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日本の産業変革をSaaS起業家と共創するーーデジタルホールディングス グループCEO野内敦氏がVC出資を通じて実現したい未来

この度DNXはシードスタートアップを対象とする新ファンドを組成しました。本ファンドからはすでにいくつかのスタートアップへの投資も実行しており、更にSaaSを中心にB2B領域で挑戦する起業家のみなさまを力強くサポートしていきたいと思っています。 

シードファンド組成にあたっては、いくつかのLP企業様にご出資をいただきましたが、そのなかから今回は、デジタルホールディングスのグループCEO野内敦さんをお迎えします。

野内さんは、これまでオプトの共同創業者として上場に貢献された後、オプトベンチャーズ(現Bonds Investment Group)として投資事業も立ち上げられ、昨年デジタルホールディングスの代表取締役社長 グループCEOに就任。事業会社が行う戦略的なVC投資から、DNX Venturesへ期待すること、シード投資先とのコラボレーションまで、弊社倉林がたっぷりとお話を伺いました。

野内 敦 デジタルホールディングス 代表取締役社長 グループCEO
2020年4月、株式会社デジタルホールディングス代表取締役社長 グループCEOに就任。同社共同創業者。
2006年からCOO、その後数々の戦略子会社の設立・運営に携わる。
2013年より投資育成事業の責任者として陣頭指揮を執り、出資先への経営指導やビジネスモデル開発において、数多くのベンチャー企業のIPOを支援し大きな成果を納める。
現在はBonds Investment Group株式会社の代表取締役を兼務。

戦略投資と純投資、どちらも経験した今だからこそ、変革を推進するCEOへ

倉林:野内さんと初めてお会いしたのは、私がGlobespan Capitalにいた2010年頃だと思います。ファンドレイズ目的でお邪魔しました(笑)。その後、仕事でご一緒させていただいたのがSalesforce Venturesにいた時です。ホットリンクへの投資でご一緒したんですよね。取締役会での野内さんのコメントが極めて地に足がついていて、実際に事業を立ち上げて上場させた方のアドバイスはレベルが違うと実感したのが印象に残っています。

野内さん:嬉しいコメントをありがとうございます。当時オプトは、デジタルマーケティング領域で戦略投資を始めたところでした。広告代理店として、デジタルマーケティングの新しいプロダクトやサービスと連携していきたかったんですね。その後、新しいスタートアップが次々と出てくる中で、デジタルマーケティングという領域の延長線だけで新しいビジネスモデルを見ていくことに限界を感じ始めたんです。そこで戦略投資ではなく、純投資をしていこうと決めて、50億円の予算を取って始めたのがオプトベンチャーズです。これが現在のBonds Investment Groupの原型ですね。

そして戦略投資と純投資どちらも経験する中で、自分たちこそイノベーションを牽引する存在にならなくてはいけないのでは、という危機感を持ったことから、昨年自社を変革させるべくグループCEOに就任しました。前グループCEOで現代表取締役会長の鉢嶺とは異なり、私はどちらかというと傍流だと思っています。でも会社全体を大きく変えていこうという局面では、これまでとは異なる視点も必要だろうと考えたわけです。

倉林:過去を振り返ってみると、御社のCEOは鉢嶺さんがやられていて、海老根さんになって、また鉢嶺さんに戻って、今度は野内さんになって。会社のステージに応じてやるべき人がやるということになっているのかなと、外から見ていて感じます。

野内さん:その通りですね。今は変革期なので私がやる。そのように決断しました。

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なぜ今デジタルホールディングスが、B2B SaaS事業へ投資するのか

倉林:改めて今回はシードファンドにご出資いただき、ありがとうございました。出資の背景としては、やはり御社もB2B SaaS事業を展開していこうとされているからでしょうか。

野内さん:その通りです。日本でデジタル化による産業変革が遅々として進まないことについて、事業家・投資家として問題意識を持っていました。そう思うのであれば、私たちが率先して産業変革を進めるためのアクションを起こし、デジタルシフトを実現するための経営資源を提供する会社へと変化するべきだと考え、実行しているのが、今のデジタルホールディングスです。米国のSaaSスタートアップは、まずはマーケットが大きいHorizontal SaaSから事業を拡大し、徐々に産業に特化したVertical SaaSへと移っていくことが多いですね。ですが、私たちはむしろ特定産業のSaaS化・デジタル化を進めていきたいと思っています。倉林さんが既に出資されているアンドパッドはいい例ですね。建設業だけでなく、他の産業でもこういったスタートアップがどんどん出てくるはずです。私たちは産業に従事する方々と一緒に変革を起こすサポーター、つまりディスラプターではなくイネーブラーになりたいと考えています。

そのためには、自らSaaS事業を研究していくやり方と、既に知見を持っている方と組むやり方があります。以前は自前主義でいこうと考えていましたが、だんだんと共創していくことの重要性に気づくようになりました。そこでSaaS領域の共創パートナーを探し始めると、誰に聞いても倉林さんのお名前が挙がるんですよ。日本で誰もSaaS投資をやっていない頃から参入していて、今はDNXというファンドを牽引されている。知った仲ですし、何か一緒にやりたいねと声をかけたら、図ったように今ファンドレイズしているんですと(笑)。

今回の出資を通じて、新しいベンチャー・スタートアップやビジネスモデルを教えてもらい、場合によってはスタートアップと連携していく、自社単独ではなく一緒にやっていくことができる、そんなコミュニティに触れたいというのが私の一番の想いです。

倉林:私たちは2015年からシード投資を始めましたが、年々良い会社が増えていると感じます。スタートアップも成長していくと色々自社で対応できてしまうので、事業会社さんが良いスタートアップと協業するには成長前にアーリーアクセスをしていくことが重要なんですね。そういった意味で、私たちもこのファンドをうまく活用していただける事業会社さんを探していました。

野内さん:とはいえ、オープンイノベーションは難しい側面もありますよね。日本ではあまりうまくいっている例がなく、私たちもこれから学んでいかなければいけないと思っています。自分たちの利益のためだけに動いてはいけないし、逆にスタートアップを支援するだけだとそれは単なる投資家になってしまう。難しい塩梅ですが、事業家と投資家を両方経験してきたからこそ、新たな価値を創造していけたらと思っています。

倉林:DNXにはLP様と投資先の連携による事業開発支援を担当しているメンバーもいますので、ぜひ一緒にシナジーを作っていきましょう。

事業会社としてベンチャーキャピタル投資を行う戦略とは

倉林:事業会社さんは組むべきスタートアップの情報を取るために、良いファンドにLP出資をしたり、自社の投資ビークルを用意したり、もっと色々なアプローチを取っていくべきだと考えています。御社は弊社以外のVCにも複数出資されていますよね。これまでどのようなお考えでベンチャーキャピタルに出資されてきたのでしょうか。

野内さん:LP出資を始めた当初は、国内著名ファンドや海外の小さなファンドに限り、あくまでマーケティングの新しいモデルをラーニングすることを目的にしていました。しかし自分たちがGPとしてファンドを立ち上げたタイミングで、方針を変更したんですね。

まずはきちんとキャピタルゲインが取れること、そしてふわっとしたラーニングではなく、明確な目的に沿った事業の情報が得られること。この二つを達成できるファンドにのみ出資するようになりました。マルチでジェネラルな規模の大きなファンドというよりは、その領域のトップで特徴のあるファンドを選んでいます。ファンドの皆さんは、私たちが掲げるデジタルによる産業変革という目標に対して、情報を提供してくださるパートナーだと思っています。なので、私たちの事業についてどれだけの知見を持ってくださっているかというのも大切ですね。

以前たくさんのCVCがキャピタルゲインを無視した事業シナジー投資に走った時代がありましたよね。その頃にCVCもキャピタルゲインが重要だと発言し、色々な方からお叱りをいただいたことがあります(笑)。投資事業なのでキャピタルゲインは最低限出さないと意味がなく、でも決してキャピタルゲインのためだけにやっているわけではない、これはしっかりお伝えしたいことです。

倉林:私たちもキャピタルゲイン以外の成果が出るストーリーをしっかりと作りたいと思っています。密にコミュニケーションを取っていきましょう。

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B2B SaaSに特化するからこその強みと魅力、DNXを選んだ信頼感

野内さん:シード投資は難しくて、外から見ているだけだと分からないことも多いです。起業家の人間性を判断軸にしている部分も大きいわけじゃないですか。たまたま私がその起業家を知っていれば、なるほど、確かにこの人には投資したくなるなと理解できるかもしれませんが、会ったこともない方だとそれが分からない。でも倉林さんの場合、SaaSという事業モデルにロックしているので、事業会社である私たちからすると分かりやすいんですね。

倉林:確かにDNXはSaaSに特化しているので、再現性のある投資ができるようになってきたと思っています。SaaSであれば日本の起業家からは選んでもらえている、という自負もあります。

例えば、Founder/Business Model Fit というものがありますよね。長い間やってきて、この人がSaaS経営者に向いているかどうか、私なりに判断することができるようになってきました。SaaSのビジネスはとても地道です。一つのセグメントでPMFをして、それを一つずつ横展開していくのが王道なんです。ひとつひとつ順番に進めるのが我慢できない、一気に成長させたいという気持ちがプレゼンの中で見えてしまうと、レッドフラッグだと思っています。また、倫理観が高く、上場後も社会に貢献していける経営者に人もお金も集まります。シード段階から、リファレンスも取って、長く付き合える信頼できる経営者なのかしっかりと確認するようにしています。

加えて、事業とお客様に向き合う姿勢を重視しています。例えば経営者として一定の認知を高めてもらう事はとても大切な事ですが、メディア上での認知向上ばかりに気を取られていては、事業が疎かになってしまいかねません。あくまで事業と顧客を中心に据えて、課題解決に向けて真摯に取り組むタイプの方がB2B SaaSの経営者には向いていると思いますね。そうでないと社員がついてこないんですよ。例えば、アンドパッドやカケハシの社員は、職人さんや薬剤師の方をエンパワーしたいという想いで優秀な人が集まっています。社長も本当に同じ想いでないと見抜かれてしまうと思います。やはり、姿勢としてはひたすら事業やお客様に向き合っていて、結果として目立ってしまうくらいの人がいいなと思っています。

野内さん:DNXのアントレプレナーファーストという方針にも深く共感しています。特に倉林さんからそれを言ってくださったことに安心感がありますね。ここは起業家の範疇だとか、これは一緒にやった方がいいとか、起業家にとってベストな判断をしてくださると思っています。私たちは今回LPなので黒子的な立場ですが、事業の連携ではぜひ表に立っていきたいですね。

そして、DNXへの出資を決めた最終的な決め手は、やはり信頼感です。ホットリンクの取締役会で倉林さんが私を見られていたように、私もプロの投資家とはどんなものかと倉林さんの立ち居振る舞いを見ていたわけです。昔からSaaS業界の成長性や成功要因について圧倒的な自信を持っていた。その後一貫して有言実行でトラックを積み上げて大きくなられているんですね。積み上げられた信頼感、これが一番の決め手ですね。

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野内さん:逆に、ファンドを組成するときに、LPとして入ってもらう企業に対してどのような検討をされるんですか?

倉林:事業会社のLP様の場合であれば、投資先の事業開発をサポートしてくださるようなLP様に入っていただきたいのが大前提ですが、それに加えて私は顔が見える方と表現しています。例えば、担当者の方はうちのファンドに入れたいと言ってくれるものの、経営陣の方と私が会えず、コミュニケーションが取れないことがあります。担当の方はスタートアップに対して想いはあるが、実は上層部はそうではなかったりする。スタートアップの優先順位が、実は然程高くないのかもしれない。そうなると、担当の方が異動したらどうなるのか分からないんです。その点、野内さんは顔が見えていて、スタートアップとも一緒に動いてくださるイメージが湧きます。そういった安心感のある、信頼できる方に入っていただきたいと思っています。

野内さん:とはいえ私の場合、自社でVCもやっていてGPとしての顔もありますが、その辺りは気にされなかったんでしょうか。

倉林:いえ、むしろ御社とは共同投資ができると思っているので、そのきっかけになればと思っています。御社が大事にされている「産業変革」は、DNXのキーワードにも非常に近いんです。産業をアップデートしていこうと取り組む会社に投資をしていきたいと思っています。

野内さん:今後デジタルホールディングスは日本社会・日本企業のデジタル化による産業変革に寄与していきたいと考えています。SaaSやマーケットプレイスといった様々な形で取り組んでいきたいのですが、それらを自前主義ではなく、皆さんと一緒にイノベーションを推進していきたいんです。DNXは同じビジョンを掲げるパートナーとして、長くお付き合いさせていただきたいと思っています。ぜひBonds Investment Groupとの連携も図らせていただきたいですね。

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DNX VentureのWebsiteより。「人々の生活や働き方を根本的に変える革新的なパートナーとともに、産業の未来を創造します」と謳っています。

起業家への応援メッセージ

倉林:最後に、ご自身も経営者である野内さんからスタートアップの起業家へメッセージをいただけますか?

野内さん:起業家の皆さんには情熱を持って信じた道を進んでいただきたい、皆さんの事業を応援したいと思っています。投資だけではなく、事業会社として一緒に何か仕掛けていきたい。一緒に大きなことをやりましょう。学ばせていただくこともたくさんあると思うので、一人の経営者としても接点を作らせてもらえたら嬉しいですね。

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(写真・平岩亨 / 文・池袋奈緒子 / 編集・上野なつみ / 監修・倉林陽)

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