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現実に疲れたあなたへ贈る一休み 『西の魔女が死んだ』書評

読書をする人には意外と「何度も読み返した」と口にする本のある人が多いらしい。 しかし時間を無駄にしたくないという貧乏性のせいからでもあるのだろうが、どうも私にはそういう本が無いようだ。そしてこれを自覚する度に私の脳裏にはこんな言葉がちらつくのである。 私は自身を「読書家」として認知してほしいなどとはちっとも思わないのだが、そんな風に開き直ってもこの指摘の本質からは逃れられないように思う。 もっとも、これに抗するために何か繰り返し読む本を用意するなどというのは全く滑稽話に

    • 意外と知られていないSFの多様性 『新しい世界を生きるための14のSF』書評

      アンソロジーというのはどうも読み終えるのが遅くなってしまっていけない。 一つ一つが独立した短編であるため手に取りやすいという利点はもちろんある。しかし、一つ一つが独立しているがゆえに連続して手に取る必要がないというのもまた事実だ。すると、元来読書好きとは言えない私の心には隙有りとばかりにオブローモフ気質が入り込んで、これをしばしば中断させてしまうようである。まったく困ったものだ。 私の記憶が正しければ『新しい世界を生きるための14のSF』に手をつけたのは去年の八月ごろだっ

      • クライムサスペンスの皮を被った読書論 『半暮刻』書評

        読後感という言葉がある。 これはいわば本の〝後味〟とも呼べるようなもので、これが良いものほど後の記憶には残りやすい。 基本的に世の人は刺激の強いものを好む。しかし大抵の場合、それは〝味〟に関する刺激であって、〝後味〟に関するものではない。そして〝味〟が刺激的なものというのは、およそ感想を聞いても「美味かった」「甘かった」「辛かった」と通り一遍の返答に堕しがちだ。 例えば(少し古い話題で恐縮だが)、「倍返しだ!」でおなじみの『半沢直樹』というドラマが一時おもしろいというこ

      現実に疲れたあなたへ贈る一休み 『西の魔女が死んだ』書評