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しょうゆびーむ

したしみすぎててまめくささをかんじない
よくよくみればごきぶりはねいろふくにはねればふるいちのいろ
うんとおおきいボトルをかうのは
ゆうきがいる

七五調の韻文詩のように、気がつけば日常に染み渡っている醤油。初めてひとり暮らしをする時、トイレットペーパーを買うことが出来なかった。雑多なものを買い揃え、兎にも角にも買い物に疲れきってトイレットペーパーを買う手前でついぞ立ち止まってしまった。資金も尽きた。今でもその頃揃えた100均のアレコレを、'壊れてない'という理由で使っている。何の執着も無い。でも愛してる。"兎にも角にも"には角煮が含まれている。"兎に角"は反対から読むと"角煮と"。トニカクカクニト。回文の何が面白いのか。死ぬ間際にはきっと、面白がれるようになる。大丈夫、心配ない。外国のヒトは案外好き、回文。'スットコドッコイ'も大人気。愉快になっちゃう音韻らしい。怪文は永田町。怪物くんは可愛い子ちゃんに弱い。

和製英語といれっとぺーぱー、英語ならtoilet-roll、漢字表記なら"手紙"。"手紙"は日本だと、気持ちをしたためて綴った親書(適当)。大陸ならウ✨コふくやつ。当時は来客者に自分用のロール、『B.Y.O.'roll'』を徹底し、殆どのヒトは残したrollを置いて帰るので事なきを得た。"あの日、あの時、あの場所で"©小田和正、トイレットペーパーを買わなかったことで、本当に必要なものと、そうじゃないものをラディカルに選抜するようになった。怖いものが無くなったのだ。最後の砦を失って。今でもなんだかんだでバスタオルは使っていない。大雑把に水分を飛ばしたあと、食用水準のアルガンオイルで表皮水滴を乳化させている。医師もオススメ、お肌ツヤツヤ。

🌙.*·̩͙

角田光代著『八日目の蝉』で主人公キワコは、切り詰めなければならないにも関わらず、単価辺り割安な、大きいサイズの醤油を買うのを躊躇する。逃亡中の身で、住んでるアパートを明日引き払うかも知れない。更に言えば、明日生きてるかさえもわからない。逃亡者の1日は濃密だ。それは依存症者の1日とよく似ている。依存から回復するには、今日1日を嗜癖から逃れ、やり過ごすほかない。明日を夢見た瞬間に、脆く崩れ去っていく。儚い夢が奇跡ではなく、儚い夢の'儚さ'こそが奇跡。透かせば希薄で食せば濃い、お醤油みたいな人生。依存症者の昨日と逃亡者の明日は、秤がバランスするような等価の関係にある。醤油やトイレットペーパーの大サイズは、明日が確実に来ることが約束されるアイデンティテ。そして、家族がいて大量に消費することが予定される、生活を刻印されしスティグマだ。

それが今では、真空パックボトル醤油やウォシュレットの普及で、逃亡中の身でも余りアレコレ考えずに過ごせるようになった。どころか防犯カメラに走らせる顔認識センサーで、『逃亡』という概念そのものが消し去ろうとしている。逃げたいヒトはどこに逃げればいい?

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