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On the Road 〈前書き〉

3月、25歳の誕生日翌々日、昨冬に見限ったひとに会った。
そして「タイミング合わせて一緒にニューヨーク行く?」と言われた。まさに青天の霹靂である。

会った時はそんな言葉が来ることなんて予想だにしてもいなかった。そもそもニューヨークに戻る(2019年夏から約1年間住んでいたけど、コロナや大学卒業の関係で帰国)チャンスが、間も無く脱サラして大学院をはじめる新生活準備に追われていたあのタイミングでやってくるなんて、全くの計画外だ。

まあ、計画があるようでない人生なのだけど。
生まれてこの方、誰に似たのか突拍子もない人間で、親にも周りにも呆れられ、自分でも頭を抱えるほどの無鉄砲な生活に焦りと孤独を感じたりすることも多かった。

話を元に戻すが、なぜその人を昨冬見限ろうとしたか、なぜ春にはまた会うようになったかは私の中でしかわからないので省くけれど、もう未来はないと思っていた相手が、海の向こうで生活をしようと私に言い出したことがどこまで本気なのかがわからなかったし、むしろただ話の流れで冗談めかして言うことがあの場で彼にとっての正解だっただけなのではないかとか勘ぐって、言われたその瞬間は社交辞令的に考えとく〜と返した。

しかし解散して家で風呂入って布団に入っても、あの誘いがエコーのように頭に響く。寝て起きても続いた。
だから、ほんとに行って向こうでの生活を想像した、そしたらがぜんテンションがぶち上がってしまった(即時の反応が悪く、時差でアガるタイプ)。
向こうも社交辞令てきに誘ってしまったとしても、口に出して私に伝えた事実で招待は成立したわけで、じゃあそれにほんとにノってやったらどんな顔をするんだろうと思った。
そして起きてすぐ「連れて行って」と連絡した。

どんな返事が来るかとドキドキした。
相手にはそんな覚悟なくて、「まじ? あれは冗談」とか「まだ行けるかわかんない」とか返ってくるんじゃないかと思った。

それでもいいと思ったけど、そんなネガティブな予防線とは反対の明るい返事が返ってきて、嘘ではなかったらしく、また驚いた。
そこからどんどん話は進んだ。というか、英語が話せてニューヨーク経験のある私の「行く」という返事が、相手の中でもニューヨーク行きを決めた決定打だったかなと思ったりもする。自意識過剰かな?笑

人と行動を共にするというのはなかなかの覚悟がいる。
そして私は自分の突拍子のなさゆえ、これまでなにかについていくということができなかったから、自分で舵を取ることを強要されてきた。
この時代の女というものはそもそも自立性とか主体性とかを求められて、仕事とか頑張っちゃって、それでそんな強い彼女に何故だかベタ惚れで、全力でサポートする優しい優しい彼くんという構図ばかりが正しいように謳われるが、そんな男はもれなくつまらんので嫌いだし、私はただ思いつき行動が多いだけでそもそも優しいだけの男を連れようと思う器もない。
しかも、そういう関係で本当に辛い思いをするのは前に立たされる女1人で、結局相手は寄り添うとか慰めるとかにとどまり、本当の意味で一緒ではない(しかし多くの女が落ち込んだ時はただ共感が欲しいだけという人が多いのでおそらく私が異端、私を思って涙を流す男より一緒の視点で泣く男がいい)。

そんな中、私の思いつきよりさらに規模のでかい唐突な計画ができるという点で私より何枚も上手で、こんな時代に(しかも、私という掴みどころのない流動的な女に)「一緒に来るか」と誘える人間は、後にも先にもこの人しか居ないと直感で悟った。
私のやりたいことだけを全力で応援してくれる彼氏より、一緒に未来を作って支えあえて一緒に成長できるパートナーというのは、口で言うと簡単だけど、まあそういないものである。

周りから見ているとこの件も突拍子もない展開で、呆れる人もいるだろうけど、我々はどちらもそういう生き方が合っているのかなと思う。
ロマン全振りロマンチスト2名が同じ方向を向いて高まると、それはもう止まるところを知らない。

さて、ここまできてようやく今回のタイトルの話になるんだけれど、
この突拍子もないパートナーは「アメリカ横断しちゃう?」なんて言い始めた。
それを言われた時も、最初にニューヨーク行きを誘われたときと同じで、あまりの突然にびっくりしていい反応ができなかったんだけど、やっぱりじわじわその気になって、今はもうやる気満々だ。

アメリカ横断は西から東に行きたい。赤土地帯は西日がいいからね。
そんなことを考えて、とりあえずケルアックの「オンザロード」の洋書を買った。アメリカ横断といえばこれでしょう。
コロラドとかで夕陽を浴びながら読み耽りたいよ。

渡米はまだもうちょっと先だけど、彼は持ち前の人運を活かして向こうの生活を模索し、私は研究計画を書いて助成金を狙うと同時に英語も再勉強。
これまでの海外計画はみんな見守るだけで全部私がひとりでやってきたから、とても心強い。

こんな嘘みたいな人生あるだろうか?
こんな機会何があっても逃すわけにはいかない。
2人だと何でもできるね。
今まで夢見たことは夢で終わってしまったけれど、今回ばかりは全部実現できそうな気がする。

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