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血の繋がらない祖父を想う

「むかしむかしの、わしが子どもんころのことだで。山道を歩いとったらね、どこからかシュルシュル、シュルシュルと、音がしよる。」

私の実家はあまり冠婚葬祭や宗教行事に熱心ではなく、四十九日を過ぎると年に一度の墓参りがあるかないかです。

結果、親族・親戚との付き合いから遠ざかっているのですが、実にたまたま、祖父を思い出しました。

私は実の祖父に会ったことがありません。父方の祖父は私の生まれる前に他界しており、母方の祖父は離婚をしていたためです。

しかし、私は祖父を想い出します。母方の再婚相手の、血がつながらない祖父です。

再婚は私の母が子どもの時だったようで、確かに母と祖父との関係は、今思うと少しぎくしゃくしていたような気もします。

私がその事実を知ったのは、祖父が亡くなる直前でした。私はその時、冷めた青年だったため、その事実は私の心を揺さぶりませんでした。「それにより、これまでも、これからも祖父に対して何かが変わるわけでもない。」そう思い、事実そうでした。

祖父は温和で優しい人でした。先頭に立って人を引っ張るというより、後ろから暖かく見守る、そんな人だった印象です。明るく勝ち気だった祖母と対照的で良いバランスだったのだろうと思います。

私は、小さい頃から祖父が大好きでした。離れて暮らしていたため、会うのは年に1、2度(まさにお盆・お正月のみ)でしたが、毎年のトップイベントとして楽しみにしていました。

そんな祖父との思い出を今日は書きたいです。

─小さい頃─

冒頭の引用は祖父が私にしてくれたお話です。そして、こう続きます。

私「へびだ!へびへび!」
祖父「あんなあ、おまんさん、もうわかっとるもんだで・・・」
私「続きを早く言って~。」
祖父「そーじゃのー、じっと道のわきを見てみたら、草の陰からシュルシュルシュル~とヘビがでてきよった。」
私「あははは、へびだ~!それから?それから?」

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残念ながら、これしか覚えていません。方言も忘れてしまい、検索しながらそれっぽい言葉を当てはめました。

オチらしいオチもなかった気がします。でも、小さい頃はこのお話が大好きで大好きで、毎年の帰省では必ず話してもらっていたのです。ひどいときは毎晩せがんでいました。それは、覚えています。

─少し大きくなってから─

祖父の住む集合住宅の片隅には、リラクゼーションスペースのような部屋があり、そこには卓球台が一台ありました。

よれよれのネットに、振るとラバーが浮き上がるラケット。薄暗い照明と冷たいコンクリート壁。今思うとなかなかのリラクゼーションスペースですが、当時はそこでの卓球が楽しみで仕方ありませんでした。

両面打てるという理由だけでシェークハンドを選び、祖父との卓球にのめり込みました。バックハンド側をねらうと、祖父は打ち返せないこと。身長が伸び、スマッシュを決めた時のこと。私はずっと、祖父は卓球がへたくそだと思っていました。いつも私が勝ったからです。それも、覚えています。

─さらに、大きくなってから─

祖父はよく、自転車の後ろに孫を乗せて、近くのおもちゃ屋まで連れて行ってくれました。複数人いるときは、一人だけが乗れる特等席。

ある日、事故が起きました。祖父の後ろに乗った子が足をホイールに絡ませて怪我をしてしまったのです。

その時の祖父は、私が見ても狼狽えていました。大声で泣くその子をどう扱えば良いのかわからない様子でした。また、引き返すのか、目的地まで行くのかも決めかねていました。

結局、血は出たもののけがの程度は軽く、しばらくしてその子は泣き止みました。祖父はきっと心底安心し、怪我をさせたことを悔やんだのでしょう。そのままおもちゃ屋に行くと、大量のおもちゃを買ってくれました。

帰宅し、祖母があまりの量に大声を上げる。祖父は苦笑いをする。(そして、その後怪我させたことを怒られる。)そう、これも覚えています。

血縁の事実を知らなかった私にとって、祖父は祖父でした。でも、祖父にとって私たちはどうだったのでしょう。これらのエピソードから、祖父の答えは解っています。とてもとてもたくさんの愛情を受けることができました。

でも、そこに行き着くまでにあったであろう葛藤が、私には解らない、想像できないです。

事実を知り、私の心は揺さぶられませんでした。知ってから祖父が亡くなるまで、祖父に対して私の態度が変わることはありませんでした。

ただ、祖父は私の好きな人から尊敬する人になりました。あの不器用だけど包みこむような安心感、子どもを思い真剣に向き合う姿。それだけを見せてくれた、祖父という大きな存在。

私は子どもの時に祖父との交流で得た感情を、我が子に感じてもらいたいと思って、私の子どもに接しています。

ありがとう、おじいちゃん。
僕も真似して、寝かしつけのお話にこっそり蛇を出してます。





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