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『デイヴ・グロール自伝』刊行にあたって~個人史と文化史

とても個人的な文を書こうと思います。

2022年11月30日にDU BOOKSから『デイヴ・グロール自伝 THE STORYTELLER 音楽と人生――ニルヴァーナ、そしてフー・ファイターズ』という書籍が発売されました。この本については、企画のご提案から編集までやらせていただきました。

フー・ファイターズのフロントマンであり、元ニルヴァーナのドラマーのデイヴ・グロール。古き良きロックを継承しながら現代のシーンを牽引するトップランナー、と個人的には思っています。もちろんスタジアム・クラスの超がつく世界的ロック・スターなわけで、彼が自伝を発表するというニュースを見たとき、「こんな本出るんですよ」とDU BOOKSさんに一報を入れました。

ありがたいことに興味を持ってもらえたので、企画書を提出してしばらく待ちました。何ヶ月か過ぎて、そろそろ企画のことを忘れていた頃(汗)、なんと出版契約獲得のお知らせが。当然のごとく、何社かの競合だったようですが、最終的にはデイヴ本人のご指名でDU BOOKSに決まった、と聞いています。とても珍しいことだと思います。

さて、自分がデイヴ・グロールのことを知ったのは、やはりニルヴァーナの『ネヴァーマインド』が大ヒットしたときです。自分にとってのニルヴァーナは、いきなり彗星のように現われてスターダムに駆け上った、摩訶不思議な存在でした。まだグランジなんて言葉が浸透していなかった1991年のこと。自分は中学2年生で、目も当てられないほどに生意気が盛っていました。

当時のロック・シーンはLAメタルの末期。『ミュージック・ライフ』誌の表紙は、ガンズ・アンド・ローゼズ、スキッド・ロウ、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックなど。そんな時代に、着飾ることもなく化粧もしない人達による、メタルでもダンス・ミュージックでもないサウンドがチャートを駆け上る、というのは実に奇妙な現象でした。

自分は、まあとにかく新しい音楽に飢えていたので、話題沸騰の『ネヴァーマインド』を買ってみました(当時、中学生だったので、お小遣いのやり繰りはとても大変)。「ブリード」とか「テリトリアル・ピッシングス」とか、そういうテンポの速いアグレッシヴな曲が好きでしたね。速弾きのギター・ソロがない、というのも新鮮でした。

もちろんそれなりに聴き込みましたが、次第に興味が薄れ、ソニック・ユース、ボアダムズを通り、灰野敬二さん、メルツバウ、ソルマニア、マゾンナ、暴力温泉芸者といった実験/ノイズ/スカム方面へ向かい、学校帰りに明大前のモダン・ミュージックに通う薄暗い青春をおくりました(辛笑)。読む雑誌も『ロッキンオン』『クロスビート』から『Gモダーン』『ミュージック・マガジン』になって、世間ずれまっしぐらです。

一方、ニルヴァーナはいわゆるトップ・アーティストとなり、『イン・ユーテロ』や『MTVアンプラグド』などをリリースしていったわけですが、その頃の自分はアングラ信仰の真っ最中だったので、熱心には聴いていませんでした。

その後のニルヴァーナは、カート・コバーンの急逝により終焉を迎え、残された二人はどうするのかな、と思っていたところ……デイヴ・グロールは、なんとフー・ファイターズという自身のバンド(当時は実質的なソロ・プロジェクト)を始めるというではありませんか。しかも、本職(と自分は思っていた)のドラムではなく、ヴォーカル&ギターとしてフロントに立って。

正直、自分には趣味的な活動に映りました。が、その間抜けで失礼千万な感想とは裏腹に、デイヴはフー・ファイターズをはじめとする数々の活動で、〈ロックを継承しながらロックを推し進める〉なんていう、真っ当でいて実に難しいことを地道に続け、世界中のロック・ファンに再認知されたわけです。

ジョン・ポール・ジョーンズ&ジョシュ・ホーミとのゼム・クルックド・ヴァルチャーズで2009年に来日した際、一度だけデイヴのインタビューをさせていただいたことがあります。ロック・スターを鼻にかけるなんて素振りは微塵もなく、真摯で愉快で気遣いあふれる人でしたね、パブリック・イメージそのままで。この人柄だからこそ、レジェンドから若手まで繋げてこれたんだなと納得した次第です。隣にいたジョンジーを生で拝めたのも、いい思い出。

そのとき、久々にデイヴのドラムをじっくり聴いて観ることができたわけですが……いや、びっくりしました。もちろん、ヴァルチャーズの音源でも素晴らしい演奏を聴いていたわけですが、なんといっても生で観たときの迫力です。まさにロック・フィールの塊。ロックのイデアみたいなものを、絶えず積み重ねてきたではと思います。それも、70年代にレッド・ツェッペリンで世界を沸かしたジョンジーと、90年代以降オルタナティヴ・シーンのカリスマとして君臨するジョシュをパラレルに結んだ舞台で。

〈伝承と推進〉の凄みを見せつけられました。以降、音楽家としても演奏家としても、デイヴの活躍には敬意をもって注目してきたつもりです。

というわけで、『デイヴ・グロール自伝』を編集するにあたって、デイヴの音楽活動の素晴らしさに至るまで遠回りしてしまったことについての罪滅ぼし的な気持ちがありました。実際に読んでみると、パンクへの開眼、スクリームのドラマーに大抜擢されたこと、ニルヴァーナでの壮絶な体験、ロック・レジェンド達との邂逅・交流、家族や友人たちとの絆といった体験が、すべて〈円〉になって繋がっていることが分かります。洒落じゃないですが、デイヴのすべての〈縁〉が〈円〉になって、ロック文化を繋げ、広げ、進めているみたいな構造が見えてきました。

スルッと読むと一個人の体験談を淡々と綴っているようにも見えるかもしれませんが、ロック文化という世界的な現象をいかに突き動かしてきたのか、という視点をあわせてみると、〈個人〉と〈文化〉の相互作用に驚き感動するばかりです。比べるのも激しく僭越ではありますが、末端編集者としての自分の仕事もどこかの誰かにつながっていくといいな、とも思います。

もしも興味を持ってもらえたら、ぜひ本書『デイヴ・グロール自伝』をご一読ください。

あ、お笑いも満載なので、ご安心を。


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