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2/3開催【先進セミナー】不動産テックを1時間で解説~最新状況とそこに秘めたる大きな可能性とは~

皆さんこんにちは!ドコモ・ベンチャーズです。
今回は2022年2月3日に開催されたイベント

不動産テックを1時間で解説~最新状況とそこに秘めたる大きな可能性とは~

についてレポートしていきます!

本イベントには、リーウェイズ株式会社代表取締役CEOであり、不動産テック協会の代表理事も務めていらっしゃる巻口成憲様をお招きし、不動産テックに関する現状整理や最新テクノロジー、今後の展望などのお話をしていただきました。

・アメリカ合衆国における21世紀からのテクノロジーに関連した不動産業界の変遷はどのようになっているのか
・日本における不動産テックの現状と、「不動産共通ID」の導入がもたらす社会変革とビジネスチャンスはどのようなものか

といった観点に興味をお持ちの方に向けた内容となっております!

また本記事は

・不動産テックの取り組みに関心のある方
・不動産テックのジャンルやテクノロジーを短時間で整理したい方
・不動産関連のスタートアップ投資先を探している方
・不動産関連のアイデアや事業連携を模索している方
・不動産業界の今後を見たい方

などにとって必見の内容です。

特に不動産の分野にはテックが介入する領域が多く残されているため、DX化やAI活用、シェアリング、デベロップメント、スマートハウスなどに情報技術を生かしたビジネスチャンスを見出すよい機会になるはずです。
ぜひ最後までお読みください!

<リーウェイズ株式会社 代表取締役CEO 巻口 成憲氏>

300巻口

<プロフィール>
新聞配達専売員から社会人経験をスタートし、国内投資不動産デベロッパーに入社。財務経理全般の業務責任者を担当しつつ、システム責任者を兼任。
その後はKPMGコンサルティング(現プライスウォーターハウスクーパース)に転職。
MBA取得後、国内監査法人系トーマツコンサルティング(現デロイトトーマツコンサルティング)に転職。
2005年中古不動産事業を手がけるREISM株式会社設立に取締役CFOとして参画。加えて専務取締役に就任してリノベーション不動産投資ブランド事業を展開し、セミナー販売のみで売上高110億円の事業に成長させる。
2014年、不動産情報化事業を手掛けるリーウェイズ株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。

■デジタルトランスフォーメーションについて

不動産テックの拡大を語る前に、デジタルトランスフォーメーション(=DX)の必要性を確認しておく必要があります。

まずデジタルトランスフォーメーションとは、ただの業務効率化ではなく、新しい顧客体験を組み合わせてビジネスモデルを変革していくことを指しています。

厳密には、経済産業省の資料を引用すると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」とより詳しく定義されています。

しかし日本では、既存のシステムの置き換えとしてデジタル化しているケースが多く、特に不動産業界は、デジタルトランスフォーメーションが遅れています。

その現状については、下記「日本の不動産テック市場」にて解説します。

■アメリカ合衆国における不動産テックマーケットの変遷

ここからは、先進事例として、アメリカ合衆国における不動産テックの具体的な事例を取り上げながら、その変遷を辿ります。

・サービストレンドの推移

まず、アメリカ合衆国の不動産業界の歴史を紐解いていくと、不動産会社が提供するサービスの推移は、以下のように四段階に整理することができます。

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1.Portal/ Search Engine (2005~)
不動産の買い手(主に企業)が、不動産を選ぶ際に使用する検索システムを提供するサービス

アメリカ合衆国では1998年頃より不動産テックが注目されるようになりました。2005年以降は大手ポータルサイトZillowの登場により不動産のデジタル化が進み不動産テック1.0として発展しましたが、現状のサービスを補完する程度で不動産業界を根本から覆すまでには至りませんでした。

2.Sharing Economy (2010~)
不動産の所有者が、特に使用していないスペースを有効に使うべく、個人間で提供するサービス

2010年以降は、AirbnbやWeWorkといった従来型のビジネスモデルとは異なる新規ビジネスが登場し、不動産テック2.0として発展しました。

3.iBuyer (2015~)
AIを駆使した不動産の査定によりオンラインでの不動産の買取転売を行う。
Hybrid Brokerages
様々なテクノロジーを駆使して不動産仲介を行うブローカー
4.Power Buyer (i Founder) (2020~)
AIを駆使しつつ、不動産の買い手に資金を提供するサービス

2015年以降はテクノロジーを活用するハイブリッドブローカーが登場し、現在は不動産テック3.0の時代に突入し、既存のビジネスプレイヤーとテック企業が融合したビジネスモデルが展開されるようになりました。

またこれらのサービストレンドは、横軸に注目する顧客の対象、縦軸に不動産売買においてサービスを提供する部分という2つの観点を設定すると、以下の図のように整理することができます。

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ここには2. Sharing Economyの記載はありませんが、上の画像では第4象限(Seller Focus × Search)に位置します。

次に、近年アメリカ合衆国で発展しているHybrid Brokeragesと、iBuyerとPower Buyerを中心としたi-Marketplaceについて解説していきます。

・Hybrid Brokerages―テクノロジーブローカー

まずはHybrid Brokeragesに該当する企業に注目してみましょう。

特にアメリカ合衆国において上場している不動産テックとして、COMPASSやeXp Realtyが挙げられます。これらは不動産の買い手と売り手との仲介に特化しており、その両者のマッチングを効率的に行う過程でAIのようなテクノロジーを駆使しています。

COMPASSは高級物件に特化したサービスを展開しています。アメリカ合衆国では不動産エージェントとしての個人はいずれかのブローカーに属する必要があり、そのブローカーの一つがこのCOMPASSです。

eXp Realtyはバーチャル空間で、エージェントの業務をすべて完結させることが可能になっています。コロナ禍という昨今の情勢もあいまって、不動産仲介の件数はCOMPASSやRedfinといったほかのHybrid Brokeragesと比較しても二倍以上の伸びを見せています。

これらの新規プレイヤーの出現により、既存の不動産企業においても意識改革が起こりました。ここ数年は大手仲介会社のデジタルトランスフォーメーションも顕著に起こっています。

各社は「不動産企業」から「テクノロジー企業」として市場に発信するようになり、従来型の不動産ブローカーがエンジニアを採用、ソフトウェアを通じてエージェントを支援するシステムをつくるようになりました。

・iBuyer―オンライン買取転売ビジネス

iBuyerマーケットは2015年ごろから急速に市場を拡大し、OpendoorやOfferpadといった新興企業が次々に台頭してきました。
また、iBuyer市場の拡大を予測してアメリカ合衆国の不動産テック最大手のZillowもiBuyer事業に参入しました。実際にその市場シェアは2018年時点で3%であったのが、2020年には26%にまで上昇しました。
従来型の不動産ブローカー各社もiBuyerマーケットに次々と参入し、市場は急速に拡大していきました。
2018年に70%の市場シェアを誇っていたOpendoorは2020年にNasdaqに上場するなど、とても勢いがあるように見受けられます。

このように、新興企業や大手仲介会社のiBuyer事業への参入により、従来型不動産企業のテクノロジー化と、テクノロジー企業が不動産業界に参入する「融合」が始まりました。

しかし、iBuyerに該当する企業が取引する件数は、2019年において、全体の不動産市場のシェアの中で、わずか0.5%ほどしか占めていません。

Zillowも2021年iBuyer事業からは撤退を決めましたが、その大きな要因は事業を拡大しても大幅な赤字が続くというものでした。

iBuyerは、サービス利用料と住宅の価格差益、販売後の保険サービスなどから利益を得るモデルですが、このモデルを成立させるためには売り手の存在が必要不可欠です。もともと買い手を集めることを得意としていたZillowはこの市場に参入するにあたって、新たな部門を設置しなくてはならず、その固定費が高くついたことが赤字の原因でした。

・Power Buyer

近年は、i-Marketplaceのひとつである、物件購入希望者に資金を提供するiFunderが注目を集めています。

Power Buyerの定義については先ほど触れましたが、iBuyerとの最も異なっている点は、買い手に注目して投資を行うということです。一つ前の画像でいうと、第2象限(Buyer Focus × Transaction)に位置しています。

AIを利用した不動産市場を整理する際には、Power BuyerはiFunders(AIを活用した投資会社)として分類されます。

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Power Buyerは2020年から2021年にかけての成長率が約300%に達しており、特に住宅ローンからの収入を得やすいという点が、その成長に貢献しています。多くの大手不動産テックも事業展開を進めています。

・iClosers,  iRenters

アメリカ合衆国では不動産取引に様々なプレイヤーが関わり手続きも複雑です。また人口のるつぼであるアメリカ合衆国では、入居者管理や工事の管理も煩雑です。

そこで、iClosersやiRentersという新しいプレイヤーが出てきました。

・iClosers
複雑な仲介の手続きプロセス全体をオンラインで支援するサービス
・iRenters
不動産管理会社が潜在的に持つ顧客リスクの低減を目指すサービス

特にこれらの分野で事業を展開する会社は増加しており、上場の可能性がある企業は以下の画像のように整理されます。

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以上のように、全方位的に不動産のテクノロジー化が進み、日本よりも多額の資金調達が行われていることがアメリカ合衆国の特徴であり、ユニコーン企業の出現やマーケット拡大など不動産テック企業の成長のドライブとなっています。

■日本の不動産テック企業

・歴史と現状

日本における不動産テクノロジーの黎明期は1990年代後半ごろで、これはアメリカ合衆国と比較してもほとんど時期的には変わりません。

しかしアメリカ合衆国の不動産テックがwebサービスとAIの使用に向けて動いたのに対して、日本の不動産テックは集客に走ってしまいました。

その結果として、日本には不動産に関するデータの集積がないため、アメリカ合衆国にみられるようなAIによる価格査定を行うテック企業が生まれにくくなっています。

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日本では、アメリカ合衆国に約10年遅れて不動産テックが注目されるようになり、様々な不動産テックサービスが展開されるようになりました。
そしてコロナ禍では、非対面・リモートサービス、スペースシェアリングサービスなどの不動産テックが増加しています。

そうした中で必要性が高まっているのが、次に説明する「不動産共通ID」です。

・不動産共通ID

不動産共通ID(または不動産ID)とは、日本にある不動産ごとに与えられる、誰でも利用可能な識別番号のことです。

まず前提として、現在の日本にはどの企業や機関も共通して使用している不動産の識別番号のようなものは存在しておらず、不動産取引に必要な情報も各省庁・行政機関が、主に紙ベースで分散して保有しています。

そこで不動産共通IDを作成することにより、不動産のデータベースの蓄積に加えて、加工しやすい状態のデータが集まることになるため、不動産会社、不動産の買い手と売り手、不動産管理会社、行政機関など、不動産市場に参加するすべてのプレーヤーにとってメリットが生じます

その不動産共通IDを発行する取り組みを行っているのが、巻口様が代表理事を勤める一般社団法人不動産テック協会と株式会社Geoloniaです。

同じ物件でも住所の数字が漢数字かアラビア数字か、ということが不動産会社ごとに違っていたり、不動産の所有者が建物名を変更したりする可能性を有していますが、そうした違いや変更があったとしても、それを一つの不動産として管理、情報収集が行えることが不動産共通IDの魅力です。

不動産共通IDについては、国土交通省もその整備を進めていますが、不動産登記簿に記載している不動産番号をベースとしているため、デジタル化が難しいという状況です。登記簿謄本の取得費用が都度必要となるだけでなく、A P Iで自動取得する方法が現時点でないためです。

一方巻口様らは、不動産共通IDを使いやすく且つ不動産業界全体の取引を円滑にするために、この不動産共通IDのみを利用するためのAPIについては原則無料です。
正規化された住所や建物名を取得するAPIは有料で提供する予定です。

・不動産共通IDが持つ可能性

不動産共通IDの利用が拡大すれば、不動産業界に存在するデベロッパー、仲介会社、管理会社、テック会社といったすべてのプレーヤーがメリットを享受できるようになります。

例えば、スマートロックの在宅情報と宅配業者の配達情報をリンクさせることで、住人が不在でもスムーズに郵送物が届けることができ、宅配業者の課題である再配達を避けることができます。
不動産特定することで空き家の把握や管理もしやすくなります。

さらに、例えばビルの電力データと人物データを組み合わせて販促予測に活かすなど、不動産データの連携によってより高度なデータ活動が実現できます。

データを利用することでスマートシティの運営にも活かすことができます。

この変化こそがデジタルトランスフォーメーションなのです。

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アメリカ合衆国の不動産マーケットがデータ活用をすることで発展したように、日本においても不動産共通IDによってそのようなマーケット環境へと成長することが期待されます。

不動産共通IDを通じたAPI連携によって不動産プレイヤー間のコミュニケーションが容易となり、今後の不動産テックを牽引することとなると考えられます。

■Q&Aセッション

Q1.アメリカ合衆国にも不動産IDはあるのか。

A.ありません。ただしアメリカ合衆国では、不動産のデータを集約しているMLS(Multiple Listing Service)から、そのデータの利活用が可能になっています。
RESO(Real Estate Standards Organization)が提供する標準化されたデータのカタログに従ってデータを作成すると、データの連携がしやすい仕組みです。

一方で、日本には、REINSというアメリカ合衆国のMLSを参考にして作られた不動産情報システムがありますが、それはデータの二次利用禁止という規約になっています。加えてREINSは日本の全不動産情報の1割程度しかカバーしていないと言われており、データの蓄積や分析も規約上できません。そのため、不動産共通IDによって民間ベースのデータ連携が進めばアメリカのような分析も可能となると考えています。

Q2.日本の不動産市場は、アメリカ合衆国に比べて情報の非対称性が高いといえるが、日本で不動産テックの事業拡大が遅れているのは、不動産共通IDがないことに加えて、これも原因になっていると考えてもよいか。

A.間違いないと思います。実際に日本の不動産業界における情報の非対称性については、昔から指摘されています。

JLLによるグローバル不動産透明度インデックスでは、日本の不動産会社のガバナンスはかなり低く評価されています。実際にそうした状態が会社-顧客間などの情報の非対称性を生じさせ、不動産テックの拡大を遅らせている要因となっていると考えられます。

Q3.不動産共通IDによって、指摘されていたような不動産業界のプレーヤー間に生じていた問題は解消可能なのか。

A.まず、不動産総合データベースを作ろうという企画は以前からありましたが、失敗に終わっていました。その原因は、総合データベースを作るために不動産会社に情報提供の協力を要請したものの、不動産会社側が自身の情報提供を拒否したためです。

それを踏まえて、今回の不動産共通IDを作ろうという取り組みは、情報の統合をせず、住所や建物名という公に開示されているデータを使用し、共通IDを付与することで整理します。

共通IDにより、不動産テック会社を通すことなく、直接的に企業間同士でやり取りをすることが可能になります。

また、不動産会社も情報統合のための情報提供が不要のため、デメリットにはなりません。

Amazonやヤマト運輸、ライナフが連携して、不動産テック協会を介さず置き配のサービスが誕生した事例からもわかるように、共通IDによって企業間連携が自動的に進み新しいイノベーションが生まれる可能性があります。

不動産業界やそこに隣接する業界にある課題は、プレーヤー同士の相互作用で解消されていくと考えます。

Q4.国が取り組んでいる不動産ID(=国策ID)と不動産テック協会の不動産共通IDは共存の道にあるのか、それとも国策IDは不要なのか。

A.不動産共通IDにも限界があります。その限界とは、建物名が特定される不動産しか扱えないという点です。そのため、戸建てや地番表記のみの駐車場などに不動産共通IDを付与することができません。

一方、国土交通省が進める地番ベースの不動産IDは、駐車場等の特定には有用です。国土交通省側で不動産IDの作成を進めていただき、行政が持つデータと互換を行えるシステムさえあれば、より連携しやすい仕組みができます。

また質問の回答としては共存は可能です。不動産共通IDと国土交通省側の不動産IDが連携できれば全体にとってメリットになります。不動産共通IDが想定するAPI連携網は下図の通りです。各IDによる補完的な関係が理想です。

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Q5.不動産共通IDは現在どれくらいの企業・団体が利用しているか。

A.去年(2021年)の11月に正式版をローンチして以来、100を超える企業・団体に試験運用していただいております。利用者の幅は企業だけなく、官公庁にまで拡大しています。

Q6.日本では、例えば日本企業によるシェアリングエコノミーがうまく形成されていないように思われるが、それは既存のビッグプレーヤーにつぶされてしまうからではないか。こうした状況の中で、不動産テックは既存事業主との対立を超えることは可能か。

A.日本におけるBtoBの企業は事業拡大の余地があり、そうした事業は既存のビッグプレーヤーに受け入れられやすいと言えます。

一方で日本では、調達可能額がアメリカ合衆国に比べて小さいことから、ユニコーン企業が誕生する可能性はきわめて低いと考えています。

だからこそ、新たなビッグプレーヤーの誕生を待つ代わりに、プレーヤー同士が連携してエコシステムを形成するという動きが期待されます。そうした観点で見ても、不動産共通IDはエコシステムの形成に貢献すると考えます。

まとめ

今回は不動産テックの現在にいたるまでの趨勢と、不動産共通IDの必要性と展望についてお話いただきました。

不動産共通IDの導入の取り組みはまだ始まったばかりのため、今後企業や行政機関がどのようにIDを生かしていくかに注目したいところです。

Q&Aセッションでは、不動産業界の「エコシステム形成」についても説明がありましたが、不動産共通IDを生かした新たなビジネスチャンスが、不動産共通IDの普及に伴ってさらに拡大しそうです。

また意外な点は、不動産共通IDの普及によって、不動産業界だけに留まらず様々な課題に対応できる可能性があるということでした。今回は運送業界での導入事例を説明されていましたが、この不動産共通IDによるデジタルトランスフォーメーションは、おそらく想像をはるかに超える可能性を秘めていることでしょう。

今後もドコモ・ベンチャーズでは週1回以上のペースで定期的にイベントを実施し、その内容を本noteでレポートしていきます!引き続きイベントレポートを配信していきますので、乞うご期待ください!

次回は【スタートアップピッチ】ヘルスケアスタートアップ最前線~注目市場フェムテック関連4社をご紹介についてのレポートです!

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