「枯れた花」のコサージュデザインで"メゾン ミハラヤスヒロ"のパリコレへ
胸元に着ける花飾りのコサージュ。その制作における技術やデザインを追求し、ミハラヤスヒロのパリコレクションでのショーにも参加した装飾花:コサージュデザイナーの高瀬光徳さんにインタビューをしました。
「花飾り」にも色んな種類があるんですね。
そうですね、本来であれば「コサージュ」とは衣服につける生花や造花を指しますが、私は部屋に飾るインテリア用や、オーダーがあればウェディングのお色直し用のヘッドピースなんかも作っています。
コサージュ作りの仕事を始めたきっかけは何ですか?
文化服装学院という服飾専門学校に通っていた時に、今も先生として師事している方にお会いして、その方の影響でハマっていきました。先生はその専門学校の講師ではないのですが、たまたま作品を拝見する機会があって「こんなレベルのものが人の手で作れるのか」って衝撃を受けたんです。
どうやって技術が伝承されてきたのか、少し複雑な話ですが面白いので紹介しますと、今のコサージュ作りの技術は、私の先生の、そのまた先生にあたる人が実際に昔フランスで学んできたものです。
プレタポルテのトレンドが強まっていった時代に、オートクチュールに携わっていたコサージュ制作のアトリエの職人たちが、後世に残すために技術を解放したんだそうです。先生の先生は、そのタイミングで技術を学び、日本に持って帰って来てくれたという訳です。
そこへ、当時は生花の講師をしていた私の先生が習いに行き、そして私が教わり、現在に至ります。
<参考>
~オートクチュールからプレタポルテの時代へ~
かなりざっくりまとめると、1960年代~1970年代にかけて、1人1人に合わせたオーダーメイド一点物の縫製による仕立服から、トルソーでの型紙作りを経て服が大量生産される時代へ変遷したということです。
ミハラヤスヒロのパリコレへの参加はどういった経緯で始まったのですか?
若手発掘をするという目的もあった合同展示会に出展したことがきっかけです。出展者は評価も同時にもらえるんですが、私の場合は「技術は高いがデコラティブ(装飾的)過ぎて店には置けない」という評で、感触的には厳しい印象でした。
何かしらには繋げたかったので、トークショーのゲストとして来ていた三原さんに声を掛けさせてもらって。会話の中で「枯れた花のコサージュできる?」って言われ、やったことないけど「できます!」と即答し、作品を見せて「もっと枯れたの欲しい」などのオーダーをいただき…
そこから、作品を改善して、フィードバックを貰って、また作品を作って、というキャッチボールを1年以上重ねた末にパリコレが決まりました。最終的にはその展示会の出展者の中で、最も良い結果に繋がった1人かもしれません。
凄い話ですね。パリにも行ったんですか?
もちろん行きました。ショー本番までの時間はギリギリでしたけど「パリに一緒に連れて行ってください」と自分からお願いして。パリコレに行けるなんて、まず考えられないチャンスですし。
「枯れた」コサージュっていうアイディアが凄いです。
「枯れた」のもそうですし、もっと言うと「退廃的な」ものが三原さんや私が求めているイメージだったりします。”ドライフラワー”っていう文化もあるくらいなので、枯れているものが好きな人は一定数いるんです。
”女性が付ける”というのが固定観念かもしれませんが、ショーでは男性モデルのコサージュが印象的でした。
そうですね、確かに女性のイメージもありますが、私の場合はその人に合わせて作るので、性別で作品が変わることもありませんし、そんなに意識もしていないのでジェンダーレスに楽しんでもらえると思います。
パリコレ以降は、ファッション業界との繋がりはできましたか?
正直なところ、あまりできていません。というのもパリから帰国したら、コロナ禍が最初のピークを迎えるくらいの時期になっちゃって。2020-21のコレクションは2020年の1月開催でしたから、タイミングが良いのか悪いのか、帰りの飛行機の中でコロナが広まり始めたというニュースを観たのを覚えています。
大々的に動くことはできませんでしたが、3年くらい試行錯誤しながら自分の技術を磨くことに時間に費やせたので、それは良かったです。
パリコレの経験は、やっぱり凄く楽しかったんですよ。ショー後も、これからやっていけるかもしれないという自信がつきましたし。ただ同時に感じたのは、やっぱり圧倒的に実力不足だということ。このままでは自分が枯れると思いました。
どのような点で実力不足だと?
説明難しいんですけど、「これじゃ足りない」。
例えば仕事をするなら、ビッグメゾンと呼ばれるようなブランドともやってみたいじゃないですか。そうなった時、今の作品をトップメゾンのものとして出せるかをイメージすると…足りないなって自分で思います。
今後はどういう作品を作りたいですか?
写真の百合のようなコサージュですね。枯れたものや退廃的なイメージのもの。そう思うようになったのは、やっぱり三原さんとの出会いが大きくて。
キレイなものをキレイに作る技術を持った人はたくさんいますし、それを自分がやっても面白くないなとモヤモヤしていたところに、三原さんの「枯れたのできる?」の一言。今ではもっと腐った感じのコサージュもやってみたいと思っています。
自分のやりたい方向性を示してくれたこと、もちろんパリコレに一緒に参加させてもらえたこと、三原さんには本当に感謝しています。
コサージュを「枯らす」作業というのはどのタイミングで行うのですか?
一旦は枯れてない普通のコサージュを作ります。花びらをくっつけて完成させる前の段階、パーツの状態ですけど。で、更に汚れて見える染色を施したり、枯れて見えるシワを寄せたり、焼いて穴を開けたり、焦がしたり。
色も暗いものが多いですね。トレンドカラーもありますが、その辺は深く考えず、せっかくの一点物なので、好きな人が好きなようにオーダーメイドで望んだ色・形・花のコサージュを着けて欲しいと思います。
コサージュはファッションと縁の深いものですが、高瀬さんはファッション関係者というよりも「モノ作り」に携わる方という印象を受けました。
そうですね、業界への入りはファッションからでしたけど。服飾品としてのコサージュがメインのフィールドというよりは、いろんなことをコサージュ制作を通して表現したい、その中にファッションも含まれる、というスタンスのつもりです。
なので、そういった色んな含みを持たせるために、自分の屋号は「装飾花」と名乗っています。
▼高瀬さんがコサージュを提供したミハラヤスヒロのショーの写真はこちら
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(写真:若槇由紀)
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