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プロゲーマーの一歩手前

子供の頃からゲームは好きだった。最初にやったゲームは確か64のスマブラ。何回かするうちに周りでは一番強くなっていた。どんなゲームでも。

小学生のある日に従兄弟の家を訪ねると、全く知らない、想像もできないゲームをパソコンでしていた。俯瞰じゃない自分の視点も分からないし、どうやって銃を撃っているのかも分からない。何もかもが分からなかった。それがネットゲームとの出会いだった。

最初にやったゲームはFPS。何回やっても勝てない。ゲームも好きだが何より勝つことが好きだったんだと思う、だからやめた。そして他のネットゲームをやった。MMORPGもやったし。DSのゲームにもハマった。でもなぜかやめたゲームに戻っていた。勝てないゲームに。

塾や水泳教室から帰ると、リビングにあるパソコンの前に座る。電源を点ける、ゲームを起動する、負ける、負ける、負ける、負ける、勝つ、負ける、負ける、負ける、負ける……

小学校の中学年。通話を知ると、親にねだって買ってもらった1500円ぐらいのヘッドセットで話すようになった。チームのメンバーのことで知っているのはゲームの名前だけ。本当の名前も年齢も出身も分からない。自分が小学生だったからか、それが心地よかった。

半年も経たないぐらいで勝てるようになり、高学年になると勝率も上がり、キル厨にもなった。

その頃から漠然とプロゲーマーになりたいと思うようになっていた。

中学生になっても変わらなかった。もらって貯めたお年玉を渡してパソコンを買ってもらった。キーボードやマウスも。

部活から帰ってくる。自分の部屋にあるパソコンの前に座る。ヘッドセットを着ける。電源を点ける、ゲームを起動する、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、負ける、勝つ、勝つ、勝つ、負ける……

高校生になると勉強と部活でやる時間と体力は無かった。それが功を奏したのか、公立大学生になった。バイトばかりしていた。時間はあったが、ゲームの人口も減っていたし、何より一緒にやっていたメンバーはもうやっていない。ゲームから離れつつあったある日、大学の喫煙所で友達が言った。面白いゲームがあると。

そのゲームもまた普通ではなかった。あまりやったことのないTPSで、建築要素もある。もちろん勝てない。今までで一番勝てないゲームだった。今思えば、勝てなかったからこそ、またゲームに夢中になったのかもしれない。

大学生になり、一人暮らしになっていたので狂ったようにやった。4人だと勝てるし、結構強かった。だが1人だと勝てない。今までのゲームで一番やっているはずなのに勝てない。言い訳もしたくなった。勝てなかった。

公式大会が発表された。初めて意識して本気でプレーするようになった。するとこのゲームでも勝てるようになった。動画を見て研究するようにもなった。さらにのめり込んでいった。でも大会では勝てなかった。色んな大会に出ても、結果を残せなかった。

ある日、また大会に出た。決勝戦は東京でオフライン。オフラインというのは憧れであり、そのゲームでトップの人が立てる場所というイメージだった。予選に出た。そしてまた、負けた

悔しさは感じなかった。トップを目指すのは疲れる。もう心は走り終わろうとしていた。

オフライン大会の2日前にメールが届く。繰り上げ通過だった。体は走り終わろうとしていなかったんだと思う。いつ繰り上げ通過になっても良いように予定は開けおいていたし、準備もできていた。そして初めて優勝した

初めて人前で熱くなった。初めて怒り以外でヘッドセットを投げたし、初めてインタビューもされた。カッコつけたつもりが後から見るとダサかったからもう一回やりたい。ロッチ中岡と言われたのも初めてだった。結構似てると思ってしまった。

人生で初めて何かを成し遂げたと思う。不真面目だったせいで名門大学に入ったわけでもないし、スポーツが上手いとも言えない。何もなかった自分にやっと認められる物ができた、そう感じる。

ゲームをしていると碌なことがない。勉強に身が入るわけがないし、運動神経も良くはならない。親にも怒られ、目も悪くなり、課金してお小遣いも無くなる。

ゲームをしていると良いことがある。それに優勝は関係ない。上手でも下手でも関係ない。リアルの世界で順調に生きていてもいなくても。ゲームが好きな人は分かる。分からない人は是非やって感じてほしい。

プロチームのトライアルメンバーになり、次は義務としても何かを成し遂げなければいけない。みんなが良いと思う選択をしたかどうかは分からない。けど自分が良いと思う選択はした。そんな選択の仕方は初めてかもしれない。ゲームに初めてのことをこんなに取られるとは思っていなかった。ゲームからはいつも新鮮な何かを貰っている。でもそれが自分らしいかもしれない。

勝つまで負ける日々がまた続く。また走り始めようと思う。負けた自分が誇らしくなるまで。

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