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仕事をやめたら何するか問題

東京滞在もエンディングが近づいてきた昨日、昔の上司と飲みました。
松井さんは、今より 21年前の 2002年の東京で私の上司だった人です。
当時私は 30歳、松井さんは 40歳でした。

私はその 10年後にスイスの会社に転職して現在に至ります。
松井さんはその後、海外事業所長や本社の部長を歴任され、最後は関東地方の支社長として 60歳で定年退職されました。

私たちはそれぞれ違う道を歩んできたわけですが、今 21年ぶりに再会して、居酒屋のカウンターに並んで座る私たちの間にはあの頃と同じ空気が流れています。

昔の話はほとんどしません。
仕事の話もなし。松井さんはすでに引退されているし、私もそう遠くない日にそうなる身です。
お互いの現況を把握するため、家族のことを手短に話しました。
現在の私が平凡な家庭をもっていることについて、松井さんは少しも驚きの色を見せず、よかったね、と言って微かに笑みを浮かべました。

現在の松井さんは、奥様と大学生のお嬢さんとの 3人暮らしだそうです。
60歳で退職してから現在までの 1年半、何もしない生活が続いている、とおっしゃいました。その話に私は興味を惹かれました。

「本当になんにもしてないんですか?」
「仕事とかはもうしない」
「毎日何をやってるんですか?」
「バイクで出かけたりしてる」
「ゑ・・・松井さんそういうタイプでしたっけ?」
「去年、中型の免許をとったんだ」

60歳で中免!?

「どうしてまた急に(笑)」
「地元の友達がバイク乗りでさ。そいつらと遊ぼうと思ったんだよ」
「じゃあ今は地元のお友達と遊んでるんですか?」
「うん。来月も地元で合流して能登でキャンプする予定だしね」

しばらく静かに飲みながら、松井さんに自分の話をしようかどうか考えていました。

「じつは私、あと 4年で仕事やめようと思っています」
「4年・・・55か。いいんじゃない?」
「松井さんより 5年早いですけど」
「スイスに永住する気は?」
「ありません。仕事をやめたら日本に帰るつもりです」
「日本で何か始めるの?」
「いえ。何もしないで遊んでようと思ってるんですが、いろんな人にその話をすると、おまえには無理だ、って言われるんですよね」
「たしかにそういうガラじゃないわな(笑) でも、無理じゃないと思うよ」
「できますかねぇ私に」
「僕だってもう 1年半続いてるし、この先も何もしないで全然平気だな」

「妻は、稼ぎがなくなるのは構わないけど、1日じゅう家に居られるのは勘弁してくれ、って言ってますわ」
「どこの家もそうだよ(笑)」
「松井さんのとこは大丈夫なんですか?」
「うちの奥さんは外で働いてるからさ。娘はほとんど家にいないし」
「なるほど。じゃあ家にいても問題ないわけですね」

「〇〇さん、趣味とかあるの?」
「それが、これといってないんですわ」
「無理に見つける必要はないと思うけどね」
「スポーツとか苦手だし。文化系の人間なんですよ私」
「読書とか、映画とか?」
「まあそんなとこです」

「友達はいる?」
「東京と地元に数人ずつぐらいですかね。でもみんな仕事してます」
「だろうね」
「自分だけ無職って、やっぱり退屈するかなぁ」
「退屈も楽しんだらいいと思うな」
「退屈を楽しむ、ですか」
「朝自然に目が覚めて、今日は何をしようかな、と考えるところから1日が始まるんだよ。本屋にでも行こうか。誰かと会おうか。日記でも書こうか。何を食べようか、とかね。縛るものが何もないから、ぜんぶ自分が決めなきゃいけない」
「かえってしんどそうですね」
「うん。そうやって考えてると、1日1日をていねいに過ごそうと思う」
「ぜんぶ自分で決められるから・・・?」
「つまらない1日になったら、ぜんぶ自分のせいでしょ?」

自分だけの1日を自分の意思でプロデュースする。
それは必ずしも、毎日を充実させよ、ということではないのだろう。
今日は1日じゅう家でダラダラして過ごそうと決めたら、そうすればいい。
自分が納得する1日を積み重ねればいいんだよ、と松井さんはおっしゃっているのだと思いました。

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