『連ちゃんパパ』はアベンジャーズ級のスーパーヒーローヒューマンドラマだった

ツイッターでめっちゃ流行ってるんで気になって読み始めたらもう面白くて面白くて。

ただし、世間の感想と僕の感想があまりにかけ離れていった。ツイッターで出回ってるスクショの多くが“悪意ある切り抜き”をしている。日ノ本進という人物の名誉のためにも考察したい。

言っときますけどもアベンジャーズは大好きです。

スーパーヒーローの原則

スーパーヒーローには2つの原則がある。

①愛するもの・守るべきものがいる。

②超常の力を持つ。

そしてその力を使い、守るべきものを何としても守り抜く。これがスーパーヒーロー。

アイアンマンやキャプテンアメリカはスーツや己の肉体を使って、愛すべき友・家族のために戦うのだ。仮面ライダーもプリキュアも全てのスーパーヒーローがそうだ。(ウルトラマンとセブンについては話がややこしくなるので除外してください。)

スーパーヒーローの宿命と苦渋の選択

スーパーヒーローは時として苦渋の選択を迫られる。世界を取るか、それとも愛を取るか。

「ソコヴィア協定」の批准を巡ってアイアンマンとキャプテンアメリカは対立した。表向きはこの協定の正しさについて口論していたが、つまるところアイアンマンの愛するものは協定によって守られるのに対し、キャプテンアメリカの愛するものは協定によって守られなかったのだ。

愛する民を守るために故郷を業火に晒したソー、愛する国を救うためにクーデターを起こしたブラックパンサー。愛のため、ある種の残虐性をも持たねばならないのがスーパーヒーローである。

サノスは全体主義を愛よりも重んじるが故にスーパーヒーローとは呼ばれない。

浩司にとってたった1人のスーパーヒーロー

日ノ本進の行動原理は常に一貫している。

浩司(息子)と暮らすためなら手段を選ばない。

浩司に家を用意し飯を食わせる為、その時できる最良の選択肢を取っているに過ぎない。借金取り・パチンコ・(自主規制)といった一般的な倫理観から外れた手段ではあるが、これが日ノ本進が持つ超常の能力であり、彼にとってパワードスーツやヴィブラニウムの盾なのである。

しかも、彼はそれらの手段に安易に手を出さないことが状況的にわかる。バイトや仕事のつてがあるときはパチンコを打たないのだ。(各パチンコシーンには必ず家賃がない等の状況的根拠が明示されている。)己の欲望のために行動をするような男ではない。むしろ私利私欲のために日ノ本親子を陥れんとする周りの人物が悪なのだ。

浩司はその父親の姿を知っているからこそ、どこまでも父親思いなのだろう。まさに世界の邪悪から愛する息子を守るスーパーヒーローだ。

そんなスーパーヒーローが息子との生活を守るため、私利私欲に塗れたあらゆるクズをぶちのめす、それが『連ちゃんパパ』のカタルシスである。

日ノ本進のもつ残虐性の裏付け

この作者が素晴らしいのは、日ノ本進の人物性についてしっかりと説明していることだ。

①息子への愛情

冒頭の数話で日ノ本進の息子への愛情は説明されている。

妻・雅子は借金を残して失踪する。進は息子の「お母さんに会いたい」という言葉のために無断欠勤してでも妻を探す旅に出る。借金を取り立てるためではない。顔を合わしてすら借金を返せとは言わないのだ。

後に雅子が家賃を使い込んでいたことを知り、雅子に怒りを初めて怒りを抱く。金に怒っているのではなく、息子の生活の危機に怒っていると考えれば筋が通る。

息子を妻に金で売るエピソードがあるが、息子の幸せについて本気で悩んでいること、次の回では本心から悪気がないこと、この漫画世界において演技をして人を騙す時は冷や汗を垂らさないことから、進は私利私欲のために息子を売った訳ではないことがわかる。(そのサイコパス性が彼を読者感情から引き離すのだが)

②サイコパス性のルーツ

日ノ本進に感情移入できない最も大きな原因はここだと思うが、非常にシンプルに説明されている。田舎の父親がクズである。

この父親は息子である進をまるで信用しておらずそれ故に決別することとなる。

また「遊び経験のない人間が遊びを覚えるとロクなことがない」という進のセリフ、登場する教師が全員真面目気質な人物で描かれていることから、おそらくこの父親はかなりエゴに塗れた養育をしたように推察される。

そして、その反動が彼に彼なりの子供愛をもたらしているのかもしれない。実の息子だけでなく連れ子までも守り塾生には慕われるほどの子供愛である。

隙のない傑作、『連ちゃんパパ』

全ての登場人物がクズと評判だが、日ノ本進の行動原理については隙がなく説明されているのが本作最大の魅力と感じた。自分の持つ一般的常識や倫理観がいかに不確かなものかと考えさせられる。自分は将来、息子を育てるためにあそこまでの鬼になれるだろうか。

以上、サイコパスによるサイコパス感想文でした。






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