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(静岡)県警の津波避難ポスター 警察官も安全確保第一

(2023年5月17日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)
画像は静岡県警ホームページより
※2023/06/05一部加筆修正

 1月、県警が津波避難標語のポスターを公開した。「地震だ!津波だ!さあスタート!」のタイトルとともに、ポスター下部に「警察官もみなさんと一緒に避難します!!」の文言が示され、警察官のキャラクターが人々の先頭に立って高台の避難場所に走るイラストが描かれていた。筆者はこのポスターに深い共感を覚えた。

 このポスターに対しては、「市民を救助すべき警察官が先頭に立って避難とは何たることか」といった見方があるかもしれないが、筆者は共感できない。警察官など「人を助ける」立場の人であっても、災害により生命に危険が迫りつつある場面においては、まずは各自の安全確保を図ることが第一だと考えるためだ。

 警察官と若干立場が異なるが、消防団員については東日本大震災時に254名もの団員が犠牲となったことを契機とし、2012年に総務省消防庁の検討会が「津波災害にあっては、消防団員を含めたすべての人が『自分の命、家族の命を守る』ため、避難行動を最優先にすべきであり、消防団員が自らの命を守ることがその後の消防活動において多くの命を救う基本であることを、皆が理解しなければならない」と強調している。全くその通りと筆者は思う。

 災害時の「共助」の重要性は否定しない。しかし、たとえ「共助」が目的でも「人を助ける」ために無理な行動をとって命を落とすようなことは防がねばならないと筆者は考える。近年の風水害では、民生委員や自主防災的な活動中とみられる住民の犠牲者も散見される。注意すべきは警察官、消防団員などにとどまらず「すべての人」だろう。

 地震災害の場合は危険性が最も高まるのが災害の最初の瞬間であり、「人を助ける」場面は危険性がやや低下した後となることが一般的である。一方、津波災害や風水害の場合は、危険性が次第に高まって行く経過をたどり、そのタイミングで無理に「人を助ける」行動を取ると、それによる犠牲が生じる可能性がある。災害の種類により状況が異なることにも注意が必要だ。

 このあたりは意見も分かれやすく、個々の現場では苦悩する場面も多いと思う。「正解」はなく、「まずは各自の安全確保が第一」と言うしかないのでは、と筆者は考えている。

【note版追記】

 記事で取り上げた静岡県警のポスターについては、1月にポスターが公表された直後にツイートしました。

静岡県警のホームページにあるポスターの所在地はこちら。

 言わなければならないけど、警察という「公助」側の立場からは言いにくいであろうことを、よく言ってくださった、という気がして、いささか感動したものです。

 今回の記事でもっとも言いたかったことを更にはっきりした言葉で書きますと、「助けに行く立場と思われがちで、訓練も受けているプロの警察官であっても、災害時にはまずは自身の安全確保が第一。ましてや民間人は『人を助ける』以前に自分の安全確保が最優先でしょう」ということです。

 「人を助ける」という言葉に対し少しでも否定的な意見を言うことは許せないと思う人もいるでしょう。意見は分かれるところだと思います。「助けに行った」人を非難する気持ちは持っていません。しかし私は、災害にともなう危険性が高まりつつある状況下において、他人に向かって、「助けに行くべき(助けに行くことが正しく、とるべき行動だ)」とは言いたくない、と考えています。

 「助けに行く」事の危険性が、地震災害と津波災害・風水害ではいささか異なることも「わかりにくい」ところだと思います。地震災害では、もっとも危険性が高い(無防備でいるところを不意打ちされる)状況が、発災時のまさにその瞬間に生じる事が基本で、「助けに行く」のは発災後に危険性の存在が共有された中であり、いわば「構えて」行動できる可能性があります。一方、津波災害・風水害では、発災前の、目の前では格別危険があるとは思えないような状況下から「助けに行く」事ができうるものの、その状況が急変してもっとも危険性の高い瞬間に遭遇してしまうという可能性がつきまといます。発災後の対応が基本の地震災害と、発災前の対応が大いにありうる地震災害と津波災害・風水害では、話が変わってくるところがあると思います。

筆者作成

 なお、記事中で取り上げた総務省消防庁「東日本大震災を踏まえた大規模災害時における消防団活動のあり方等に関する検討会」の報告書はこちら。引用文は11ページにあります。

https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/h24/2408/240830_1houdou/01_houkokusyo.pdf

 今回の記事と同様な趣旨のことを、以前に民生委員の遭難例を挙げて書いています。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。