見出し画像

避難情報ガイドライン 頻繁な改定より普及を

(2021年06月10日付静岡新聞への寄稿記事。写真は避難情報のガイドライン改定に影響を及ぼしたと思われる主な風水害事例、筆者撮影)

 市町村が出す避難情報の発令基準などを整理した、内閣府「避難情報に関するガイドライン」が5月に改定された。2019年3月に「警戒レベル」という概念を導入した改定後の運用にもとづく意見などを踏まえ、約1年半の議論を経ての改定である。

 5段階の警戒レベルのうち住民等に直接的な行動を呼びかけるのは警戒レベル3からで、基本的な構造は変わっていない。警戒レベル3は「避難準備・高齢者等避難開始」が「高齢者等避難」となった。高齢者など避難に時間がかかる人は行動を起こすタイミングだ。これは「お年寄りのためだけの情報」ではない。災害の危険性がある場所にいるすべての人が「普段の行動を見合わせ始めたり危険を感じたら自主的に避難するタイミング」である事も明記された。

 警戒レベル4には「避難勧告」「避難指示(緊急)」が含まれていたが、「避難指示」に一本化された。危険な場所に居るすべての人が何らかの避難行動をとるタイミングだ。一本化の背景は様々だが、勧告と指示の違いが分からないとの声はかなり以前からあったが、近年これらが積極的に出されるようになり、わかりにくいとの課題が顕在化したとも言える。また、勧告の上に指示があると理解されたが故に、指示を待って行動という弊害が見られてきたことも挙げられる。一本化については、検討過程でも意見が分かれたところだ。

 警戒レベル5は「緊急安全確保」。すでに災害が発生し、避難所等への立退き避難は推奨できず、その場で安全確保を図ることを呼びかける情報だ。必ずしも発令されるものではなく、この情報を待って行動では遅すぎる。「避難所へ行く」との連想を防ぐ意味で、名称にはあえて「避難」という言葉は使われていない。

 筆者は10年以上前から避難情報の見直しに関わってきた。災害の教訓を踏まえた見直しは悪いことではないが、近年はほぼ2年ごとに改定が繰り返されている。災害情報はそのの送り手・伝え手・受け手が理解・活用しなければ効果を発揮せず、そのためには手間も時間もかかる。頻繁な改定はそうした作業をその都度振り出しに戻すことにもつながりかねない。しばらくは、改定より普及と活用に注力した方がよいのではなかろうか。

【note版追記】

 避難情報の改定について、900時の字数制限の中で短くまとめた投稿記事です。避難や避難情報についてのこれまでの筆者の考えは、下記マガジンにまとめてあります。

 今回の記事では、避難情報や防災気象情報の頻繁な改定、新設に疑問を呈する点を少し強調しました。避難情報に関して、ごくざっくりとした年表を作ってみるとこんな感じになります。

20210602静岡防災情報

 技術の進歩、いわゆる「教訓」、様々なニーズに応えて情報を改善していくこと自体は悪い話ではありません。しかし、既存の情報が認知・活用されているとも言えない中で、次々に新たな情報を作っていくことは、本当によいことなんだろうか、私たちはそれについていけているのだろうか、などと思っています。

 静岡新聞「時評」欄へ寄稿した過去記事については下記にまとめています。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。