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「All 4 Customer 2024」現地レポートーセッションで語られたCSRと顧客体験の差別化ー

はじめに

3月26日から28日の3日間に渡り、マーケティング領域に特化した展示会「All 4 Customer」がフランス・パリで開催されました。

「デジタルマーケティング」「カスタマーエクスペリエンス」「Eコマース」「データ」「AI」の5つのテーマを軸に開催され、総勢275社のスタートアップや大手企業がフランス国内外から参加しました。

今回はパリに拠点を置くRouteX Inc.を通じて、現地の様子や出展スタートアップをご紹介します。

会場の様子

会場は、パリ南部のPorte de Versaillesにて行われました。
同会場は、1937年のパリ万国博覧会の会場としての歴史を持つフランス国内でも有数の展示会場です。

RouteX Inc. 撮影

会場内には、スタートアップだけでなく、ZoomやHuaweiなど大手企業など、世界中からデジタルを利用したCX向上に寄与する企業が集まっていました。

RouteX Inc. 撮影

近未来的なデザインや庭をイメージしたものまで、来場者の興味を引くための展示が数多くあります。 

RouteX Inc. 撮影

また展示を行うのは企業やスタートアップだけではなく、業界団体の出展もありました。
Le Voice Labは、フランス国内の音声と言語関連の技術に取り組む企業が所属する組織です。 

RouteX Inc. 撮影

また、会場内では常に有識者によるパネルディスカッションやワークショップが行われていました。
公式発表によると3日間で179ものセッションが開催されており、どれも多くの人でにぎわっていました。

RouteX Inc. 撮影

次に、数あるセッションの中から「CSR/ESG:顧客体験の差別化要因」というテーマのセッションをご紹介します。

CSR/ESG:顧客体験の差別化要因

出典:Weyou Group(YouTube)

CSRやESGは、ある企業にとっては規制上の義務であり、ある企業にとっては深い差別化の源泉ともなりうるものですが、収益性の無い事柄へのリソース投下に対する躊躇や「グリーンウォッシュ」と非難される可能性など、積極的に促進しづらい状況にあり、ジレンマを抱えやすいテーマです。
このセッションでは、3社の具体的な事例を交えながら、その促進方法について議論されました。
内容を要約してお伝えします。

登壇者は、ガーデニング用品メーカー Truffautのジャン=ジャック・ベナムー氏、子ども服メーカー Jacadiのデルフィーヌ・オディベール氏、量り売りの食料品チェーンを展開するDay by Dayの共同設立者であるデイビッド・スートラ氏です。

Truffaut社の事例として、ジャン=ジャック・ベナムー氏は、CSRを従業員教育に取り入れた事例を紹介しました。
同社は、従業員が水管理などの社会問題について理解を深めることで、結果的により環境意識の高い顧客層を取り込むことができ、事業シナジーを生み出すことに成功したと説明しました。

Jacadiのデルフィーヌ・オディベール氏は、同社が子ども服を買い取り、再販するプラットフォームを立ち上げたことを紹介しました。
循環経済を促進した結果、同社の主要顧客層の富裕層が重視する「持続可能性」の期待に応えることができたとしましたが、同時に「プレミアムな顧客体験」が提供できているかは疑問とし、改めて現代人の消費行動と循環型経済の両立の難しさを提議しました。

それを受け、過剰包装や包装廃棄物削減など、実際に「持続可能性」に軸足を置いて事業を展開しているDay by Days社のデイビッド・スートラ氏は、「責任ある消費」への社会的なシフトが見られていることを指摘し、たとえ商品が経済的でなくても持続可能な実践を行う人が増えていると強調しました。

ディスカッションの最後では、CSRをCXに組み込むことは、単に消費者の価値観に訴えるだけでなく、競争市場においてブランドを差別化する上で重要な役割を果たすことが、3社の総意として述べられていました。

セッションは終始フランス語ですが、YouTubeに動画が上がっていますので、ご興味のある方はご覧ください。

出展スタートアップのご紹介

All 4 Customerでは、多くの企業やスタートアップがCX向上のためのソリューションを展示していました。
本記事では注目の4社をご紹介します。

Q emotion

RouteX Inc. 撮影

Q emotionは、感情分析に特化したフランスのスタートアップです。

インターネット上や会社に直接寄せられる顧客のレビューを収集し、感情の分析を行うソリューションを開発しています。

AIが自動で感情分析を行うことでテキスト分析にかかる時間を削減し、顧客の不満や課題を正確に導き出すことができます。

pitchy

RouteX Inc. 撮影

pitchyは動画作成を簡易化するソリューションを開発・提供する、フランスのスタートアップです。

ユーザーは、テンプレートと編集用AIを使用することで、動画制作にかかるコストを大幅にカットすることができます。
既にLVMHやDanone、Air France、Carrefourなど数々の大企業に導入されており、フランス国内で注目が集まっています。

Gany lab

RouteX Inc. 撮影

Gany labは接客ロボット”Gany”を開発するフランスのスタートアップです。

Ganyは自律して人混みの中を移動し、フレッシュカクテルを作ったり、ゲームを提供することができます。

広告を流すことも可能なので、カンファレンスやスポーツのイベント会場などで、プロモーション媒体としても活用されているとのことでした。

Visibrain

RouteX Inc. 撮影

Visibrainは、ソーシャルメディア監視および分析ツールを提供するフランスのスタートアップです。
企業がオンライン上の会話やトレンドをリアルタイムで監視・分析するのを支援します。

主要な機能には、リアルタイムのデータ収集、詳細な分析とレポート作成、アラート機能、競合分析などがあり、デジタル上のブランドレピュテーションを瞬時に分析しレポート化することが可能です。

出典:Visibrain

企業は、インフルエンサーの反響に応じたマッピングや、顧客に応じたトレンドやキーワードを常時モニターすることで、タイムリーな戦略を立てることができます。

おわりに

いかがでしたでしょうか。
今回はマーケティング領域に特化した見本市「All 4 Customer」の様子をお伝えしました。

最後に、本記事でも紹介したCSRについて、東京財団政策研究所の「CSR企業調査アンケート」から、日本企業の取り組みについて確認したいと思います。

同ページによると、日本企業のCSR活動は社会的課題の解決に向けた取り組みとして、特に事業プロセスの見直しや研究開発・販売活動(CSV)を通じた活動が重視されていることが明らかになりました。これに対し、寄付や社員ボランティアなどの社会貢献活動は相対的に少数です。
また、「CSR活動の効果」については、収益性の向上よりも、企業イメージや従業員の意識向上などの感覚的効果に対する回答が多く、収益に関わる回答は比較的少数でした。

以上より、CSRについては日本もフランスと同様の状況であり、収益が伴わないために消極的にならざるを得ない状況であることが推察されます。

社会課題に対する企業姿勢が注目される中、各企業はCSR活動を収益性も追及できる取り組みとなるように工夫し、特に日本企業は海外企業と競争していくために「顧客体験の差別化要因」として成立させることが大切になりそうです。

本noteが皆さまの学びやインプットに資するものとなれば幸いです。


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