“主人公の成長”ってやっぱノイズなんかなぁーっていう
『君たちはどう生きるか』観てきました。
シンプルに楽しかったです。
人生初の“初見映画館ジブリ”をさせてくれる今回のプロモーションは純粋にとてもありがたい。ジブリといえば内容全部知っててリビングで観るやつみたいなところがあって、「このお話はどういうお話なんだろう⋯」ってジブリ映画を観られる体験自体が貴重。
なんだけどタイトルで煽りつつ内容も見せないプロモーションで観る側にガッチリファイティングポーズ取らせておいて、強すぎるメッセージがあったり説教臭かったりするわけではなかった為、若干の拍子抜けを覚えてしまった。
そこが宮崎駿という人のミソなのかなぁ〜という考察です。
本編の話ほぼゼロです。
一般的主人公の成長
例えば、主人公が恋に落ちたり、友情に燃えたり、復讐に駆られたり、そういった感情の移動がわかりやすいイベントを起こして主人公に行動させていく。その時の行いが一般的であればあるほど観る側が共感して作品にのめり込んでいく。敵側にサイコパスを用意することでもまた対偶が得られ共感できる。「友情・努力・勝利」鉄の掟である。
過激なことを言えば、“主人公の成長”を中心とした作劇とは、観客に共感をもって喜ばせるためのテクニックでしかなく、作者のモチベーションと必ずしも重なるものではない。
ふと『サムライ8』という漫画作品を思い出してしまうが、著しく脱線してしまうので、気になる人は調べてください。
でもガンダムの話はちょっとさせて欲しい。
ガンダムの主人公は色々なイベントに直面し成長を果たしていく。最初は未熟だったキャラクターが成長していく様に共感できるのだが、唯一無二の体験を以て唯一無二の人格を成し、時に視聴者が共感し難い選択、だが本人がそうするだけの信念ある選択を取るようになる。
そこにカタルシスを得られるか、はたまた解釈違いだとブチ切れてしまうか。ガンダムシリーズ全てに通づるコンセプトだと思う。
本編終了後、彼らはどう生きていくのかを視聴者に投げる。そこに「正解」はないのだが⋯(文章はここで途切れている)
世界観構築が楽しいタイプのクリエイター
人間関係それ自体を創作したいのであれば、主人公を成長させてそれを取り巻く人物との関係を描いていけばいい。
ただし、ファンタジー世界それ自体を構築したいというモチベーションも当然ある。その世界で自分も暮らしてみたいと思わせる魅力あふれる世界。
ホグワーツに通ってバタービール啜りたい、ジェダイになってスターファイターで銀河を駆け回りたい、電脳化してネットの海を潜ってみたい、ファティマと一緒に星団を放浪する騎士になりたい⋯
作中に広がる世界が緻密であればあるほど読者は興奮し、オタクはストーリーそっちのけで盛り上がりすらする。
そして宮崎駿という人は正に世界観構築において世界一の才能があるお方だ。(ということを僕は忘れていたのかもしれない。)
圧倒的創作力とそれを裏付ける画力が、新たな世界への旅に私たちを誘う。
本作『君たちはどう生きるか』も、未知の旅をさせてくれた。
共感と世界観のトレードオフ
観客側のキャパシティには限界がある為、それに収まる量で作品を創る必要があり、”共感“と”未知“という相反する要素をどうバランスするかという問題が起こる。共感が強ければパンピーウケするし未知感が強ければオタクウケポイントが増える(暴論)
そこでその両方を同時にバランスよく摂取させるための”溶媒“になるようなストーリー技法がいくつかある。
・世界の謎とその解明
作品世界に大きな謎を用意し、その謎を解きたいという主人公に共感できる大筋。
ラピュタ城と少女の謎、それを解きたいと思うパズーのモチベーションにはとても共感しやすい。もしシータが主役で自力でバルスを目指す話だったら絶妙にハマりにくいお話になっていたかもしれない。
・世界の謎には無関係の冒険
主人公がある目的を持って旅をする。旅の途中で様々な人物・地理・環境と出会い、その過程で世界を見せる。
主人公の目的と強く関係しないが故に自由に作品世界が広がるし、場所を変えて多くのパターンが見せられる。先々での小目的が発生してたくさんのエピソードが作れる。
千尋の目的は一貫していて、その過程で神々との出会いが都度都度あって行動をとる。沢山のロケーションが作中に繰り広げられていく。
・年表
もう関係ないところは本編でやらないから気になる人は資料集読んできてよ作戦。
スターウォーズとガンダムをご覧ください。
本編という年表を軸にスピンオフの量産が可能。年表大前提というトンデモ作戦のファイブスター物語は誰も真似できない発明。
『ナウシカ』はかなりこれに近い。
・あんま喋んない主人公でロールプレイングゲーム
プレイヤーの分身となる人格が作品世界を冒険してくれる。
最近はハリーポッターもスターウォーズも質の高いオープンワールドゲームが作られるようになって本当に素晴らしい時代ですわ。
パッと思いつくあたりではこんな感じ。もっと色々あるかもしれない。
宮崎作品が一般に広く受けるのも、上二つのストーリーラインを中心に据えながら独特の世界観を繰り広げるバランス感覚が絶妙なのだろう。(これが鈴木Pの手腕の可能性も大いにある。)
とはいえ世界観をもっと描きたい!
2時間の映画中でいちいち心情説明に時間割いていたら描きたいものが描けない!
カッケぇ画にイカちぃ音をのっけてエグい映画を作りたい!主人公の心情説明なんかしてたら時間が足りねぇんじゃ!キマってる心理描写以外はやらん!世界観をぶちまかしたれ!
という宮崎先生の根底の欲求に鈴木Pが白旗あげた作品なんじゃなかろうか。
ので、観てる人に説教してやりたいとかメッセージ残したいとか心に傷をつけたいとかそんなモチベーションが特段強いわけでもなくて、自分がやりたいバランス感覚で世界観ぶつけてやった作品なんじゃないかと思う。
ということで本当に素敵な娯楽映画なので肩肘張らずに観たらいいんだと思いました。
リビングでゴロゴロ観るのもまた良い作品なんだろうなぁ。
オタキングみたいな言い方すると
心理描写で悩んでるようだねアンノ君!心理描写なんてこんな文量で十分なんだぞ!君は世界観を描きたいんだからそれをもっとぶつけて⋯⋯あれ?シンシリーズ、よく出来てるね⋯⋯俺の方が絵上手いもん!!ふーーーんんだ!!
でもそれもこれもさぁ⋯
声優が演技下手なせいで、演技で魅せられる要素ごっそり抜けてるんじゃねーのっていうね
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