験計画を立てて,実験設備の設計と発注を行う.そして理論式を組み立てながら,MATLABプログラミングするというような感じで,合計8本(内6本が海外)の学会論文を博士論文としてまとめあげることができました.あーしんどかった.今思い出すだけでも,心臓がバクバクしてきました.生まれ変わってももう一度やれる自信はない.30歳台だからできたけど,さすがに50歳でこの生活は無理ですね.

ありがたかったのは,お世話になった教授が,能力・人格的にも尊敬できる方で,研究が行き詰まりそうになって相談すると,一筋の光明が見えるようなアドバイスを下さったこと.人柄が非常に温和で,ランチをご一緒した時には,先生ご自身の苦労話や失敗談などを聞かせて下さって,私の心の負担を少しでも軽くしようとなさっていることが伝わりました.

せっかく6本の海外論文を投稿したのです.もちろん漏れなく発表しに海外出張させて頂きました.何で学会のために海外出張するんだと言われたり,予算確保に苦労しましたが,結局,実務と抱き合わせの出張ということで許可を得て,海外業務(打合せなど)の合間を縫って,全て私自身が海外学会発表しました.

思い出しながら,書いているだけで疲れてきました...こんな記事,ニーズがあるのだろうか.なぜこんなことを書いているかと言うと,今野浩さんが書かれた『工学部ヒラノ教授』シリーズがとても面白くて,全て読みました.これ,本当にめちゃくちゃ面白いです.ぜひご一読下さい.今野さんには足元にも及びませんが,私も自分の履歴の一部でも文章にしてみようという気になって書いてみました.もし,レビュー数が多ければ,それなりに楽しく読んでもらえたと判断して,もう少し色々書き続けてみようかと思っています.

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