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【特別回】山形訪問感想会 ー工房めぐりを通じて感じ取ったこと

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-経緯-

昨年12月、私たちDiverSeaTokyoは1泊2日で山形県の8箇所の工房を回らせていただきました。

今回は山形訪問のメンバーである金子、江野本、横澤の3人による座談会をお届けします。


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一番感じられたのは「ものづくり愛」


江野本 やっぱり仕事でもあるものづくりが皆さん大好きって感じだったことが印象的かな。

横澤 そうだね。秋之野窯さんの「陶の街」シリーズの作品も、もともと余った材料で趣味として作っていたものがヒットしたって仰っていたよね。やっぱり根本にはものづくりへの愛があるんだなって思った。

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「陶の街」シリーズ(写真:フクモリオンラインショップより)


伝統工芸はみんな「ピンチ」なのか


横澤 そう考えると、学校とかで教わる伝統工芸は、後継者不足とかの問題ばかりが挙げられていた感じがするな。現状では「困っている人たち」みたいに一括りにして語られている印象があるかも。

金子 支援する側とされる側で問題意識が食い違っている場合があるかもしれないことを実感できたよね。勉強したこととかネット上の情報だけに頼るんじゃなくて、実際に現地に行って当事者と話さないとわからないことがあるって痛感した。

横澤 伝統工芸に携わる方々の多様性みたいなものが感じられたよね。工房によってそれぞれ困りごとが違ったり、そもそもあまり困っていると感じていなかったり。そういった伝統工芸側の実情もふまえた上で支援のあり方を考えなければいけないんじゃないかって思った。


サポートの難しさ


金子 支援について印象的だったのは、県庁で貿易振興のお仕事をされている大澤さんが、「県側としてもちろん工芸やものづくりをサポートをしたいけど、工房ごとに抱えている問題が違うし、公的な機関でもあるからどれか一つに注力することができない」って仰っていたことかな。その一方で、当然職人さん側も製作とビジネスをひとりで回していくことは難しいからサポートが欲しい。そこの乖離が歯痒かった。

横澤 だから和久井さんは山形工芸の会を作られたんだよね。団体としてなら公的なサポートが受けられるから。

江野本 平等な支援というのも難しいよね。自治体ごとに支援の質や量は変わるものだし、均等な支援をすることにこだわりすぎず、それぞれの工房に応じた柔軟な支援のあり方を作っていけるといいね。


伝統工芸を盛り上げる活動のあり方


金子 秋之野窯の神保さんに伺った、民藝運動*のお話も興味深かった。工芸とか民芸の美的価値を高める活動の結果、高級品みたいになって皮肉にも一部の人しか寄り付かなくなったっていう。
その一方で、やっぱり昔と違って今は人件費が高いし、どの作品も物凄く手間暇がかかっているから、高い値段になることも頷ける。それに値段の高さがブランドの価値にも繋がる。大衆化するには値段を下げる必要がある一方で、高い値段でないと商売が成り立たなくなるっていうジレンマがあるのかもしれないね。

*民藝運動 1920年代から始まった、日用雑器に美的価値を見出そうとした活動。(「アートスケープ」現代美術用語辞典ver.2.0参照)

横澤 何をもって存続とするかという問題もあるよね。売れていなくても一定の顧客がいるから良いとする人もいるだろうし、多くの人に受け入れてもらってこそ存続だ、と考える人もいると思う。それによって、どういった解決策が取られるか変わってくるんじゃないかな。
神保さんが民藝運動について問題だと考えていらしたのは、そうした違いをあまり考えずに、日用品であった民芸品をある種「高尚なもの」にしてしまったところじゃないかと思うよ。

江野本 神保さんの民藝運動に対する解釈みたいに、善意で始まったはずの運動が意図を超えた結果をもたらすことはよくあることなのかもしれない。これは伝統工芸支援に限らず、あらゆる活動において注意するべきポイントだと思う。


製作風景を見てー職人技は「魔法」ではない


金子 小松織物さんやオリエンタルカーペットさん、徳良湖の旭ガラスさんでは実際に職人さんの仕事が見れてとても良い体験になったよね。TVとかでよくみる職人技の紹介だと、魔法みたいに作品が完成していくように描かれることがあるけど、実際はとても地道な作業なんだなって感じた。例えばオリエンタルカーペットさんの手縫いのカーペット。繊細で難しい作業を1日中繰り返してやっと数cm進むくらいっていうのは衝撃的だった。

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手縫いの様子(写真:筆者)

横澤 TVとかでは工程をわかりやすく伝えるためにある程度の単純化は必要なんだろうけど、材料の調達や設備の管理などのあまりフォーカスされない大変さは実際にみて初めて実感できたな。それを知った上で出来上がった作品を見ると、そこから作り手の方の苦労や努力が伝わってくるように感じられた。

金子 実は山形訪問の前までは、工房で何が行われているかは動画で分かるしそれで十分だと思っていたんだけど、実際の現場とは全然違うね。良い緊張感のある雰囲気で、しかもそれぞれの工房で違いがある。それを肌で感じる経験ができて本当に面白かった。

江野本 それは本当にそうだったね。あと、実際の現場の良いところは商品とか機械を見たり触ったりしながら質問できるところだよね。米沢織の新田さんでは各工程で使われる織り機の見学を通じて新田さんの歴史についても沢山学べたし、成島焼の和久井さんのところでは材料の土から作っている様子を見せていただいた。旭ガラスさんの所でも、ガラスだけじゃなくて炉を焚いておくのに一番お金がかかることとかものすごく面白いことが沢山聞けた。そういうことを知ってから出来上がった作品をみると、その全てが価値として見えてくるよね。

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旭ガラスさんの工房の様子(撮影:筆者)

金子 それでいうと山形鋳物の清光堂さんでは一つ一つ鋳物の型をつくっていて全体のバランスを考えた円状のデザインがなされていたり上ノ畑焼の高橋美山工房さんとかでは物凄く繊細な絵が描かれていたりって、それがどのようにつくられるのかを知ってから見ると一つ一つの作品に職人さんの努力とか、人が見えるよね。


伝統工芸の価値を受け止める感性


横澤 例えば、ある工芸品と大量生産品が全く同じデザイン・機能を持っていたとしても、工芸品の方にはそれを丹精込めて作った人の存在がより感じられると思うし、それこそが工芸の価値だと思う。だから、その価値に気づけるような、消費者側の感性のアップデートも必要だと思った。出来上がったモノの裏側にどのような努力がなされているかを想像する力が必要なんだと思う。

金子 今回のような貴重な経験をさせてもらったから気づけたことの一つだよね。

江野本 僕たちの考え方は、少し効率化に毒されすぎているようにも感じる。「伝統」というと、すぐに時代遅れという連想が働きがちだけれど、そこには現代の感覚が理解しきれていないというか、置き忘れてしまった価値があるのではないかと疑ってみることは必要だね。

横澤 そうだね。さらに言えば、伝統工芸とかモノ作りに限らず、自分の身の周りにあるほとんどのモノの裏側には人がいるよね。そこに想像力を働かせて感謝できるような感性は大切にしていきたいな。

金子 機械化や都市化が進んで、そこに想像力を働かせるのが難しくなってきているのかもね。金額だけ見ている節があるというか。本当は、モノを通じてその裏側にいる人との繋がりを感じられることは素晴らしいことだと思うから、その価値を実感できたのは良かった。

横澤 機能性以外の情緒的な価値がその作品にあったとしても、私たちにそれを受け取る感性がなければいけないよね。今後はその感性を広めていくような活動ができたらいいな。

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山形訪問中、お世話になった和久井さん(右)と大澤さん(左)

(写真:筆者、場所:成島焼和久井窯)

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山形訪問でお世話になった方々(順不同)

山形工芸の会会長 成島焼和久井窯 和久井修様
JETRO山形 櫻澤健吾様
山形県庁貿易振興課 課長補佐 大澤享様
株式会社新田社長 新田源太郎様
小松織物工房代表 小松寛幸様
オリエンタルカーペット様
旭グラス工房代表 伊藤直仁様
高橋美山工房代表 高橋美山様
清光堂副社長 佐藤琢実
秋之野窯 神保寛子様・神保登様


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