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298 五公五民


はじめに

江戸時代の3大改革と言えば、八代将軍徳川吉宗による 享保の改革、11 代将軍家斉を補佐した松平定信による寛政の改革、12 代将軍家慶の老中であっ た水野忠邦による天保の改革が有名です。これを近世の三大改革と呼ぶ人もいます。
なかでも、八代将軍の徳川吉宗の改革は、自ら指揮を執って庶民、幕閣に倹約を強いただけでなく、新田開拓、商品作物の栽培推奨によって農業を盛んにし、税収を増加させるなど成功した改革として有名です。
税収を増やすためには、民衆の負担を増やす必要があります。そこで、享保の改革以前は四公六民だったものを吉宗は民衆の理解を得ながら五公五民にしたわけです。
今日の教育コラムでは、最近話題の国会議員の脱税問題を取り上げながら租税教育について少しお話してみたいと思います。

年貢の収集率

五公五民や四公六民とは、江戸時代の年貢収取率を表現した言葉のひとつです。 全収穫量の 50%を領主が取り、残り 50%が農民の手元に残される場合を五公五民といい、領主の取り分が 40%で農民に60%が残される場合を四公六民と言います。
つまり、吉宗が民衆の負担と国の負担を半々にしたわけですから民衆としては増税が行われたわけです。しかし、吉宗は幕府の財政を立て直しただけではなく、民衆の暮らしを好転させました。その第一が収入を増やしたことにあります。また、インフラ整備も進めました。そうすることで暮らしが豊かになりますから、増税が行われても実質賃金や収入が増えているのですから民衆は納得するわけです。また、この改革のすごさは、幕閣に向けても厳しく行われた点にあります。この身内に厳しい姿勢が民衆の賛同を集め、改革の後押しとなったことも重要な点です。
ちなみに、豊臣秀吉は天下人であった時代に年貢の収集率を二公一民を基準としていました。民の手元に残るものが「一」ということだけ見ても、これはかなり厳しい税率であることがわかるかと思います。

現在の税率

収穫したコメの五割を年貢として納め、残りの五割が農民の手元に残るという吉宗の年貢税率を五公五民と呼ぶというお話をしてきましたが、現在の日本はどのような税率かを見ていきたいと思います。
財務省によれば、現在の国民の税負担率は約47%です。この数字が高いか低いかは比較対象が無いとわかりませんので、今からちょうど40年前の1980年代の国民負担率と比べてみることにします。1980年代の税率は約25%です。
簡単に言えば、現在は収入の半分を税金で納めているということです。しかし40年前は、収入の4分の1を納めていたわけです。
国民の税負担は、年々増えたり減ったりを繰り返し、平成21年からは年々ほぼ増加の一途をたどっているのです。所得税だけではなく、消費税の増税や飲料水などやお酒にかかる税率も2023年に上がるなど、私たちの生活の様々なものに税率はかかっています。

新しい増税

よく政府が増税を行うときに、「実質的な税負担は負担は生じない」という説明をします。今話題になっているのが「支援金制度」という新しい制度のを導入に関わる増税です。
本国会で成立を目指している法案ですが、問題はどのくらいの増税になるかがしっかりと試算されていない点にあります。この増税は、少子化対策の財源として導入されるものであり、現政権の異次元の少子化対策に取り組むために必要だとされています。
国民1人あたり約500円弱の負担が月額でかかるという政府の説明がこれまでされてきましたが、民間の試算では倍、または倍以上の社会保険料の負担となる見方ができることがわかってきたのです。「負担は増えない」と説明しながらも、予想以上の負担になることが懸念されているのです。
因みにこの財源は、児童手当の拡充や出産・子育て応援交付金の10万円に当てられます。その総額は、年間で約1兆円とも言われています。このために、保険料と同時に徴収しようというのが今回の増税というわけです。こうした国民に説明を十分に行わず、気づきにくいところからそっと税を徴収する行為を最近では「ステルス増税」と呼びます。教科書には出てきませんが、今日の日本では社会を知るための重要な基礎用語の一つです。

脱税は犯罪

現在、国会で問題になっている自民党議員の裏金問題は、逮捕者も出てはいますが、検察の捜査も重役の立件まではなかなか進みませんでした。
残りの論点は、政治資金であれば非課税とし、政治活動以外に使った分や未使用分は議員個人の雑所得となるので、課税対象ではないかという問題です。政府は、納税は議員一人一人の判断などと言っていますが、税制とはそのようなあやふやなものではならないのです。
裏金としてキックバックされたお金は政治の目的に使用されておらず金庫や事務所に保管していたなどと自民党の調査に回答した議員が数多くいます。つまり、使っていないお金は、本来課されるべき納税義務を免れたことになるわけです。

国税庁啓発ポスター

最後に、クロヨンとトーゴ―サンピンという言葉を紹介します。これは、課税される所得を税務署に捕捉されている割合を指す言葉です。
サラリーマンなど給与所得者の場合は源泉徴収ですから9割補足されます。 これに対して自営業者は6割補足されると言われています。また、農林水産業者は4割程度補足されるとされています。このように所得を税務署に補足される割合を「9・6・4(クロヨン)」と呼んでいます。
因みにここに、政治家の補足率1割を入れると「10・5・3・1(トーゴーサンピン)」という呼ばれ方になります。
給与所得者、個人事業者、濃林業者各間の所得捕捉率に大きな差があることがこの言葉からもわかるのですが、実情は、総合的に見た場合、実はいわれる程の差があるわけではないとの見方もあります。しかし、問題は少なからず捕捉率だけ見ても不公平感がある点です。デジタル化を進め、マイナンバーを用いて納税を管理すれば、もっと公平で透明性の高いものになるのではないでしょうか。
徴税には、公正と公平な姿勢がやはり重要ではないでしょうか。現在脱税を疑われている国会議員の姿を通して、私たちは納税の義務についてもう一度考えるべき時に来ているのかもしれません。

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