三島由紀夫を巡る雑感。

ふと思い出したことがあった。誌名は伏せるが、あるフリーペーパーで三島由紀夫を特集している記事を読んだ時のことである。若かった時は三島関連が掲載しているとあれば乱読していた時期であった。後年、三島由紀夫については基本最新の情報は乏しいので、全集と猪瀬先生の『ペルソナ』、研究書を押さえれば、あとは何もいらないと気がつくのだが、若い時は変な好奇心が先に立ち、何でもかんでも手にしていたのである。
 三島由紀夫を軽く、ビギナーからでも理解できるように書かれた、ポップな文体であったが、ある一文を冒頭に書かれていて、一切読むのを止めた。その文はわかりやすいように、1970年11月25日の所謂、三島事件から入っていく。読者を惹きつけるにはこれが一番効果的だからだ。
そこで、冒頭、こう書かれていた。「三島はマイクを持って、演説を始めた。」
これで読むのを止めた。冒頭に致命的なミスがあると、後に何が書かれていようと信じられなくなるのである。三島由紀夫は命を賭して「肉声」で檄を自衛隊市谷駐屯地で叫んだのだ。冒頭から破壊された論文には1人涙した。そして、これがノン・フィクションを上梓する際にファクトチェックは入念にすべきという私にとってエポックメイキングな出来事となる。

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