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支度

シャッターを閉める。
夜の透き通った空気に、からから、と乾いた音が響く。

窓を閉める。
ぴしゃん、と大きな音を立ててしまう。
うちの窓は妙に滑りが良すぎるのだ。いつもご近所さんに心の中で小さく謝る。

カーテンを閉める。
前の家で買ったので、今の窓には30センチほど寸足らず。
新しいのを買おう買おうと思いつつ、いい色になかなか出会えないままだ。


わたしを寝かしつけにかかる暗闇の中、廊下に置いてある冷蔵庫の上で、たこ足配線のスイッチが煌々と輝くのがすりガラス越しに見える。
何か電源入れっぱだっけ。眠い頭で考える。

そうか、今日はご飯を炊いた。
炊飯器の中で徐々に冷めながら、冷凍されるのを待つ米粒たちがいる。
彼らは今、布団の中でぬくぬくと夢の世界を待つわたしが動いてやらねば、明日の朝にはカピカピになる。

廊下、寒いんだよなあ。
炊き終わってすぐに片付けなかった自分に失望し、ぬおお、とか声を出しながら起き上がる。
大切な十五穀米をカピカピにはさせない。
しゃもじの剣とタッパーの盾を抱え颯爽と現れた救世主は、迷える米粒たちをさっさと救済し、神の呪文「洗い物は明日明日」を唱えながら布団の国に凱旋する。


ああ、もう、一度体温を逃がした布団は、愛想をつかしはじめた恋人のように生冷たい。
わたしはできるだけ丸くなって、お母さんが子供にやるように胸元をセルフトントンして(ばかみたいだけれどこうするとすぐ眠れるのだ)、すう、と安心した寝息を立てはじめる。

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