終章 アジア人としてのHip Hopとの交流

前章でも少し触れたが、日本におけるHip Hopというものは、未だアンダーグラウンドな印象が強い、好んで触れない限りは遠い存在ではないだろうか。筆者自身も、ニューヨーク市で生活するまではHip Hop文化とはほぼ無縁な生活を送っていたし、正直興味もあまりなかった。しかし渡米をきっかけに、その価値観は180度変わることとなった。ストリートアートにあふれた街並みを見ながら通学し、地下鉄に乗ると、車両中に響く音量でラップミュージックを聴きながらブレイクダンスをしている乗客に出会うことは全く珍しくなかった。現地の友人はほぼ全員ラップミュージックを嗜んでおり、筆者がニューヨークに来るまでHip Hop文化に馴染みがなかったことを言うと、みな口を揃えて「ニューヨークに来たならHip Hopを知らないと!」と言い、音楽をはじめとした様々な文化を教えてくれた。ニューヨーク市においてHip Hopは若者のライフスタイルである。Hip Hopに親しんでこそ、観光旅行だけでは知る由もなかったニューヨーク市の泥臭い魅力に気づくことができた。
「人種の坩堝」とも呼ばれるニューヨーク市では、アジア人は白人や黒人、ヒスパニックなどと同じくらいよく出会う。しかし、白人によって建国されたアメリカという国においては、アジア人は後発移民であり、その肌の色からもマイノリティに分類されている。コロナウイルスの第一次流行時には、アジア系に対する暴力を伴う人種差別がニューヨーク市各地でも散見されたことからも、アジア人には自身が特権階級ではない被差別側の人間だという意識を持った者が多い。
地理的な歴史を考慮すると、アジア系コミュニティとブラックコミュニティは元々近いものではない。しかし、2020年Black Lives Matter運動において、Gen Zが自身のライフスタイルをシェアする隣人の助けに答えようとしたのと同様に、アメリカという国で自身と同じマイノリティと分類されてきた人種である黒人に対する共感は、アジア人にとって運動に積極的に参加する理由の一つとなったのではないだろうか。

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