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「ヤングケアラー支援」を通して作りたい関係性

こんにちは、ダイバーシティ工房・アウトリーチ事業部スタッフの松村です。

突然ですが、この記事を読んでくださっている皆さんは、「ヤングケアラー」という言葉を聞いたことはありますか? 聞いたことあるという方も、何それ?という方もいらっしゃるかもしれません。

日本ではまだまだ認知度が低い言葉なのですが、一般的には「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこども」を指してそのように呼ぶそうです。

具体的には、家事や兄弟の世話・見守りだけでなく、介護や身体介助、家計を支えるためのアルバイトをしている、精神的に不安定な家族の話を日常的に受け止めている、 日本語が母語ではない家族の通訳や、病気や障害の手伝いのために、行政の窓口や通院などに同行している、というようなことも、この家事や家族の世話に当てはまるといわれています。

◎参考資料:こども家庭庁ウェブサイト

こう考えると意外と身近に「あの子、もしかしたら」という方が思い浮かんだり… 実は今年度、ダイバーシティ工房の活動を見てくださっていた方からのあるお声掛けをきっかけに、新たな挑戦への機会をいただきました。 

これまで主に千葉県市川市、船橋市、松戸市、東京都江戸川区などの地域を拠点に活動してきたダイバーシティ工房ですが、 2023年4月より、千葉県からの委託を受けて、千葉県全域を対象に、ヤングケアラーの方を支援する体制をつくろう!ということになったのです。 

窓口の名称は「千葉県 ヤングケアラー総合相談窓口 アトリエ」と名付けました。学校でも、家庭でもない空間で、自分のことに向き合えるアトリエのような場を、これから一緒に作っていけたらいいなという願いを込めています。

アウトリーチ事業部のメンバー

3ヵ月の準備期間を経て、2023年7月から、千葉県在住の当事者の方と家族などその周囲の方、関係機関の方に向けて、電話・メール・LINEでの相談窓口を開設しました。 

あわせて、千葉県内で生きづらさを抱えた方に対して包括的な相談支援を行っている中核地域生活支援センターへのあいさつ回りを通して、各地の地域性や若者支援の現状を学びつつ、県内10か所で実施されている「高校内居場所カフェ」に足を運んでピアサポートを実施しようとしています。 ピアサポートとは、同じ苦しみや生きづらさを抱える当事者や経験者が話をしたり、経験を分かち合ったりすることで互いに支え合う活動のことです。アトリエは、その活動の場を居場所カフェの中でつくるにはどうしたらいいかを考えています。

今年度中には、出向くのは難しい、または抵抗がある当事者の方が気軽に集まって話せる場づくりとして、オンラインサロンの開催も予定しています。 


前置きがかなり長くなりましたが、私はこのアトリエでの活動を通して、ヤングケアラーと呼ばれる子どもや若者に対して、何をしたいのかずっと考えていました。 

これまでも市川市内の様々な学校に出向いていく中で、「この子はヤングケアラーだな」と思う生徒さんに何人も出会ってきました。 

それらの活動の中で私は、福祉の仕事をしていることを子どもたちに伝えていません。福祉という言葉に、大変な仕事、貧しい人や困っている人を支援する仕事、緊急時にしか頼ってはいけないもの、という強い印象があると思っているからです。 

また、「あなたたちのことを助けたい・支援したいと思って学校に来ました、なんでも相談してください」と大っぴらに伝えることもしていません。悩みや不安を口にするのが苦手な子(実は私自身がそうです) が、「助けに来たよ!どんどん相談して!」と学校にずかずか入ってくる人に話をするだろうか?と考えたとき、自分だったらしないだろうな、と思うからです。

私たちが実際に学校に出向くときには、親でも先生でもない、誰なのかよくわからないけど時々来て近くにいる大人として、一緒に勉強したり、 ご飯やお菓子を食べたり、時には真剣に遊びに没頭したり、「暑くて身体が溶けそうだよね…よく頑張って学校に来たよね」とたわいもない話をしたりしています。

子どもたちと話すときに持っていくたくさんの食べ物を準備中

足を運ぶ回数を重ねる中で、だんだんお互いの顔がわかってきて
「最近どう?忙しい?」
「勉強頑張ってるね、今回の試験範囲難しくない?」
「アルバイトには慣れてきた?」
といった何気ない質問から 

実は最近ね…

と自分や家族の話を、少しずつ聞かせてもらえるようになってきました。

学校の休みの日にお父さんの仕事を手伝っている、兄弟が下に4人も5人もいて、毎日買い出しの手伝いをしている、 日本語が話せないお母さんのためにいろんな場所についていって通訳をしている、家計を支えるためにバイト代を親に渡している…話を聞いていると気になる状況にある子の姿が少しずつ見えてきます。

でも、その子たちは決して「悩んでいる、困っている」という様子を私に見せることはありません。その子にとって今家族のことを気にかけて支えているのは当たり前のことで、単純になくなってほしい苦労というわけではないからなのかな、と今は思っています。



この事業は、ヤングケアラーと呼ばれる子どもや若者の代わりに家事や介護、通院同行、通訳といった具体的な支援を入れて、その状況から脱出させるのがゴールじゃないの? と思われる方もいるかもしれません。

難しいのはそこなのです。周りから見たら大変な状況にある彼ら彼女らにとって、 家族を気遣い支えることが、その子の生きがいや家族への愛情に伴う行動になっている場合があるからです。

家事や家族の世話などを日常的に行っている子は、「家族が〇〇だから~する」という、家族を主語にした行動がどんどん生活の一部になっていきます。

「自分は何をしたいんだろう」「何になりたいんだろう」と考えることをあきらめていたり、それを頭に浮かべることすら忘れている子もいると、長年支援に携わっている方から話を聞いて驚きました。

まだ答えを見つけられてはいませんが、まずはその子自身が家庭を支えるために頑張っていることを認めてあげたいと思います。そして「自分がどうしたいか?」という質問から出てくる、できるだけ多くの選択肢を引き出して、どう生きていくのかをその子と一緒に考えていきたいのです。 

そのためには、「今の状況を話しても、この人なら聞いてくれそうだな、話してみようかな」と思ってもらえる存在になることが、私自身の目標です。簡単ではないし時間がかかることだけれど、そのために子どもたちの近くにいて同じ時間を過ごしたいと思うのです。

そして、必要な時に安心して「自分の話をしよう」と思える人に出会える居場所が、どの子にとっても、誰にとっても存在するような社会をつくりたい、というのが私の野望の一つです。


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ダイバーシティ工房は、「制度の狭間で孤立しやすい人たち」が、困ったときにいつでも相談できる地域づくりを目指し活動するNPO法人です。
アウトリーチ事業のほか、発達障害があるお子さんを対象にした学習教室、こども主体・保護者に寄り添う保育園、コミュニティカフェ、食料支援、自立援助ホーム、SNS相談の運営など地域の0歳~20歳の子ども・若者とその家族を主な対象に活動を行っています。

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