病室で釣りをする男の話を話すあなた

(前回の続き(一応))

ただいまあ
隼人大丈夫だった?
あ、ずっとお昼しててくれたの。よかった。夕飯の支度するね。
え、カレー作ってくれたの?
わあ、ありがとう!

今日?楽しかったよ。
ケーキがなかなか美味しい店でね、おかげさまで優雅な時間を過ごせましたよ。ありがとね。

…ねえ、あなたそういえば、さやかって覚えてる?
そうそう、沖縄で結婚式挙げた子。
あの時はまだ隼人も産まれてなくて、2人で旅行も兼ねて、沖縄行ったよね。
今はあんな優雅なこと、なかなか出来ないけど、そのうち家族で行きたいね… 

…そうそう、そのさやかって病院に勤めてるんだけどね、その病院で1日中、毎日釣りしてる人がいるんだって。

違う違う、釣り堀があるとかじゃなくて、病室から出られない人らしいんだけど。

その人にとってはベッドが船で病室が海なんだって。

や、どういう病気、とかは詳しくは知らないんだけどねー…

けど、そのあとみんなで話してたんだけど、ひとって意外と自分が信じてるもの以外見えないというか、記憶にも残ってないことあるよねって。

わたしもさ、ここにもう4年くらい住んでるけど、隼人が産まれて初めて、あ、ここに保育園あるんだ、とか病院がある、とか気付いてさ。

なんか同じ街に住んでるのに、目に飛び込んでくるもの、変わったんだよね。

目には自分が気付きたいものにフォーカスしちゃうフィルターみたいなものがついてるってことなのかな。見たいって思ってないものは排除されちゃってなかったことにされちゃってるってこと?

じゃあ、同じところ歩いてても、他の人には全然違う景色が見えてるってことなのかなあ。

さすがに病室が海…は、やりすぎな気がするけど。

そういえば、お父さんもそんな感じのこと言ってたなあ。

うちのお父さん色の見分けがつきにくいらしいじゃない?

そうそう、ピンクとかと緑のとかの見分けがイマイチ判断しづらいらしいのよね。
けど、そのことに小学生3、4年生まで気付かなかったんだって。

美術の時間に新緑の木をの葉をピンクで塗ってて、桜が満開みたいになってたらしいの。
それで美術の先生が、凄い感性だ!!とか言ってたら、本人にはそう見えてたっていう…。

けど、不自由したことなかったから、気づかなかったし、今も不自由したことはないっていってる。

それに、他の人の目を抜き取って見て、他の人の脳味噌を借りて判断することって不可能なわけじゃない?
だから、あなたとわたしだって、同じピンクを見てるかはどうかは永遠にわからないのよね…。

他の人がなにをどう見てるかって、言葉では説明できるけど、究極的には共有できないってことなのかな、
ねえ、あなたはそういうこと思うことある?

あ!隼人お茶こぼしちゃったのお?あなた、なにかふくもの取ってきてくれる??

(つづく)


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