工務店CMOキャリアの裏側~地方工務店のマーケティング組織立ち上げエピソード~
「Discover CMO(ディスカバーCMO)」は、最前線で活躍する「マーケティング責任者の仕事を追体験する」をコンセプトとしたメディアです。
CMOを目指すマーケター、これからマーケティング組織強化を考えられている経営層の方々にとってヒントとなる情報をお伝えしていきます!
今回は、新潟で急成長する工務店「坂井建設株式会社/ディテールホーム」でCMOとして活躍する古川 和茂(ふるかわ かずしげ)さんの「キャリアの裏側」と「マーケティング組織立ち上げエピソード」をご紹介します。
ここから、マーケティング組織立ち上げをする際のヒントが盛り沢山であったインタビュー内容をご紹介していきます!
■マーケティングを組織に根付かせるために、最初にやることは?
ーー古川さんが所属されている会社のことを教えてもらえますか?
古川 和茂 (以下、古川) 「ディティールホーム」は、新潟県長岡市にある1948年創業の会社です。社名は「坂井建設株式会社」となります。
創業当初は土木事業を営んでおり、現在は、住宅事業がメインとなっています。
注文住宅、平屋専門店、コンパクトハウス専門店、リノベ専門店の4グループで事業を推進しています。どの事業もデザイン性を重視したブランドを展開していてなるべく規制品を使わずに、大工さんが1個1個仕上げ、オリジナリティ溢れる住宅を建築している会社です。
ーー現在の会社に入られたきっかけは?
古川 上京するまでは生まれ育った新潟にいて、学生時代は両親の家業を継ぐつもりで板前になろうと思っていたのですが、両親の勧めもあって高校は情報処理科に入学しました。そこで、プログラミングにハマって、気づけばITの世界に夢中になっていましたね。
上京してからは、ゼネコンの子会社でシステムエンジニアをやったり、BtoB向けのwebサービスの運営システム管理、広告代理店でレポートの開発、最終的にゲーム会社で開発やメディア運営をやってきました。2016年に家庭の都合でUターン帰郷することになって、新潟に帰ってきたことをきっかけに現在の会社へジョインしました。
ーーもともとはエンジニアをされていたのですね、新潟に戻られてからマーケティングポジションにこだわりを持って転職先を探していたのですか?
古川 職種はこだわりなく探していたのですが、たまたま今の会社と出会って、住宅のマーケティングってなかなか面白そうだなと思ったんです。住宅業界のマーケティングは1生に1回しか買わないものを買ってもらえる決め手を作ることがミッションになります。その面白さに魅力を感じてジョインしました。
ーー入社された時はすでにマーケティング部があったのでしょうか?
古川 入社時は、マーケティング部署は存在していなく、最初はWEBディレクターという肩書きでしたね。入社当時にWEBのことだけではなくマーケティング戦略から考える必要性を感じており、組織にマーケティング意識を根付かせるために、 「マーケティング部」の名前が欲しいとは思っていました。
なので、元々いたスタッフを巻き込み、自分からマーケティング組織をつくりたいと経営層に伝えました。
ーー自ら手を挙げられたのですね。経営層へのマーケティング組織立ち上げの合意は取りやすかったのでしょうか?
古川 入社して早々に、数字で目に見える成果を出せていたので仕組み化していくための合意は取りやすかったです。
この、成果を出した上で経営層に提言するという視点は今でも大事だと考えています。
ーー当時に経営層とどのようにコミュニケーションを取られたかを教えてもらえますか?
古川 経営陣は、デジタルに抵抗があったわけではないけど、やりたいという意思はすごくありました。ただ、具体的にどうしたらいいのか具体的にはよくわからない!という返答でした。
そこで下記3つの役割を担い、変化を伝えるようにしてきました。
創る(コンテンツを企画する、制作をする)
売る(集客をする)
仕組み化する(デジタルツール導入して効率化する)
あまり部分最適に走らないよう、経営全体にインパクトがある打ち手をとるようにしていましたね。
中でも力を入れたのはデジタルツール導入です。
業界で言ってもまだアナログ文化が根付いている環境で、入社当時は社内でFAXと電話が鳴りまくっていて、「今、FAX送りました!」っていう電話が来るんです。当時、メーリングリストもなかったので、全部クラウドに移行させて、承認系ワークフローや施工管理、コミュニケーションもちゃんとデジタルを活用するよう仕組み化して導入する旗振り役をするところから始めていきました。
ーー業務改善まで踏み込まれていたのですね
古川 かっこよく言うとCDO(=Chief Digtal Officer)であり、情報システム屋の役割も兼務していますね。業務改善の旗振りも担えると、集客面でも生産性面でも、両方にデジタルが浸透しやすくなるかなと思います。
業務改善の旗振りと同時に、経営者としては反響数が1番見えやすい資料請求を倍増させてくれというのが最初のミッションでした。当初の課題としては、毎月10から20件ほどしか資料請求数はありませんでした。経営層は集客数の増加が最重要と捉えていました。そこにしっかり着手して、3ヶ月で成果を出して経営層への信頼度を早々に獲得できたことが、スムーズに組織立ち上げができた要因だったと考えています。
■マーケティング=プロモーションにならないために
ーー古川さんが入社後に経営課題の全体を理解し、即成果を出す仕事ができたのは何が要因としてあるのでしょうか?
古川 両親が自営業で飲食ををやっていたことが大きいと思います。1番身近な人が、物理的にも近い場所で商売をしていたので、 お客さんが来る来ないっていうのもひしひしと肌で感じていました。全然お客さんが入らない時期も、もちろんありましたね。そうすると勝手に家族が全体的に落ち込むのが分かるんですよね。そう言った経験からお客さんが来ない状況が”怖い”という感覚があって。
(詳細は古川さんのnoteをご参照ください)
ーーこの肌感覚、すごく重要ですよね。
古川 マーケターは職業柄、いくら投資して、どのぐらいお客さん来たのか、費用対効果を高めることが重要だと考えています。マーケターとして数字の原因分析をして、なんでこの数字が上がったのか。なんで、この数字が下がったのかと仮説を立てていくことは大事です。成果に一喜一憂すのではなく、背景を探るマインドセットを持った方がいいと考えています。費用対効果を高める感覚を、子供のころから身体で理解できたことは恵まれていたのかもしれません。
ーー日々のマーケティング業務の中で工夫をされていることはありますか?
古川 外部環境やKPIの定点観測をして仮説をつくることは意識しています。例えば、最近の住宅市場や住宅ローン減税、法改正などを調査しながら、流入元ごとに立てた戦略がしっかり動いてるかを、数値で観測します。各施策ごとの反響数や商談率や歩留まり率の変化を把握しながら投資する媒体を判断しています。じっくり調査してから動くのではなく、まず動いてみて定点観測して、数字を見ながら予算のバランスを変えたり、要因を探ってから変化をつけるようにしています。
ーーそのほかに、経営とマーケティングをつなぐために工夫されていることを教えてもらえますか?
古川 弊社の経営層がもっとも気にしてるのは2点です。
1.新規顧客の獲得状況はどうなっているのか
2.対前年、月対で変化はどうなっているのか
経営層が重要視している指標を認識あわせをすることは怠らないようにしています。
今年2022年の住宅業界はコロナショック・ウッドショック・円安ショックの影響を受け全体的に集客状況が厳しいなと感じてはいます。その中でも会社としてモデルハウスは投資額が大きいため経営層は注視しています。特に経営陣が今1番気にしている指標を意識して報告するようにしています。
–ー具体的にどのようにマーケティング戦略の全体像を伝えているか教えてもらえますか?
こちらのマーケティングKPI管理の全体図のように考えています。
ーー長期的に効いてくるブランドの認識を作っていく部分についてはいかがでしょうか?ブランド施策などは考えられているんでしょうか?
古川 基本的に、この図に沿った家づくりの欲求度を、大きく4つに分けたとして原則、明確層・顕在層・準顕在層・潜在層と上から下へ攻めるようにしています。
大手との戦いになると資金力とは戦えないので、我々規模の工務店からすると、顕在層や準顕在層が1番戦いやすい 領域になってくるので、しっかりお客様の認知獲得を目指しています。
一方で、家づくりの検討期間って6か月から1年と検討期間が長いため明確層を狙うのはもちろん、同時に顕在層や準顕在層も狙っていかないと、事業が成長しません。、そのため潜在層をナーチャリングしていくことが、あわせて重要となります。
ーーこの認識合わせては、どれくらいの頻度で行っているのでしょうか?
古川 経営層からは一任してもらっています。
経営層との信頼関係は構築できていて、細かい打ち手のすり合わせは必要ない状態となっています。
組織にマーケティング思考を根付かせるために
ーーチームにマーケティング思考を根付かせるために意識していることを教えて頂けますか?
古川 チームメンバーには、仮説でいいから、なぜこの数字が上がったのか、下がったのか、週1にメールでの分析報告を出してもらうようにしています。感覚的な意思決定をなくすためのトレーニングはチーム全体で行うようにしていますね。
ーー日常の業務とも紐付けながら、常にその仮説を考える。この変化の因果関係が何かを読み解いていくことを思考習慣としてやられているんですね。
古川 そうですね、なるべく業務に紐づく形で、学びをセットにするようにしていて、学びだけを目的にしないことを意識してます。
ーー実施してきた施策で、印象に残っているエピソードはありますか?
古川 施策だけが刺さったのは、あんまりないですね。Facebook広告は早くから成果を出すことができました。工務店業界は当初は競合は出稿をしておらず、その中で試行錯誤しはじめて、ノウハウが溜まったというのは成功要因なのかもしれないですね。
ーー先行して仕掛けていくことを意識して取り組んだのですね。
古川 数字を見て代理店さんと話していく中で、どうやら競合とぶつかってないと気づきました。やってみたらそういう状況だったのねとわかり、もう少しアクセル踏んでいきましょうかっていうような感じでした。
データ主義なのもあって、データを見て、注力する場所を決めて検証を繰り返してるだけなんですよね。そういう意味では、あまり自分の先入観を信じすぎないようにしています。
例えば、広告に出すクリエイティブも、弊社の社員は内観の写真を出したがるんですけど、実際にABテストを何回かすると、外観の方が圧倒的にクリック率がいい結果が出ました。その時は、内部の声は聞かずに、外観で行きます!って押し切り成果につなげてきましたね。
マーケティング思考を組織に根付かせるためには、徹底的にデータと向き合い因果関係を読み解いていく思考が大事だと考えています。
■これからマーケティング組織を立ち上げる方へ向けて
ーーこれからマーケティング組織を立ち上げられる方々へのアドバイスをお願いできますか?
古川 これはnoteにも綴っているんですが、お伝えしたいのはこの3つです。
①専任担当者を設ける。(決意と覚悟)
②その担当者に権限を委譲する。(勇気)
③経営者自らがデジタルに接する。(慣れる)
まず、専任担当者を設けるという決意と覚悟が必要です。会社の規模によってもできるできないはあるかもしれないですが、専任担当者を設けることで自社のことを本気で考えられる自社の社員が益々本気になると思います。
代理店に外注してもいいんですけど、 本気度は絶対違います。
なので、専任担当者を持つことは重要だと思います。
2つ目は、権限委譲してもらうためには、最初に成果を出さないと難しいかもしれないですけど、任せちゃう勇気もまず必要かなと思います。
あとは、経営者自身がデジタルにまず慣れ親しんでもらわないと選任担当者とのコミュニケーションが成立しなくなるので、しっかりデジタルに触れていって欲しいです。じゃあ、経営者に何触ればいいのという話をよく聞かれるんですけど動画を見るからでもいいので、なるべくデジタルに触れてくださいねと伝えるようにはしています。
■顧客起点で考える
古川 できるだけ消費者側になるという点も大事だと考えています。工務店なので、家を建てる経験は何度も経験することではないのですが、今回たまたま私は家を建てることになったので顧客起点で考えるきっかけができましたね。
ーー古川さん自身が顧客体験をされてみて、いかがでしたか?
古川 やはり違いましたね。この打ち合わせの進め方はきっとこのポイントでつまづくんじゃないかなとか、こういう感情を抱くんじゃないのかなみたいなところを見つけることができて。色々気付きが出てきたので、それを改善につなげていきたいなと思えました。自社の商品を使う側になってみることは本当に大事ですね。
その他にも、顧客を理解するためには「お客様の声」のコンテンツ制作をマーケティング部のメンバーで作成することを重要視しています。
実際、弊社で家を建てられたお客様のところに行き、取材させていただいて、弊社の何が決め手だったのか、そもそもなんで家作りを考えられたのか、声もしっかり集めながらマーケティング戦略に反映させていくようにしています。マーケティングは迷ったら顧客に立ち返ることは大事だと考えています。
古川さん、貴重なお話をありがとうございました!
マーケティング組織立ち上げポイントまとめ
古川さんのお話しから、マーケティング組織立ち上げのポイントをまとめます。ぜひ、自社のマーケティング組織づくりにも活かしていただけたら嬉しいです!
1. 経営層とマーケターの間で、重要指標・施策の認識を合わせる
2. 部分最適ではなく全体最適で考え続ける
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次回もお楽しみにお待ちください!
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