見出し画像

前妻とオンライン飲み会したら

昨日、前の妻、つまり私にとって 4人目の妻と Zoom で飲みました。
10年前に離婚してから、2回ほどメールのやりとりはありましたが、会ったことはありませんでした。
前妻は道端アンジェリカ似の関西人。見た目と言葉はキツいけど、心はとてもやさしいひとでした。

****************************

「久しぶりだなあ。10年ぶりか」
「もうじき 11年やね」
「全然変わってないなあ、おまえ」
「これ、アプリやで」
「アプリ?」
「若く見せるアプリ使うてんねん。化粧までしてくれるねんで」
「そんなもん使わんでいいわ」

「あんたも 50になったな。誕生日おめでと」
「やめてよ(苦笑) おまえは 45か」
「お。ようおぼえてたやん」
「誕生日はおぼえてないけど」
「あんたがうちの誕生日おぼえてたこと、一度でもあったか?」

「元気にやってんのか?」
「ぼちぼちやね。大阪の会社やめてん」
「へえ。食ってけるの?」
「失業保険でなんとかね。コロナで受給期間が延長されたし」
「じゃあ今ヒマなのか」
「貧乏ヒマなしや。翻訳のバイトをちょこちょこやってるよ」
「失業保険詐欺じゃねーか。翻訳って英語の?」
「英語のウェブサイトをタイ語にする仕事」
「おまえのためにあるような仕事だな」

「与論島にお姉ちゃん住んでるやんか」
「ああ、おぼえてるよ。お会いしたことはないけど」
「うちも与論に住みたい思うてな」
「なんでまた」
「もう大阪に住むのがしんどなってきてなぁ」
「おまえ、大阪で生まれた女やさかい♪ だろーが」
「うちは奈良や!」
「あ、そうだっけ」
「あんたなぁ。元ヨメの出身地くらいおぼえときぃ」
「わかった。今メモした」

「でな、与論に行こかなあ言うたら、行かんといてほしい言われて」
「え。おまえ、カレシとかいるの?」
「おったらあかん?」
「へえ。どんな人?」
「あんたと同い年や」
「よかった。若いスズメとかじゃなくて」
「それ言うならツバメやろ」
「バツもちか?」
「あのなぁ。50 でバツついてへん男、世の中にはおらへんねん」
「まあ、俺も 4つついてるからな」
「それもおらへんけどな」

「その人、子供は?」
「別れた奥さんが引き取ってる。もう成人してて養育費問題もないねん」
「よかったやん。どこで知り合ったの?」
「アプリや」
「若く見せるアプリ?」
「ごまかせるかアホ!」

「で、どんな人なの?」
「マジメで穏やかな人やね。あんたと真逆やな」
「いい人見つけたな」
「まあね。一緒にいると落ち着くかな」
「一緒にいてラクな人が一番だよな」
「激しく恋したんはあんたが最後や」
「恋してたっけ」
「してたよ。若くてアホやったから」
「俺も若かった」
「アホは言わんのかい」

それから 3時間ほど反省会になった。
答えも結論もない。
お互い、当時思っていた本音を正直に告白し合うだけ。

あのとき、なぜあんなことをしたのか。
あのとき、なぜあんなに怒ったのか。
あのとき、なぜ何も言わなかったのか。
あのとき、本当はどうしてほしかったのか。
あのとき、なぜ家を出て行ったのか。

彼女も、私も、淡々と話した。
当時まったく見えていなかったことが、今やっと見えてきたりもした。

あれ・・・泣いてるの?
泣き顔を隠すアプリはないのかよ。
てゆーか、なんでおまえが泣くんだよ。泣きたいのは俺のほうだっての。

「おまえが出てったんだよ?」
「うちが・・・弱すぎてん。ごめん」
「ば、ばか。そういう意味じゃなくて」

おまえが俺を捨てたんじゃないか。
後悔・・という言葉を呑み込んだ。

それにしても。
こんなにいい女だったのか。
もし、出会うタイミングが「いま」だったら・・・
バカ。何を考えてるんだ。
そうだアプリのせいだ。アプリが悪い。そう思うことにしよう。

外が明るくなってきた。
妻が起きてくる時間だ。
もっと話していたいが。

香港から出国できる時期が来たら、大阪に行ってもいいかな、と言おうとしてやめた。
いま、おまえと会って正気でいられる自信がない。
俺は最低な男だ。
俺を捨てたおまえは正しかったよ。
幸せになれよ。