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女性の部下を愛おしく思う瞬間

同じ人間ですから、日本と海外で職場の人間関係に大差はありません。
上司と部下の関係も、男と女の関係も、基本的には変わらないと思います。
グローバル企業で私が見てきた男と女の話をします。
女性の部下を持つ男性、男性の上司を持つ女性に読んでいただきたい話です。

部下とそういう関係になってはいけない

男女比が 50:50 のグローバル企業では、部下の男女比もだいたい 50:50 です。
私の歴代の “女性部下” の国籍を時系列で並べてみると、
インド人、ドイツ人、台湾人、日本人、ロシア人、セルビア人、フィリピン人、ポーランド人、クロアチア人、南アフリカ人、香港人(👈今ここ)となります。

上司の数ではイギリス人が多かった(3人)のに、女性部下には一人もいませんね。
世界の国籍別序列を表していると言えます。(つまりイギリス人は管理層)

プライベートではかなーり惚れっぽい私ですが、しかも異形の外国人に対しては興味が 5割増しになってしまう私ではありますが、仕事でかかわる女性とそういう関係になったことは一切ありません(キラッ✨)
いや、威張ることではないですね。

でも想像してください。Audit の仕事なんかしてると、タンザニアに 3週間みたいな出張ばかりしてるんです。3週間同じホテルに宿泊して、ずーっと一緒に仕事して、毎晩一緒に食事して、飲んで、週末にサファリ・ツアーを楽しんだりするわけですよ。
何も起こらないほうがおかしくないですか?

以前の記事に書いたクロアチア人の Maja(マヤ)なんか、プライベートで知り合っていたら、間違いなく間違いが起こってますよ。

しかし、仕事仲間とはそうはなりません。
アフリカに 3週間も派遣されると、運命共同体のような気分になるんですね。死ぬときは一緒、みたいな。
仕事仲間以上の戦友みたいになって、強い絆で結ばれるのです。
そうなったら間違いは起こらないものです。

まあそうでなくても部下とそういう関係にならない最大の理由は、前の記事にも書いたように、人事評価で面倒なことになるからです。

なので、レポートライン上にない同僚となら勝手にどうぞ、と思いますが、少しでも評価関係にある部下とそういう関係になるのは、ビジネスパーソンとして恥ずべきことです。

セクハラはないが、社内不倫はある

そんな恥ずべきビジネスパーソンを何人か見てきました。

Julian(ジュリアン)
Audit Director。当時49歳。リヴァプール出身。ACCA(英国公認会計士)。
Big 4の一角 D社出身の凄腕。妻と 2人の息子と同居。妻とは冷えた関係。
フットボールとパブを愛する UK 国民の典型。ビール腹の禿げたおっさん。

Olga(オルガ)というロシア娘が入社しました。当時 20代後半(推定)。
資格なし、英語もヘタで、なんでこんなの採用したんだ、と私は疑問に感じていました。面接したのはジュリアンでした。

オルガが入社して数ヵ月後・・・
モスクワに出張中、ジュリアンとオルガがふたりで食事しているのを何度も目にしました。モスクワは大都市ですが、みんな同じホテルに泊まっているので、行動範囲が限られるのです。
ふたりは上司部下の関係だったので、そのときは変だと思いませんでした。

さらに半年後、クアラルンプールに出張中、ジュリアンとオルガが楽しげに夜の KL を闊歩している姿を目撃してしまいました。
このときは、”目撃” です。
なぜなら、オルガは出張メンバーに入っていなかったからです。

なんでオルガがここにおるんや・・・

オルガの職場はオランダです。
オランダからマレーシアまで遊びに来たってか?
そんなアホな。

オルガの出張旅費の承認者はジュリアンです。
もう明らかでした。
ジュリアンが出張先のマレーシアにオルガを呼んだのです。会社のカネで。

Matthew(マシュー)
IT Director。当時52歳。ロンドン出身。CISA(公認情報システム監査人)。
前職は Sky TV の IT部長。バツイチ。現在は新しい相手(👈元妻の親友)と事実婚。出張が好きでこの仕事を選んだ。世界遺産マニア。かわいいデブ。

マシューは、データアナリティクスのスペシャリストが必要という口実で、当時サンクトペテルブルク支社にいた Svetlana(スヴェトラーナ)を引き抜いて自分の部下とし、そのまま彼女にしました。

イギリスの男どもよ。お前たちはどんだけロシア女が好きなんだ?

(同様のカップルはもう 1組いた)
n=3 とはいえ、20以上の国籍がいる一部門内で、イギリス男とロシア女の組み合わせが 3回続けば、確率論的に “有意” とみていいでしょう。
この世代のイギリス人は、ほぼ例外なく 007 シリーズのファンです。
彼らは、『ロシアより愛をこめて』の影響を受けているとしか思えない。

ジュリアンもマシューも、相手の同意を得て関係を持っていたようなので、セクハラではないのでしょうが、上司部下の間では完全にアウトです。
そもそも不倫である時点で、倫理的によろしくないわけですが。
マシューについては、元妻の親友と結婚できてしまう神経が、私には気持ち悪く、最後まで生理的に受けつけませんでした。(👈デブだからではなく)

すっぴんボーイッシュの部下を持って

キャンディのことについて書かなければならない、と考えていました。
キャンディは、私が 2年前に香港に赴任したときからの部下です。

Candy(キャンディ)
Finance Manager。香港人。現在 32歳。前職は香港の大手銀行勤務。
化粧っ気ゼロのリアルすっぴん。無造作なベリーショート。性格は超素朴。
仕事はデキる。目立つタイプではないが、ムダがなく、確実な仕事をする。

2年前にキャンディと初顔合わせしたとき、私は軽く引きました。
まず、男の子か?と思いました。
でも名前はキャンディだし・・・
声を聞いたら女子でした。
にしても年齢不詳です。
インターンの学生か?と疑うくらい、おぼこいのです。
完全なすっぴんです。顔に何もつけてないっぽい。
日本でもヨーロッパでも、オフィスにすっぴんで来る女性を私は知らない。

やがて、この手のタイプの女性は香港では珍しくないことを知りました。

オシャレとかに興味がないのです。男っ気なし、というか、そもそも男にも興味がないのでしょう。
少年のような短髪は、狙ってやっているのではなく、単にラクだからそうしてる感じ。何もいじっていない黒髪です。
服装は小ぎれいで清潔感がありますが、質素です。いつも地味なブラウスと地味なパンツ。スカートなんか絶対に履かないでしょう。
いつもスニーカーを履いていますが、Tシャツやジーパンでオフィスに来るタイプではありません。

ヨーロッパで働いていたときの部下は洗練されて成熟した女性が多かったので、私はこのギャップに戸惑いました。
接し方がわからないのです。
仕事以外の話題が見つかりませんし、冗談も通じなさそうです。

仕事ぶりは非常に安定しています。
ファイナンス職人としてのキャンディを私は高く評価しています。
SAP システムの操作に強く、数値の分析はセオリーに忠実で、飾り気のない質実剛健なスプレッドシートを作る。スリムで端的な英語を書く。
一方、プレゼンなどは苦手そうです。自ら新しいアイデアを提案するタイプでもない。
私が指示したことを粛々とこなし、期日どおりに過不足なく報告してくる。余計なことはしない。
Manager として物足りない、という評価を下す人もいるかもしれないけど、私はこれでいいと考えています。キャンディにはキャンディの仕事観や美学があると思うからです。オシャレに興味がないのと、地味で堅実な仕事ぶりは、私の中で符合するんですね。

派手にアピールしてくる部下があまり好きじゃないというのもありますが。

他の社員のキャンディに対する評価があまり高くないのは感じています。
でも、私は部下たちの中でキャンディを最も高く評価しています。

2年もかかわってきて、いまだにキャンディとは仕事以外の話をしない関係です。
キャンディが私に心を開いていないから、とは思いません。
上司として信頼されている確かな感覚がありますし、ときどき笑顔も見せてくれるようになりました。
ただキャンディはそれ以上の親密さを望んでいないのだと思っています。
私生活について話したり、将来のキャリアについて相談したりすることはありません。

どうせ数年でまた転勤する人、と思っているからかもしれません。

君をハグする日

私は、キャンディに感謝の気持ちを伝えたいと強く思うようになりました。
人事評価のフィードバック面談ではていねいに伝えてきたつもりです。
でも、仕事に対する評価だけではなく、キャンディの存在に感謝したいのです。
君のおかげで、香港に来てよかったと思っています、と。
君がいてくれてありがとう。
君という人間がようやくわかってきました。
君はかわいいよ。

・・・・・・。
あれ?
何考えてんだ俺。
キャンディはかわいくないだろ。いや、かわいいよ。他の人間がどう言おうが、私はキャンディがかわいいんだ。なぜだか妙に愛おしいんだ。
心がそう言ってるんだから、隠したってしょうがない。
上司がそう感じたらいけませんか。
感じるだけなら自由だよね。

たまにキャンディのデスクに立ち寄ると、私に気づかず仕事に集中しているキャンディ。

How are you? と声をかけても、無愛想に Good としか言わないキャンディ。

誕生日だから食事に招きたいと言うと、短く Ok とだけ答えるキャンディ。

食べたいものはありますか?と訊くと、Jollibee のフライドチキンが食べたい、と言うキャンディ。

握手をする習慣のない香港で、私は君の手に触れたこともない。
日本人の私もそれが普通だと思っているし、これからも君の手を握ることはない。
でも、私は心の中で君をハグしている。
それくらいしかできない。
“Thank you for being you” なんて言ったら、君は困るだろう。

ただ・・・
私が香港を去るとき、最後に一度だけ、君をハグしてもいいですか?