誕生日を知らない超ブラック企業勤めの青年が慶應義塾大学への進学を目指した話 ⑨

この言葉にはかなり驚かされたが、同時に、確かに信じられないよなという同意の気持ちにもなった。“元GAFAのキャリアを持ち激務で有名な広告代理店で働くサラリーマンが無償のボランティアに近い価格(交通費と喫茶店やファストフードでの食費)で勉強を教える“なんてことを聞かされたら誰でも怪しむに違いない、間違いなく自分であっても、このようなことを誰かから相談を受けたなら100%詐欺であると疑う。しかし、この件に関しては単純に完全なる善意で引き受けようと思っただけであって、これが別の子であったなら時給4000円はとっていたと思う。

 

「まあ、確かにそう思うよね」

思わず笑ってしまった。

「じゃあ、どうすれば実力の証明になるかな?一応、身分証明として名刺と社員証は見せられるけど・・」

 

ダイキ君は不敵な笑みを浮かべながら慶應義塾の過去問を私の目の前に差し出し、

「これ解いてみてください!お手並み拝見です!」

 

そういいながら見せたのは慶應義塾大学法学部2014年の英語の問題である。これは日本入試史上最高難易度と巷で有名である。どのくらいの難易度かというと、慶應義塾大学法学部法律学科の英語の平均点は90~120点(得点率45%~60%)で推移しているが、この年の平均点はなんと「68.54点」というもの。問題の難易度だけでなく単語も高校生の水準をはるかに超えている最悪の年である。よくYouTubeには英語のネイティブやTOEIC990点という英語の猛者にこの問題を解かせるという動画が上がっているが、軒並み間違いを生み出し正答率が90%程度になる。英語を専門とする人でさえ10%も間違えてしまうほど紛らわしい問題が連なっているのだ。(もし興味があれば一読していただきたい。)

このような高難易度であることを知っていたのかどうかは分からないが、生徒からの挑戦を引き受けねば沽券にかかわるため平静を装いながら返答した。

「わかったよ。じゃあ、おれがこの問題解いている間に、この指定した問題解いていて。」

と用意していた各大学の選抜問題を渡す。

 

「わかりました!」

歯切れのよい返事とともに時間をセットし問題を解き始めた。

 

私も手渡された問題集を開き解き始める。

 

15分後、

私は解き終わったことをダイキ君に伝える。

 

これまでにないような非常に驚いた顔を見せ、私の解答用紙を受け取る

「え!もう終わったんですか!?採点していいですか?」

 

そういいながら自分の解答作業を中断し、私の解答を確認する

 

「え・・すごい・・全部正解です。流石ですね!

感嘆と賞賛を交えた声を発しながら身を乗り出した。

これによって私の実力をようやく信じてくれたようにみえる。

 

「まあ、このくらいは当然だよー。外資系リーマンの英語力をなめてもらっては困るなー」

どや顔を見せながらにんまり笑う。

(どんなに英語ができる人間、ネイティブであったとしてもこの年の問題を15分で解ける者はいないと思います。事前に過去5年分の問題を解いており、答えを全て暗記していたのですんなり解答することができました。冷静に考えれば不可能であることは分かるのですが、目の前でさくっと解いてみせるというパフォーマンスによりダイキ君へスーパー家庭教師という印象を植え付けることに成功した。ちなみに現在も種明かしはしていない)

 

「先生に教わっていれば大丈夫だと思いました!頑張ります!」

 

そういいながら与えた問題の残りに取り掛かりはじめた。

多少騙してしまった感じはあるが、目の前で解いて見せたという事実には嘘や偽りはないため彼を信じさせるはこれで十分である。このまま信じていてくれたほうが今後の指導がやりやすくなるため真実は伏せたままでいようと決意し、彼が問題を解き終わるのを待つことにした。

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