誕生日を知らない超ブラック企業勤めの青年が慶應義塾大学への進学を目指した話 ⑧

2.現状

顔合わせの日から毎晩10分ほどではあるがダイキ君と電話にて進捗確認をするようにしている。きちんとやれと言ったことはやっており指導する側からすると非常にやりやすい生徒だった。質問事項があれば何でもメールで聞いてくるし、学習意欲と熱意があふれているいい学生である。しかしその中において気になる行動がちらほら出てきていた。

それは何かというと

「質問を全て手打ちしてメールで送ってくる」

ということだ。別にそれ自体はなんら悪いことではない、しかしスマートフォン(以後スマホ)が普及しきった2016年において、メールを手打ちして送るというのは非常に時間のかかる(コスパの悪い)行動ではないかと思う。スマホを持っていないにしてもガラケー(ガラパゴス携帯・フィーチャーフォンのこと)使いにしてもカメラ機能がついていないものを探すほうが難しいほどカメラ付き携帯電話というものは日本には普及しきっているにも関わらず頑なに文章を手打ちしたメールを送ってくるのだ。IT・広告系企業を中心としたキャリアを持ち面倒くさがり屋な自分からすると到底理解の出来ない行為である。この点を次回の指導の際には伝えようと決意し、週末に約束を取り付けた。

―2016年12月9日―

今回は模試を受ける時間がないというダイキ君の現状の学力をより正確に知るために様々なレベルの大学の過去問を用意している。彼の志望学部が法学部であったため、「亜細亜大学、日本大学、成蹊大学、明治大学、立教大学」の5大学の問題を持参し文法・長文問題を解いてもらい偏差値を推測しようと思っている。流石に前回の対話だけでは学力推定の精度が担保されず今後の指導内容・方針を決めることができないからだ。軽く全ての問題に目を通しどの部分を出題しようか考えながらに約束した駅へと向かう。個人的にはこの時間が非常に楽しい。

今回の待ち合わせ場所は喫茶店ではなく、某ファストフードと事前に連絡があったため、指定の場所へと向かった。すでにダイキ君は到着しており、参考書を広げて学習を始めていた。

手元には100円のコーヒー(お代わり自由)が置かれており、はた目から見ても集中している様子がうかがえる。こちらに気付く様子は全くないため、ゆっくりと近づき声をかけた。

「こんにちは。集中してるねー。」

こちらに気が付き、笑顔で返答する。

「あ、先生こんにちは」

相変わらずこの子の返事は気持ちがいい。

「おつかれさま。宿題きちんとやってきた?今日は色んな問題持ってきたからやってみてよ。」

「ありがとうございます!」

その返事とは裏腹に少し曇った表情を見せ、言いにくそうに言葉を発した。

「先生・・先生のことを疑うわけじゃないのですが、先生のことを社長やおじいちゃんに話をしたら「そんな人がお前なんかのために教えてくれるはずはない!お前は騙されてる!」と煩くてですね・・・先生のことは信じていますが、実力を証明してくれませんか?」

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