見出し画像

トランス系の新カテゴリーDeep Tranceの発足。今後どうなる?世界のトランスシーン

いつも記事を読んでいただきありがとうございます。DJ NECOです。

クラブミュージックの一つのジャンルで世界的にも高い人気を誇るトランスミュージックにおいて本日歴史的な事件ともいうべき一つの出来事が起きました。

販売ストアの最大手Beatportにおいてそれまで一つのカテゴリーであったTranceが

Trance (Main Floor)
Trance (RAW / DEEP / HYPNOTIC)

の2つに分割されたのです。

後者は主にDeep Tranceと呼ばれており、再び注目を集めるかもしれないアンダーグラウンドなトランスサウンドの新カテゴリーとなっています。

筆者自身もこのジャンルのDJやアーティストプロモートを20年近く行ってきたので、今回はそのDeep Tranceについて解説させて頂きたくこの記事を投稿しました。

とても魅力的なジャンルでもありますので、お楽しみいただけたら幸いです。


Deep Tranceとは?

本日5月12日にスタートしたばかりのTrance (RAW / DEEP / HYPNOTIC)カテゴリー。

確かに2つある!

現在のトランスシーンにおけるメインストリームがアップリフティングであるなら、こちらはアンダーグラウンドというべきグループで、通称は ”Deep Trance"ですね。

(RAW / DEEP / HYPNOTIC)というカテゴリーはBeatportでも以前にテクノが分裂した際にもTechno (PEAKTIME / DRIVING)とTechno (RAW / DEEP / HYPNOTIC)という名称がそれぞれ使われたのですが、当時のDeep Technoと同じような扱いとなっているのが今回のそれですね。


Deep Tranceカテゴリー設立のきっかけ

Deep Trance Grab a coffee, a long post…. Many of us dislike putting genres in pigeon holes and would rather focus on...

Posted by John 00 Fleming on Wednesday, November 30, 2022

John 00 Flemingが発足人となって「新たなカテゴリーを立ち上げます。」と今回の件が表面化したのが2022年。トランスカテゴリーがサブジャンルでの細分化ではなく、メインでのカテゴリーとして分裂するのはBeatportサービス開始以来、初めてのことです。

シーンに携わってきた私の感覚としてですが、近年のトランスシーンで"Deep Trance"というワードがDJやレーベル関係者の間で使われ始めるようになったのは2010年代後半頃からでしたね。

音的にはアンダーグラウンド寄りのProgressive TranceがメインでTechnoやMinimal寄りのTrance, Trance寄りのMelodic Technoはジャンルとして含まれているように思えます。今回のカタログをみているとProgressive寄りのローテンポのPsy Tranceもこの辺りに含まれるのかもしれません。

2017 ~ 2018年に来日した際のJohn 00 Flemingは当時からDeep TranceとPsychedelicを組み合わせたロングセットを展開していましたし、Johnと話している時には既に"Deep Trance”という言葉を用いていましたね。

また、翌2019年に来日したGai Baroneと話している際にも「JOOFのレーベルから今度Mixコンピレーションをリリースするんだ」という話題になった際に内容の説明の中で"Deep Trance"というワードが用いていたので、この辺りがジャンルとして「こういう音がDeep Tranceなんだ」という明確なラインなのかもしれません。

Deep Tranceの決定版的コンピシリーズ "JOOF Editions"


トランスカテゴリーを分裂させた要因


今回トランス部門を2つのカテゴリー分割させた最大の要因はトランスというあまりにもサブジャンルを多く抱える音楽において、トップセールが特定のサウンドに偏りすぎている為が最大の原因だそうです。

Beatportをはじめとするダウンロードストアではショップのシステム上、新譜がリリースされた際に初動でセールスランキングに入らないとトップ画面での露出の機会が無いままに売るタイミングを逃してしまいます。

ショップ側もDJ達のフィードバックを見たり、同じジャンル内で多様性を持たせるためにピックアップというような形でディストリビューターと連携して売れ筋以外のサウンドのフォローも行ってはいますが、それにも限界があります。

であれば、最初からDeepなサウンドが固まっている売り場も設ける事さえ出来れば埋もれる心配が減るというのは間違いないですよね。John 00 Flemingが今回動いたのはそういったアンダーグラウンドなシーンや音楽制作を少しでも商業的なレベルで続けさせる為という背景は間違いなくあります。

また、こういった例はかつてProgressive HouseやTechnoでも起こっており、現在ではそれぞれ分割されたジャンルが定着していますね。前例としての成功例があった為にBeatport側も動かざるを得なかったのだと思います。

ランキングに入るかどうかはレーベルやアーティストにとってまさに死活問題!?


また、シーンが抱える大きな問題点をもう一つあげるとしたら、それはトランスシーンからの人材流出が激しいという点にもあるでしょう。

現在ではメインストリームの一角を担っているMelodic House / Melodic TechnoやいわゆるPeaktime系のTechnoでは比較的トランス的な構成の曲だったり、トランスの名曲ネタのMelodicバージョンやHard Technoバージョンが数多く制作されていますが、これらの制作者のキャリアを辿ると元はトランスDJやアーティストだったり、子供の頃にトランスを聴いて影響を受けた世代というのがとても多いのです。

2010年代後半から騒がれるようになったNeo Trance (現在ではMelodic Technoというワードが定着していますが)ムーブメントにおいてもTale Of USやStephan Bodzin、Virtual Selfらのサウンドが注目を集めていましたし、現在のMelodic TechnoシーンのトップセラーであるAnyma (Tale Of US)だったり、レーベルAfterlifeのサウンドもこの流れは継いでいますね。

現在世界を席巻しているAnymaのサウンドはある意味トランスの進化系?!

これらのサウンドが商業的に盛り上がっているのを見て「彼らがやっているのは我々の制作してきたProgressive Tranceサウンドじゃないか」と言ったアーティストがいましたが、サウンド的にみるとその時点での一部のProgressive Tranceとは音がとても近いものでした。

しかし、プロモーションやフェスティバルに特化した曲の構成が現在のシーンとフィットしたのもあり、その"彼らの"サウンドは世界各地でフロアを揺らし続けています。

もしもは無いですが、以前からカテゴリーが明確に細分化され、シーンの定着に成功していればDeep Tranceのアーティストとして活動するトランスDJ / アーティストは更に多かったかもしれませんね。

Deep Tranceの主なアーティストやレーベル

発案者John 00 Flemingが考える現在のDeep Tranceのアーティスト陣

どういう音がDEEP TRANCEなの?と気になると思いますが、2023年5月現時点での最大のヒットメーカーでいえば間違いなく名前が挙がるのがJerome Isma-Aeでしょう。

今春のヒット作となったMeteorite (Jerome Isma-Ae Remix)はDeep Tranceがカテゴリー化される前から今春のTranceのセールスランキングにずっと入り続けていたので、聴いたことがある人もいるかもしれません。

Jerome自体は00年代からProgressive Trance ~ Progressive Houseのアーティストとしてヒットメーカーであり続けている超が付くほどのベテランですね。

Jeromeのようなサウンドを筆頭となるのであればPaul ThomasやFuenka, Dylhen, Chris Bekkerといったアーティスト達は名前が挙がってくるでしょうね。

もっと深く重厚なサウンドであればAirwaveやGai Barone、Basil O'Glueといったアーティスト達もまたこのジャンルでピックアップされるべき存在と言えるでしょう。

賛同しているレーベルではSolarstoneのPure Trance傘下のPure ProgressiveやAly & FilaのFSOEグループでプログレッシヴを担当しているUVやUV NOIR、20年以上前からこれ系の音を取り扱ってきたhooj choonsやLost Languageは既にDeep Tranceからのリリースを控えていたり、既に発表していますね。

ここ数年の間に台頭してきたレーベルではForescape DigitalやPatternといったレーベルも良質なリリースをいくつも送り込んでいますし、Paul Van Dykが昨年新たに立ち上げたレーベルVandit Alternativeもこのジャンルの音を頻繁にリリースしているので今後より力を入れてくるかもしれませんね。

Orkidea & Chris Bekkerによる同レーベルのヒット作"Mind Rave"は純度100%なDeep Trance


Deep Tranceのルーツ

Deep Tranceというワードでは語られなかったのですが、これらの音を表すジャンルは以前からあって、それはProgressive Tranceと呼ばれることが殆どでした。

Progressive Tranceは2000年代前半から後期にかけて大きな盛り上がりをみせたTranceから派生したジャンルの一つで、Black Hole Recordings系のいくつかのレーベル (Tiestoがよくプレイしていましたね!!)や今年で活動20周年を迎えるArmada Music初期の人気レーベルであったElectronic Elements, Markus SchulzのColdharbour辺り。

hooj choonsの倒産後に台頭してきたLost LanguageやSolarstoneのSolaris Recordings辺りも人気でしたし、現在ではMelodic系で人気のAnjunadeepも初期はProgressive Tranceが主力のレーベルでした。

この辺りのレーベル達がシーンをリードしていた印象が強かったですね。

初期はめちゃくちゃトランスしていたAnjunadeep

また、Psychedelic系にルーツをもつProgressive Tranceも当時は全盛期。ワードが同じでジャンルとしては別とこの辺紛らわしいのですが、Ibogaのようなサウンドもめちゃくちゃ人気がありましたね。この辺りの音もJohn 00 Flemingの感覚ではこのジャンルなのかもしれません。

ルーツを最大まで辿ると1990年代のPlatipusやSuperstition、あるいは2000年前後の初期のBedrockやBonzai系の一部のサウンド、当時OakenfoldがプレイしていたようなProgressiveとTranceの中間のようなサウンドがご先祖と言えるのかもしれませんね。

イントロが5分近くある90年代中期の超大作 "Humate - 3.2 (Bedrock Mix)"


2003年にリリースされたDeep TranceのコンピレーションはProgressive Tranceがメイン
ワードとしてはこの頃から何となくは存在していましたね


最後に

Deep Tranceについて長く書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?私は今のMelodic系サウンドもシーンとしては原点回帰へ向かうことになるDeep Tranceもどちらも好きなので、叶うなら両方盛り上がって欲しいと強く願っています。

Melodic系もジャンルとして定着している分、この数年で爆発的に売れる曲のフォーマットはほぼ固まってきているので、遠くないうちにMelodic HouseとMelodic Technoの分割や更に細分化されていくような未来もありえるのではないか?と考えています。

Deep Trance側はベテラン勢が揃っている印象を受けますが、「これが売れ線だ!」というような曲はこれからどんどん生まれてくるので、こちらからも全く新しい音や面白いムーブメントが興ってくるかもしれませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?