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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』先住民を題材とした映画の変遷

マーティン・スコセッシ監督最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』についてのレビューを、毎日新聞社さんの「ひとシネマ」に寄稿したので、よければご一読いただきたい。

今作は、なんたって尺が3時間26分もある。

かつ劇中の情報量がとても多いし、歴史的な背景がなかなかに複雑なので、記事ではそのあたりの流れを整理し、鑑賞の理解の助けとなるような内容にしたつもりである。

その中で、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』には、「白人→先住民」という視点の大きな転換がある点について触れているが、これまでのネイティブアメリカンを題材とした映画を並べてみると、これまた結構おもしろい。ごくごくカンタンにその内容をnoteでも紹介してみよう。

『駅馬車』
(C)MCMXXXIX BY WALTER WANGER PRODUCTIONS, INCORPORATED.
ALL RIGHTS RESERVED.

第二次世界大戦に突入したばかりの1939年に公開されたジョン・フォード監督の『駅馬車』なんかでは、ネイティブアメリカンは白人を襲う敵である。キャラの名前もない。先住民A、先住民B、この頃はそんな「その他大勢」という扱いだ。

西部劇の大きなターニングポイントになったと言われている『小さな巨人』(1970年)と『ソルジャー・ブルー』(1970年)が公開されたのが、それからおよそ30年後。

『小さな巨人』
『ソルジャー・ブルー』
Photo by Silver Screen Collection - © 2013 Getty Images - Image courtesy

『小さな巨人』では、ダスティン・ホフマンがシャイアン族に育てられ、『ソルジャー・ブルー』でも、シャイアン族と2年間共に生活していた女性が登場する。先住民サイドに立つ白人キャラクターが登場したのだ。白人が迫害と虐殺をしてきたことへの非難も見えはじめる。

そこからまた更に20年が経ち、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1991年)が公開。

『ダンス・ウィズ・ウルブズ』
© 1990 MGM

これまで以上に先住民族への敬意を表した内容になったこの作品は、監督・主演のケビン・コスナーがスー族の言葉を話し、彼らの名前を与えられ、友人としての地位を得る、そんな変化もあった。(でも先住民の言葉を教えたのが女性で、全員が女言葉になってるらしく、先住民語を話せる観客は爆笑だったという話もある。)

ただ『ダンス・ウィズ・ウルブズ』が凄いのは、アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚色賞・撮影賞・作曲賞・録音賞・編集賞でなんと7冠でオスカーを獲得したことだ。白人を批判する内容の作品が、その年の作品賞を飾ったのである。

『ウィンド・リバー』
(C)2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVE

ここ数年で話題となったのはテイラー・シェリダン監督の『ウィンド・リバー』だろう。(最近の作品だと思ってたら、もう6年も前の映画で驚いた。)居留地を設けることで共存している(せざるをえなくなった)白人と先住民の、未だに相容れない現代の社会問題にフォーカスしている。

見直してみて驚いたのは、ネイティブアメリカンの殺人事件が起きてFBIが派遣されてくるという流れが『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と全く一緒だったいうことだ。(居留地での事件は基本的に先住民の部族警察が行うが、殺人事件などの凶悪犯罪が起こった時は、FBIが捜査をする仕組み。)

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
画像提供 Apple/映像提供 Apple

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を見ると、視点が先住民であるオセージ族に置かれているのがよく分かる。これまでの多くは「白人から見た先住民」だったのが、今作では「先住民から見た白人」になっている。しかもメガホンをとったのは、先住民でなく白人の映画監督マーティン・スコセッシだ。個人的には、ここが一番のポイントではないかと思う。




原作と原作者の話も少し。

原作本は映画に合わせてなのか、タイトルが少し変わってしまった。

筆者の私物

「花殺し月の殺人」の方が哀愁があって、なんとなく好みではあったのだが・・・これで認知が向上し、よりたくさんの人に読まれるならその方が良いのかもしれない。

副題に「FBIの誕生」と入っている通り、FBIの前身となる捜査局のエピソードであったりとか、後のFBI初代長官となるエドガー・フーヴァーについても原作では映画よりかなりしっかりめに書かれている。クリント・イーストウッド監督によるフーヴァーの伝記映画『J・エドガー』で、フーヴァーを演しているのがレオナルド・ディカプリオなのも、何かの縁を感じてしまう。

『J・エドガー』
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

スコセッシ監督の次回作が、再び『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の原作者であるデヴィッド・グランの小説の映像化で、主演がレオナルド・ディカプリオだという噂もある。(あくまでも噂だが、そうと言われている本のタイトルは「The Wager」。)

実現したらこのタッグも7度目になるな、と思うがかなり気が早い。しばらくは『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で白めしを3杯喰えるような映画スタイルで過ごそうと思う。


▼今回触れた映画リスト

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