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偉い奴ほどよく喋る

来月(2021年12月)、本社による監査 (audit) が実施されることが正式に決まり、本社の VPクラス(部長格)とミーティングする機会が最近やたらと増えましてね。

私は、監査をされる側(香港支社)の実務責任者として、本社の監査チームからの質問、相談、依頼等ありとあらゆるコミュニケーションの矢面に立たされます。
この本社の監査部門というのは、私が 2年前までいたいわゆる古巣なので、元同僚だらけです。それがやりやすいんだか、やりにくいんだか。
彼らの考え方や性格を知っているのはたしかにやりやすい。
でも、監査のイロハを私が知り尽くしている前提で「お前もわかるだろ?」的な態度で話してこられるのは、反論する気が失せて非常にやりにくい。

きっと、彼らも似たような思いなんだろう。
くどくど説明する手間が省けてやりやすい、と思う反面、元監査人である私に悉く対策を打たれて、何も発見できないまま終わる恐怖感があるに違いない。
監査人auditorというのは、スピード違反を捕まえる警官と似て、捕まえた数を競うような人たちなのです。
思えば、そんな体質に嫌気が差して、私は監査人を辞めたんだった。

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若い頃、こんな図式がありました。

日本人の話 = 漠としてわかりにくい
話が長い人 = 仕事ができない人

当時、我が師だったビジネスコンサルタントは言いました。

話者がロジカルでない場合は、言葉を聞こうとしないこと。
音楽だと思って心で感じよう。相手の真意を想像しよう。
100%当たるとは限らないけど、言葉を聞くよりは確率が上がるはずです。
相手が真に言いたいことは、言葉の中にはありませんから。

ガチガチの理系アタマ・左脳人間の私は混乱しましたね。
言いたいことが言葉の中になかったら、何のための言葉なの?

非論理的で曖昧な言葉をダラダラ話す日本の会社員が苦手でした。
「言葉を聞くな。ほぼ無意味な言葉の羅列の、奥に隠された真意を読め」
多少はできるようになった気がしましたが、当時ロジックが服を着て歩いていたような人間にとって、ロジカルでない冗長な話を聞くのはストレスでした。
日本の会社に見切りをつけ、スイスに本社を置くグローバル企業に転職することを決めた理由の一つは、自分に合ったコミュニケーションスタイルを求めたからだと思います。

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それから 10年近くたった今、新たな図式ができつつあります。

わかりにくい話をする人間に、ナニ人もナニ語も関係ない
偉い人 = 話が長い = 内容はない

来月に控えた監査の対象範囲スコープを合意するため、監査チームとミーティングしたのが先週。
ジョニーという監査部門のヘッド (VP) も出席しました。

ジョニーの「プロジェクト X は監査対象から除外する」との発言に耳を疑いました。
プロジェクト X とは、当部門の最重要プロジェクトで、2020年~2021年に進められた、時間的に最も直近のプロジェクトです。この監査のターゲットは当然プロジェクト X と想定し、すでに準備中でした。

ジョニー、気でも狂ったか?

「X が監査対象外・・・? なぜ?」と訊くと、
「X はまだ完了していないから」
とジョニーは言いました。

あたりめーだ。X は当社が社運を賭けた新製品だぞ。1年やそこらで終わるプロジェクトじゃねーよ。
正直なところ、監査対象から外してくれるならありがたいよ。
でも、X を外したら、他に大きなプロジェクトないんですけど。

私「X を対象外にしたら、いったい何を監査するの?」
ジョニー「例えば、プロジェクト S とか」

はあ??
いよいよアタマ大丈夫かこいつ?

私「ジョニー。S は 2年前に監査済だ。同じことをもう一回やる気か?」

ジョニーの顔が一瞬歪みました。

(知らなかったのか・・・!)

ここにきて、私は確信しました。
ジョニーは、監査人である部下たちからロクな報告を受けていない。
彼は詳しい状況を把握しないまま、このミーティングに担ぎ出されたんだ。

それにしても・・・
ジョニーの部下たちが誰も何も発言しないのはどういうわけなんだろう。
私の元同僚たちだ。元部下もいる。
彼らとはこの 1ヵ月ほど、監査対象範囲についてさんざん議論を重ねてきたから、状況を熟知している。X がこの監査の中心であることも、S は監査済だから今回の監査対象になりえないことも、彼らは了解していた。

もしかして・・・ジョニー、孤立してる?

そこから、ジョニーの長い長いモノローグが始まりました。
X を監査しない理由の繰り返し、S を(再)監査するなんとも苦しい理屈、そして、監査の対象は業務プロセスなのだからそもそもプロジェクトは関係ない、という開き直りというか、じゃあこれまでの議論はなんだったの?とツッコミたくなる長演説、さらに、今その話必要?と問いたくなる経営戦略や業界動向に関するお説・・・
画面の右下を見て、もう 13分も独りで喋ってるなあ、と思った。
終わるまで寝てていいかな。

てゆか、誰も止めないんだね。
私が止めるべきなのか?
やだよ。
追い詰められて必死に挽回しようとしている人間に、冷や水を浴びせるなんて。

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組織ってなんだろう。
組織とは、ピラミッド型のヒエラルキーのことだと思ってた。
でも、そろそろ真顔で疑問を発したくなってくる。
実務も事実も把握してなくて、アホダラ教を長々と喋るくらいしか能のない部門長とかって、要るの?

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偉くなればなるほど、話が長くなるのはなぜでしょうか?

✅ 部下たちとの距離が遠すぎて、自分が実務を知らないことを薄々感じているので、自分の知識をひけらかしたくなる

✅ クソどうでもいい長話を止める人がいなくなる

✅ 政治的にうまく立回るための婉曲表現、キーパーソンに配慮した発言、美辞麗句の連打で相手の反論を封じる等の技術が高くなる

✅ 話し好き・よく喋る・話が長い人間ほど出世する、という悪循環

日本企業の話ではありません。
グローバル企業の実態です。

偉くなると話が長くなるのか。もともと話が長い奴が偉くなるのか。
鶏と卵の関係ですね。
「話が長い」という特性を、目一杯 “善意” に捉えて、「社交的」と言い換えてみましょう。
ヒエラルキーの上の方にいる人々は、ほぼ例外なく社交的です。
上の人間同士が社交を楽しむのは結構だと思います。
しかし、下にいる人間は上の人間との社交的な関係を望んでいるでしょうか?

日本企業で働いていた頃、同僚の飲みの誘いほどウザいものはなく、「会社の人間と飲みに行かない」ことをマイルールと決めました。
時代が変わり、私のフィールドも変わり、同僚に誘われるストレスはなくなりました。
それでも、社交的に振る舞ってくる人間は、とくに上の方に多いと感じます。
「週末はどうだった?」
「香港の生活はどう?」
「年末は日本に帰省するの?」

友達じゃないんだけどなキミは。
と思う。

あれ? 話がズレてますか?

いや、その、わかってるんですよ。
そういう社交辞令会話が潤滑油になることも。
相手だって私を友達だと思っていないことも。
いちいちこと細かに答える必要はないことも。

ただ、こういう会話を振ってくる人は往々にして話が長い人で、偉い人ってほとんどがそういう人種なんですよ。

優秀な若い人は、ウンザリしてるんじゃないかなあ。
こっちはやるべきことや、やりたいことが山積みになっていて、部長や課長の長話に付き合ってるヒマなんかないんだよ、と。

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コロナで加速した感もありますが、仕事上の人間関係はますますドライになっている気がします。
偉い人達はそこに危機感をもち、社員同士のつながりやコミュニケーションの密度をコロナ前に戻そうと腐心している気配だけど。
余計な心配はやめなはれ、と言いたい。
コロナ前から、若い世代は、潤滑油を必要としていないし、年長者の長話にウンザリしていたのですよ。
みんな、面倒臭いことが大嫌いなのに、面倒臭いことを増やしてどうする。

彼らはね、人間関係にディスタンスがあっても、そんなことは気にならず、やるべき仕事を粛々とこなすことができるんですよ。
必要な情報を自ら取りに行く動作が身についているので、偉い人の講話は、老人の繰り言でしかないのです。

時代は、着実に動いています。