アメリカの“インディペンデント映画の至宝”と称されるケリー・ライカート監督
ケリー・ライカートというアメリカの映画監督・脚本家をご存知だろうか。
A24が北米配給を手掛け、日本でも話題となった『ファースト・カウ』の監督だ。西部開拓時代のアメリカにおいて、盗んだ牛乳からつくるドーナツで一攫千金を夢みた男2人のヒューマンドラマだが、私はこの作品で初めて彼女を知った。
インディペンデント映画とは
アメリカではメジャースタジオ(ユニバーサル、パラマウント、ワーナー、ディズニーなど)の傘下に属していない映画、もしくは自己資金で制作された自主制作映画のことを指す。言い換えると、監督が作家性を発揮しやすい映画ともいえる。
ケリー・ライカート監督は、そんなアメリカのインディペンデント映画界で最も高く評価されている映画監督の1人なのだ。
作風
彼女の映画には、暴力も、派手なアクションシーンもなく、政治的なメッセージは多分にあるがマイケル・ムーアほど挑発的でもないし、セックスシーンもない。ウィットに富んだ会話劇という感じでもない、というか、そこまでセリフも多くない。
近年よく見る、なんでも言葉で説明してしまう映像とは異なり、キャラクターの物言わぬ表情や風景など、ちゃんとその状況や映像で説明をする。ケリー・ライカートは自分で編集もしているので、彼女の提示してくれたペースで理解していくのに、副交感神経が優位になるような心地良さすらある。ここが優れた映像作家として評価されているポイントの1つだろう。
作品の共通点
冒頭紹介した『ファースト・カウ』と同様に、主要登場人物の2人の人間関係にフォーカスして物語ることが多い。
長編デビュー作の『リバー・オブ・グラス』は大した知り合いでもない男女が大した目的もなく逃避行するロードムービーで、2作目の『オールド・ジョイ』は久々に会う男友達とのキャンプ、3作目の『ウェンディ&ルーシー』の前半は主人公と犬、後半は高齢の男性警備員との掛け合いがメインとなる。
以降の作品も、見せ方やパターンは変えてきているが、やはり主要な「2人の関係性」が重要な役割を持っている。
移住の旅に出た三家族を描いた『ミークス・カットオフ』は、登場人物が多いながらも、一人の女性と、旅の案内人が捕らえたネイティブアメリカンとのコミュニケーションを印象的に見せているし、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』は、弁護士と依頼人・夫婦・派遣教師と地元住民という組み合わせのオムニバスだ。
そして、デビュー作と「ライフ・ゴーズ・オン」を除けば、実はケリー・ライカート監督の長編作品の舞台は、全てアメリカのオレゴン州なのだ。
オレゴン州と言われてもなかなかピンと来ないが、調べると「カッコーの巣の上で」や「スタンド・バイ・ミー」などがオレゴン州を舞台とした作品である。
オレゴンの作品が多いのは、シンプルに監督がポートランド在住だから。
映画に登場するキャラクターたちが見ている景色は、監督が普段見ている景色に近いのだろう。Wikipediaにもあるように、作品の中でたまにネイティブアメリカンが出てくるのも印象的だ。
そんなケリー・ライカート監督の最新作『ショーイング・アップ』が、1月26日から配信開始となる。A24から北米配給され、日本公開に至っていなかった作品を、改めて映画ファンに届ける「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」というプロジェクトの一環だ。
『ファースト・カウ』に引き続きのA24の北米配給、4度目となるミシェル・ウィリアムズの出演、そして本作の舞台もオレゴン州のポートランドである。『ザ・ホエール』でオスカーノミネートされたホン・チャウも出演しており、期待度が高い。
ケリー・ライカート監督の住むポートランドの、個展を控えた美術学校の教師が主役の作品。上の写真だけでも示唆に富んでいて面白い。
なぜ二人は全く違う方向を向いているのだろうか。監督の、こういったセリフでは表現できない領域が素晴らしいのだ。期待して待ちたい。
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