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そしてフィッシュマンズは1曲だけ演って去っていった。

高校生の時から佐野元春の音楽を聴き続けて、今も自分が尊敬するアーティストの一人である。

と同時に90年代には、THE GROOVERSも好きでよく聴いていた。ロックンロールスピリッツ溢れる一本筋の通った男らしいスリーピースバンド。

そのグルーヴァーズが佐野元春のバックを務めてステージに立ったのが、1996年に赤坂BLITZで行われたイベント「THIS !」。その初日を観に行ったのだが、プレイグス、ヒートウェイブ、ソウルフラワー・ユニオンという個性豊かなオルタネイティブ・ロックバンドが一堂に会し、多様化した当時の日本の音楽シーンの魅力が伝わる充実のライブだった。

好評を博したそのイベントは翌年にも「THIS ! '97」として、佐野元春プレゼンツで同じく赤坂BLITZで2日間開催された。

その1日目、佐野元春はThe Hobo King Bandを率いて、グルーヴァーズは単独での出演が決まっていたので、前年との違いも楽しみたくて観に行った。

その日他には、Little CreaturesとTOKYO No.1 SOUL SET、そしてフィッシュマンズが出演。当時自分が興味を持っていたバンドが勢ぞろいした、チケット代の元を取って有り余る充実ぶり。


各出演者の幕間にはナビゲーターとして佐野元春が登場し、バンドのプロフィールを紹介して、呼び込む。

1バンドだいたい30分くらいの持ち時間だったので、こういう場合は主に代表曲を中心とした5曲前後のセットリストが組まれることがほとんどだ。

「ダブ・バンドとして日本のポップミュージックシーンにおける稀有な存在として…。」といったような元春氏の紹介の後に登場したのが、フィッシュマンズ。

3人組体制となり、レコード会社を移籍して、それまでのレゲエを基調としたポップスから、よりダブやエレクトロニカの要素が強くなった作品が高く評価されていることは知っていた。

しかし、自分はこのライブに臨むにあたり、数年前に買った3rd AL 「Neo Yankee's Holiday」ぐらいしか聞き込んでいなかった。

でも「いかれたBaby」は彼らを代表するシングルヒット曲だろうし、「Just Thing」のちのダブ化に繋がる重要曲だろうから、これ1枚押さえておけば、どんな演奏か予想が付くだろうと思っていた。

しかし、あらわれたフィッシュマンズ。

「GET ROUND IN THE SEASON !」「GET ROUND IN THE SEASON !」

と、いきなり佐藤伸治がシャウトしながら登場。

客を煽るための最初のコールなのかなと思っていたら、これをずっと繰り返している。

メンバー3人に加えサポートでギターにダーツ関口、バイオリン&キーボードのHONZI。この5人で声を揃えて、

「GET ROUND IN THE SEASON !」「GET ROUND IN THE SEASON !」

…いつまで続くのかな?と思っているうちに、だんだん楽器の演奏が加わり盛り上がっていく。

そして突然のブレイク。ここでSE。(レコード音源盤のイントロにあたる。)

この時、おそらくPA卓にはMIXエンジニアのZAKがライブミックスを行なっていたはずだ。

通常のライブハウスとは異なる鳴りで、独特の空気感がその場を支配する。

柏原譲の地を這うようなベースライン。欣ちゃんの軽快なリズムに、時折かかる深いリバーブ。

HONZIのバイオリンが奏でる流麗なメロディと、佐藤伸治の魔術的な声。

なんだ、なんだ。この曲は。ポップな曲を連続で聞かせてくれるんじゃないのか?

組曲的にいろんな展開があるわけではない。あきらかに1つのテーマを伝えている1曲。それがいつ終わるのかわからないまま、延々と続く。

だが、聴いているうちに、ぐいぐい引き込まれていく。

音響も含めてシーンが大きく変わるダイナミズムもあり、まったく飽きない。

最後のほうは、ほぼトランス状態になって、「なんだ、この演奏。ヤバ過ぎる!」と夢うつつでポカーンとしてしまった。

結局、30分かけてその1曲のみを演奏し、終わったと気付く間もなく、佐藤伸治は「ありがとう!」とだけ言って、ステージから去った。

「なんだったんだ、これは。」という戸惑いもあったが、それよりも音の波に飲まれ巻かれ、潜り、浮上して、岸に戻って砂浜に寝転がって、暖かい太陽の光を浴びているかのような多幸感に包まれていた。

これが、「LONG SEASON」だった。

まさに季節の移り変わりを凝縮して、あの場で全身で体感させてくれた。

1曲入りのアルバムとして96年に発売され、今もなおフィッシュマンズが日本のポップ・ミュージック界に打ち立てた金字塔として燦然と輝いている。

このライブの後で、自分は急いで「空中キャンプ」と「宇宙 日本 世田谷」を買いに走り、フィッシュマンズにどっぷりハマったのは言うまでもない。


今年、佐藤伸治の突然の訃報から22年。バンドのデビューから30周年を迎えるこの年に、「映画:フィッシュマンズ」が公開される。

震災で、コロナで、破壊されて失って初めて気付く、なにげない日常の大切さを、佐藤伸治の歌を聞くことで、我々はまた思い知ることになるだろう。


(文中敬称略)

(このイベントのことをネットで検索しても、ほとんど情報が無かった。貴重な写真はtwitterで、g.dさん@gdgfls が投稿された物を使わせていただきました。)

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