夏影
今年は猛暑になるらしい。
そんなことを会社の同僚と話しながら、翌日の仕事のしんどさを想像してため息をつく。
どうして夏は暑いんだろうなと、どうしようもならない愚痴をこぼして、気を紛らわす。
なんの事は無い。
何かに文句や愚痴をこぼして共感や同意を得ないとやってられないのだ。
今が暑かろうと明日が暑かろうと、それはどうでもいい事だ。
そんな会話をしながら、ふと思う。
何が夏を夏たらしめるのだろうか。
気温だろうか。
いいや、違う。
湿度だろうか。
いいや、違う。
セミの鳴き声だろうか。
それも、違う。
多分、思うに、「影」なんだと思う。
夏は陽射しが強くなる。
それは太陽の南中高度が上がるとか、日照時間が長いとか、細かい話をすれば結論の行き着く先は大方予想はできるけど、そういう話じゃないと思う。
夏は「影」が強くなるのだ。
それは陽射しの強さに起因していて、そのせいで出来てしまった「影」こそが夏らしさを作り上げているのだ。
強い陽射しがもたらす「影」の濃さにより、いつも見ている景色のコントラストがより鮮明になる。
それによって、明るい場所はより明るく、暗い場所はより暗く見える。
その明暗こそが、夏を夏たらしているのではないかと思う。
そこまで考えて、ふと思う。
夏のもたらす明暗は、惑星の消滅前のような瞬間的な煌めきを想起させるからこそ、儚いのではないのだろうかと。