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サービス開始時の品揃えを決める

はじめに: 「1番バッター」の役割

新しいサービスを始める際、最初に提供できる商材や機能、キャンペーンといったコンテンツの選び方が、サービス立ち上げの成否を大きく左右する要点となります。この状況を野球に例えると、試合開始時に最初に打席に立つ「1番バッター」をどう選ぶか、という話に似ています。有能な1番バッターがいれば、チームは明らかに有利に試合を進めることができるのです。

「1番バッター」に期待される役割は、4番バッターの役割とは異なる

野球を少し知っている人なら、1番バッターは高い出塁率を持ち、盗塁が得意な選手が務めることが多く、序盤から積極的に得点のチャンスを作って、チーム全体の勢いを作る役割が期待されることをご存知だと思います。例えば、かつてシアトル・マリナーズで活躍したイチロー選手は理想的な1番バッターとして知られ、その卓越したバッティング技術と走塁でチームに数々の勝利をもたらしていました。

近年の野球は進化しており、打順についても様々な戦術が採られるようになりましたが、かつては、チームで最も強打の選手が4番バッターを務め、ランナーが出塁した際のチャンスで、一発のホームランなどの強打で試合を引っ張っていました。多くのチームで、4番バッターはファンから最も注目される存在で、その立場は特別なものでした。

先に述べたように、サービスを立ち上げる際の目玉コンテンツは「1番バッター」の役割に似ています。一方、サービスが確立し、多くのユーザが集まった後、ライバルとの差をつけるためのキラーコンテンツが「4番バッター」と言えるでしょう。

野球での1番バッターと4番バッターが異なる役割を果たしながらも、どちらもチームの成績に大きく影響する存在であるように、サービス開始初期と成熟期でのコンテンツ選びは異なります。そして、その選び方がサービスの成功の鍵となるのです。

この記事では、ビジネスにおける「1番バッター」の役割や、その選び方のポイントについて、具体的な例を挙げながら解説していきたいと思います。


ビジネスにおける「1番バッター」の例:スタバの日本上陸

1996年、スターバックスは日本市場に進出しました。現在では「Third Place」のコンセプトで、多くの人々から自宅や職場の次に利用する場所として親しまれているスタバですが、日本進出当時の姿は今と少し異なっていました。

1990年代における日本のコーヒー文化は喫茶店が主流で、中年のサラリーマンを中心とした客層が多くを占めていました。そして、コーヒーを楽しむ場面には、タバコが欠かせないというのが一般的でした。禁煙スペースを設けている店舗もあったものの、完全に全面禁煙の喫茶店はほとんど見られませんでした。

スターバックスは、日本上陸時に「カフェラテ」の大流行でカフェの位置付けを一変させた

そのような時代に日本に進出したスターバックスは、従来の喫茶店文化とは一線を画す2つのコンセプト、「カフェラテを主役にすること」と「全面禁煙の店舗設計」を打ち出しました。この新しいアプローチによって、従来の喫茶店を敬遠していた女性や若者を中心に、熱狂的な "スタバファン" が現れることになりました。

つまり、「カフェラテ」と「全面禁煙」という2つの斬新な要素が、スターバックスの日本市場展開の「1番バッター」として見事に機能したのです。

その後、スターバックスが日本市場での存在感を強化し、都心の一部地域だけでなく、全国各地に多くの店舗を展開するようになると、カフェラテと禁煙という初期のコンセプトだけでは十分に多くの顧客のニーズをカバーできなくなります。

そこで、定番のコーヒーから期間限定のスイーツドリンクまで、多種多様なメニューを提供したり、PC作業のために長時間滞在する際に役立つ電源ポートを設置したりなど、さまざまな取り組みを打ち出していきました。それらの取り組みが積み重なることで「Third Place」という現在のスターバックスのコンセプトが確立され、まさにスタバの競争優位性やブランドを圧倒的なものとする「4番バッター」としての役割を果たしたのです。

以上のスターバックスの「1番バッター」と「4番バッター」の例からも分かるように、新しいサービスを展開する際には、開始当初の「1番バッター」を4番バッターとは別の観点で正しく選ぶことが非常に重要であることがわかります。


「1番バッター」に求められる要素

本記事の冒頭で触れた通り、野球における1番バッターは出塁率が高く、盗塁が得意な選手が理想的です。それでは、ビジネスの世界で新サービスや製品をローンチする際の「1番バッター」には、どのようなコンテンツが最適でしょうか。

事業が成長段階に入る前には、サービスの名前や特色がまだ一般に知られていないません。そのため、まずは目立ち、試してみたくような「わかりやすい目新しさ」が大切になります。その目新しさがはっきりしているほど、ユーザはその新しいサービスのことを明瞭に意識するようになり、自らが体験した新鮮さを周囲の人達に伝えたくなります。

また「1番バッター」を通じて、新サービスがどのような価値を提供するのかのエッセンスを示すこと、すなわち「サービスコンセプトの体現」も不可欠です。例えば、スマートフォンが初めて市場に登場した際、その主要なコンセプトは「手のひらの上でPCの機能を使うこと」でした。そのため、多くの人がPCで日常的に行っていたブラウジングやメール処理を、手軽に実現できる特長が強調されました。

さらに、新サービスに触れたユーザがすぐにその効果を実感できるという「成果実現のスピード」も必須です。ユーザがその効果や利点を早期に体感できれば、そのサービスを更に継続利用したいと感じますが、一方で、ユーザはそのサービスに慣れていないため、すぐに効果を感じられなければ、続けるモチベーションを失ってしまいかねません。

3つの要件を考慮して、新サービスの「1番バッター」を定める

新サービスや製品の「1番バッター」を選定する際、上記の3つの要素を持ったコンテンツを選べば、ターゲットとなる消費者の注目を集め、成功に一歩近づくことができるのです。


まとめ ー 1番バッターについて考えてみよう

新しいサービスやプロジェクトを立ち上げる時は、非常に重要なタイミングであり、スターバックスが日本市場への上陸時に見せた「カフェラテ」や「全面禁煙」のような「優れた1番バッター」が成功に繋がります。

またその際、単に最も有力なキラーコンテンツではなく、「新しさ」「コンセプト」「スピード」という3つの要素を満たすコンテンツを1番バッターに選ぶことが重要です。

皆様も、この機会にご自身が関わっている新サービスにおいて、本来最初に打ち出すべき「1番バッター」は何か、改めて深く考え、チームで議論してみてはいかがでしょうか。それによって、更に新しい発見やアイディアが生まれるかもしれません。

成功への道は、正しいスタートから始まります。新しい挑戦や試みをスムーズに進めるためにも、本記事の内容を活かして1番バッターを正しく選び、成功に繋げてください。

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