41 大深度地下(deep underground)


はじめに

今回のコラムは、6月9日に山梨県知事が記者会見で現在までの情報と今後の考えが明確に示された、リニア中央新幹線の南アルプストンネルのボーリング調査に関するニュースを取り上げてお話ししたいと思います。
取り上げるキーワードは「大深度地下」です。これは、新たな都市づくりの考え方につながるだけではなく、公共的使用という概念について学ぶことのできる言葉だと考えています。ぜひ、これからの社会づくりに必要な要素をこの言葉からも皆さんと一緒に考えることができたらと思います。
また、そのことが、これからのリニア開業に向けた山梨県と静岡県の建設的な議論を生み出していく基盤になるのではないかという思いも今日のコラムに込めたいと考えています。

水をめぐる静岡県と山梨県の意見

リニア中央新幹線の南アルプストンネルのボーリング調査が進められています。ボーリング調査とは、地盤に細い穴を深くあけて、採取した土や岩盤から、地質の状況を把握するものです。この調査の過程で、山梨県側に静岡県の湧水等の水源から水が流出してしまうのではないかという静岡県知事からの指摘があり、現在は調査が中断されています。これにより、南アルプストンネルの工事が進まない状況にあるという問題が起こっているのです。
関係する地方自治体の首長からは、静岡県に対してリニアの早期開通に向けた要望が出されているという状況です。
複数の県をまたいで流れる川の水に例えた話がよく今回の事案でにおいて用いられますが、まさに水の所有者を主張する静岡県はその法的根拠を示さなければ、この話は建設的な議論に発展しないのではないでしょうか。また、生活用水にどのような影響があるのかについては科学的な調査を行うことで解決の道が見えてくるはずです。
静岡側の地下水が山梨側に流出する恐れがあるので、工事を認めないというような静岡県の主張のありかただけでは、源泉や水源をめぐる水の取り合いに近い話になってしまうため、2027年に一つの節目を設けているリニアの開通に向けた目標が達成できなくなってしまうのではないでしょうか。

大深度地下とは

大深度地下とは、地下40mよりも深い部分を指します。都営の大江戸線などは地下50m近いところを通過することでも有名ですが、現在では自動車などの通行、人の往来には使っていない部分です。ましてや住居や商業施設などが立ち並ぶといった場所としては、現在は使用していない地下の深い部分です。鉄道や道路以外にもガスや電気、通信設備、上下水道などのトンネルや配管などの多くは、この地下の部分を用いています。

大深度地下の公共的使用

山梨と静岡の間で起きている地下水の所有権をめぐる問題ですが、交通網という社会的なインフラ整備を進めている今回のリニアの開通に向けた事業は、JR東海を中心に様々な地方自治体が協力をしています。これは、公共的な交通事業であることを意味しているわけです。
今回のリニア中央新幹線では、その路線に「大深度地下」を通る部分が複数存在します。そこで、考えてみたいのが、大深度地下をリニアが通る場合の
土地の権利はどうなるかという問題です。
前提として、大深度地下の利用について次のような決まりがあります。「道路や鉄道など公益の事業は、地上の地権者との用地交渉や補償をしなくても国土交通省または都道府県の認可を受けて使用できる」というものです。
この決まりのことを、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」と言います。
この中で、公共の利益となる一定の事業に対し、土地所有者等による通常の利用が行われない大深度地下空間に使用権を設定するための要件、手続き等が定められています。また、このルールにそって、安全基準の審査を受けた上で大深度地下を使用する認可を受けた場合は、地上の権利が及ばないともされているのです。温泉や井戸がある土地に関しては、地下での作業や建築がどのような影響が及ぶかを調査するなどまた、別の対応がなされます。
いずれにしても、公共性がある事業に対してその達成に向けて、公益性を重視した法的な処置がとられているという点が重要になります。

大深度地下活用のメリット

メリットは、次の5つが主なものとして考えられます。参考にしたのは、国土交通省の「新たな街づくり空間 大深度地下」というリーフレットです。
(1)インフラ整備などの公共の李永輝となる事業が円滑に進む。
(2)コスト縮減につながる。
(3)地震に対して安全である。
(4)周辺への騒音や振動が減少する。
(5)環境保護に役立つ。
(さらに詳しく知りたい方は、国土交通省のホームページから様々な資料をダウンロードすることができます。)

工事再開に向けて

2027年の開業を目指し、JR東海が進めているリニア中央新幹線ですが、完成すれば、東京の品川駅から愛知県の名古屋駅までの約300Kmの道のりを、結ぶ21世紀の「夢の超特急」となります。
最高時速500kmで走るわけですから、単純に300÷500で、0.6時間で到着することになります。つまり40分弱で到着するわけです。この時間の短縮は経済的にも人流の面でも社会的な効果を生み出します。
この壮大な計画にこれまで関係者、関係地域、土地を譲った多くの人々が念頭に置いてきたこと、それが「公共性と公益性」でした。未来志向に立って取り組んできた多くの人々の前に今立ちはだかっている問題が「静岡県での工事の着工の停止と遅れです。もともと遅れていた工事の進行状況もありますが、2027年の開業が困難な状況にあります。
リニアの走行距離全体が約300kmですが、静岡県を通る距離はその約30分の1の約10kmです。この10kmの建設に関わる問題を私たちはどのように解決していくことができるのでしょうか。
建設的な意見の一つとして、静岡県の主張している湧水の山梨県側への流出や大井川の水源問題に対してトンネル建設に伴い流出する水の一部または、その大半を戻す案などが提案されています。また、環境アセスメントの視点からも時間をかけて調査が重ねられてきています。
このように、課題に対して共通の目標を一にしてその解決に向かって進んでいく意思を示すことが前提とならなければ、これまで積み重ねてきた多くの人々の公共性や公益性を理解した上での取り組みが無駄になってしまいかねないのです。
夢の超特急には、利便性を超えた未来への日本の挑戦の心が詰まっていることを思い出すことが必要なのかもしれません。

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