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主人がいなくなって怒涛の日々だった。

9月の後半から続いた柿採りが、やっと目途がたちそうだ。

柿の面積は、嫁いできた当時に比べると、随分と減ったので、ここ数年は、楽になったな・・・と思っていたが、今年の柿採りほどしんどい年は、なかった。

義父が「よく頑張ったな」と称えてくれたが、「嫁いだ当時もしんどかったけど、こんなに疲れた柿採りは、はじめてですよ。あ~ぁ・・・疲れた」と、ついついこぼしてしまった。

柿採りが始まって半分が過ぎたたったころ、主人はお腹をかかえて、のたうち回った。

あまりの痛さに我慢できなかったのだろう。

はじめは病院へ行くことを躊躇していた本人が、私が病院へ行くことを勧めたこともあって、自ら運転する車で診療所へむかった。

私は運転できないし、柿採りをしている最中で、本人に任せるしかなかった。

しばらくして、畑に居る私に、アルバイトさんの携帯を通じて電話があった。

救急車のなかからだった。

緊急入院で、緊急手術かもしれん

一瞬動揺したけど、心のどこかで、すぐに帰ってこられるだろうと思っていた。

まさか、病院から電話があって、駆け付けざるを得ないことになるととは・・・。

仕事終わりの息子の車で、病院へ向かったのは日が暮れてからだった。

主治医の話しを聞くときも、しっかりしなきゃと、気持ちを奮い立たせて、手術の話しを聞いた。

傍に息子が居てくれて心強かったけど、我に返ると、まだ柿採りは、半分を終えたところ。

収穫するのは、渋柿で、うちは個人出荷しているので、脱渋の作業が必要となる。

脱渋庫にも、その日採った実がそのままだった。

脱渋するには、機械を触ることから免れない。
また、いろいろ注意点があって、その注意を怠ると、上手く渋が抜けなくなって、売り物にならない。

採ってきた柿を、マックス100杯ほど、一度に「炭酸ガス」と「アルコール」を入れて、脱渋庫で脱渋するその工程を、若いころ、「もしも」のことを考えて、主人に脱渋のやり方を聞いて、自分のマニュアルを作った。

いくつもの工程があって覚えられないと思ったのだ。

いつか、一度だけ、主人に代わって、脱渋に取り組んだことがある。

炭酸ガスと、アルコールを入れて、脱渋の工程に取り組むのだが、肝心の注意すべきことを読み飛ばし、脱渋に失敗した。

主人に大目玉をくらったのは言うまでもないが、「脱渋庫」の担当は主人と決め、私はそれから関わってこなかった。

主人が救急車の中で、「もう今年の柿は打ち切ろうと思う」と遠のいていたかもしれない意識のなかで、かすかに言った。

息子に無事に終わった手術帰りの車のなかでそういうと、

全部柿、採ったらな、来年ならへんのとちがうん?

確かに落葉果樹は、実を採ってやると、役目を果たしたと言わんばかりに、一気に落葉し、休眠期に入る。

放っておいても実は落ちるだろうけど、一年のサイクルや仕事の工程のことを考えると、きちんと実は採ってやるのがいいのだろうけど・・・

私は、主人が電話してきたとき、今年の残りの柿は諦めようか・・・と、少し考えていた。

どうしても、脱渋の工程がネックになるから。

それに、主人がいないなかでの柿採りを考えると、私の負担が想像できた。

その負担から逃げたい気持ちも正直あった。

だけど、息子の言葉に揺らぎつつ、帰路についた。

その日は、いろいろ考えすぎて眠れなかった。

次の日は、天気が悪くてちょうど仕事休みの日。

朝は、いつもより目覚めが早かった。

朝いちばん、私が取り掛かったのは、パソコンのチェック。

確か・・・見たような気がする!

「柿 ガス入れ」の文字を。

ついこのあいだ、パソコンの調子がおかしくなって、一部ファイルが消えていたのは知っていたけど、パソコンのどこかに保存されていた気がした。

探してみると、あっけなく見つかった!

microsoft のアプリで、保存されていたみたいで、随分昔に作ったそのファイルは見つかった!

だけど、そのファイルは開けることはできなかった。

ムリだろうけど、手を尽くしてみよう。

パソコンの知識は「無」に等しい私が、あらゆる手を尽くして、ファイルを開けようとした結果、「柿のガス入れ」のマニュアルはでてきた。

よっしゃー!(すごーい!あいたやん!)

どうせ、脱渋をあきらめていた実なんだから、ダメもとでやってみよう!

柿採りもやれるところまで、やってみよう!

ファイルがもし使えるようになって、マニュアルがでてきたら、これはきっと、「柿の脱渋」をしなさい!ということなんだろうな・・・と思って、パソコンを触っていたので、決意はできた。

脱渋の作業は、念のため、息子と確認の上していくことに決めた。


そこから、約一週間。


怒涛のような日々だった。

柿の脱渋をし、柿の選果をし、運送屋に運んでもらうために荷を市場積みし、時には柿採りをし、市場や運送屋へ連絡し、段ボールの手配をし、アルバイトの人と連携をとり、日当の支払いをし、柿を入れるための箱を折り・・・。

主人がいつもやっている、朝一番の犬の餌やりとフンの処理も忘れるところだった。

主人がいれば約半分の負担でよかったものが、私の肩に倍になってかかってきた。

考えることが多すぎて、髪の毛が百万本抜けた気がした。(そんなにないけど)

そして、ようやく柿採りも終盤を迎え、いちばん多く作っている品種のたねなし柿の収穫は、明日もう少しだけ採って終了。


脱渋の作業もあと一回。


最後の荷を送り出すまで、気は抜けないが、今回は、私ひとりが頑張る必要はなかった。

アルバイトさんが一緒になって働いてくれたのもそうだけど、平日は社会人、休日はバイクで乗り回すのが趣味だった彼が、頑張ってくれた。

大学生のときは、アルバイトがてら手伝ってくれた息子も、平日の仕事で疲れているのか、今年の柿採りは、どんなに忙しくても、見向きもしなかったのに、その時がくると、人が変わったように動き出した。

彼の頑張りがなければ、ここまでこれなかった。

・・・だけど、疲れた・・・


主人はもうすぐ帰ってこれそうです。













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