見出し画像

430 怪獣8号

はじめに

最近とあるアニメーションを見始めました。それが、今日のテーマ「怪獣8号」というアニメーションです。怪獣という存在を通して、社会の姿を描き問題提起をするという現象は、昭和の円谷作品にも見られます。
今日の教育コラムでは、この作品を通して感じたことを少しお話してみたいと思います。

作品紹介

この作品は少年週間ジャンプで連載されていることもあり、すでに多くのファンの方々が存在しますし、原作者の松本 直也(まつもと なおや)先生の作品はこのほかにも読み切り作品など数多くのものが発表されています。
「ねこわっぱ」などは、話の着眼点も面白くキャラクターも際立っている作品で私は凄く好きな作品です。
今回の怪獣8号は、そんな松本先生の最新作品となるわけです。お話は、読んだことのある方も多いと思いますが、怪獣と呼ばれる人類の脅威が発生する世界が設定として存在します。この怪獣に対して防衛隊と呼ばれる組織が存在します。また、怪獣を討伐した後の処理をする会社なども存在します。主人公は、一人の防衛隊員を目指す中年男性です。名前は、日比野カフカと言います。防衛隊員を目指す彼は、病院で治療を受けている中で怪獣に寄生されてしまいます。そこから、彼は、すさまじい怪獣の力を有する人であるのか怪獣であるのかわからないような存在となります。
彼の正体が隊員の命を守ることと引き換えに明らかになってしまうわけですが、そこで仲間は「心」というものについて考え、彼は人一倍人間の心をもった存在であることをうったえかけます。

「プロジェクト アイ・ジー」と「スタジオ カラー」

今回のアニメ版の怪獣8号は、その漫画としての面白さもさることながら、最高のアニメーター集団により、すさまじい完成度のアニメ作品に仕上がっています。私は、個人的にOPから度肝を抜かれました。細胞の変化や怪獣の生々しさのようなものを幾何学的なデザインの絵の展開を織り交ぜながら、力強い筆遣いのアニメーションで表現されています。
言葉では表現しきれませんので、ぜひご覧いただければ幸いです。アニメーション制作では「Production I.G」、怪獣デザイン&ワークスで「スタジオカラー」が参戦しています。
「Production I.G」は、皆さんご存じのように「攻殻機動隊」シリーズなどなど多くの作品で圧巻の作画演出とミリタリー、メカニックの表現に高い評価を集めているスタジオです。
また、スタジオカラーは、エヴァンゲリオンシリーズ、シンゴジラ、シンウルトラマン、シン仮面ライダーでもおなじみの庵野秀明さんが代表取締役社長を務めるスタジオです。
余談になりますが庵野監督は怪獣シリーズの金字塔的作品の数々を生み出した円谷作品にも精通されている方の一人です。この両者の生み出す世界に今、世界が熱狂しています。

円谷英二

特撮の神様と言えば円谷英二先生なわけですが、怪獣8号・・・もしかすると円谷先生の存在なくしては、存在しなかったかもしれません。少なくともゴジラやウルトラマンは存在しなかったでしょう。
怪獣やヒーローという存在を用いて子どもたちに伝えたかったものはどのようなものであろうとも、多くの子どもたちが夢中になりそれらの作品から様々なことを学び取ったことは間違いありません。
1960年代から70年代にかけて円谷作品から影響をうけた子どもたちはまさに「怪獣ブーム」という名の社会現象の中で生きていたと言っても過言ではないでしょう。世界的映画監督であるジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグにも円谷先生の作品の数々は大きな影響を当てています。

金言

そんな円谷先生の言葉に次のようなものがあります。
「特撮っていうのは、貧乏の中から生まれたんだ。」
これは、今のようなCGの技術もなければ、莫大な製作費を集めるような体制もないような時代において、「特撮という手法」そのものが予算不足やCGなどの技術の不足を補うための発想であったことを意味している言葉です。
子どもたちにリアリティをもたせた作品を提供しようという円谷先生の逆境の中で生み出した手法が結果的に最高に現実と夢を盛り込んだ作品を多くの子どもたちに提供することへとつながっていったこのエピソードが好きです。

神様だって苦労はする

円谷先生の人生は戦前、戦中、戦後という区分で見た時にその時々でさまざまな側面を持っていることに気が付きます。
例えば、先の大戦では戦意高揚のための映画の制作を手がけました。戦前、戦中の特撮映画の最高峰と語られる「ハワイ・マレー沖海戦」では、精巧なミニチュアと映像の合成技術で真珠湾攻撃を見事に再現しています。
しかし、この栄光も敗戦となった日本では戦争責任を追及される要因ともなったわけです。実際に映画の仕事から離れる時期も存在します。しかし、そうした時代を乗り越えさせたのは、円谷先生の高度な特撮技術と発想力や創造力そのものでした。

影響のつながり

不思議なもので、今の時代のアニメ作品が楽しめているのは、その前の時代に何かが存在し、誰かがその何かを伝えたことに由来しているのです。
それは、怪獣という概念、そして、その概念を描く技術や表現方法の革新など様々な分野に波及しています。
もしかすると怪獣という言葉だけ見れば、「椿説弓張月」(ちんせつ ゆみはりづき)という1810年に発表された伝奇物語の頃から使われていますので、円谷作品もまた、大きな大きなつながりの中で生まれているのかもしれません。因みに、この「椿説弓張月」という作品は、話を滝沢馬琴がそして、画を葛飾北斎が手がけたまさに最高と最高のコラボレーションで生まれた作品の一つです。
「怪獣8号」という作品を通して、日本の漫画やアニメといった文化、そしてさらにその昔から育まれた文学作品のすばらしさに改めて気づかされた気がします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?